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501/516

501 犯人はどう出る!?


 俺はガスパルとミルコを振り向いて「行ってくる」と告げ、カブとともに世界樹の穴に入っていった。


 俺とカブが入って1時間ほど経ってから、犯人の男を世界樹の穴に突っ込んでくれと二人には言ってある。


 朝作った弁当ももちろん持っている。これは奴への最後の情けだ。じゃ、入るか。




 ……。




「カイトさん、起きました!?」


 穴に入って意識が回復すると、まずカブの声が聞こえてきた。


「おじさん?」


 ん?この声は……ケイか。


 俺はぼんやりとしていた状態から完全に覚醒し、覗き込むように立っていたケイの顔を見上げた。


「おっすケイ。ダッカンも一緒か?」


 本来ならダッカンが世界樹の見張り番なハズだ。しかし、奴の姿は見えないな。

 するとケイは苦笑いを浮かべてこう言った。


「あーアイツね。ここの監視役クビになっちゃったのよ。監視の仕事サボって自分の魔術修行してたのが王様にバレてめちゃくちゃ怒られてたからね。で、今は私が代わりをやってるってわけ」


「ぶははっ!アイツめ……たしか小屋の中で瞑想してたみたいだからな。そら怒られるわな」


 俺は思い出したようにケイに報告した。


「あ、そうそうケイ。前言ってた俺を刺した犯人が見つかったぞ!もうじき世界樹から放り込まれてくるハズだ」


 一気に鋭い顔付きになるケイ。


「安心しろ。ロープでぐるぐる巻きにされた上に衰弱しきってるから危険は全くない。それは断言できる」

「そ、そうなんだ……でも、その人ここに連れてきてどうするの?」

「最後にチャンスをやるんだ。それでダメだと判断したら王城に引き渡す!その判断の際にお前にもちょっとだけ協力してもらいたいんだ」

「なになに?何でも言って、おじさん!」


 ケイは強気な笑みを浮かべると、前のめりになって話を聞いた。



 ……。



 犯人が世界樹から出てきたのは、それから2〜30分後のことだ。


 ――スッ、ドサッ。


 それまで和やかに笑っていたケイの顔が一気に引きつる。


「この人が犯人……!?」

「ああ、俺の住んでた故郷にいた奴だ。ケイ、火の魔法使えるか?」

「あ、うん、余裕」


 俺は犯人の意識が回復するまでの間に、家から持ち込んだ()()()を焼く作業を始めた。


 大きめの石を4つ集めて金網をのせ、その上にしっかりと下処理をした身の大きなサンマを3匹置いて準備完了だ。


「ほんじゃケイ。火の魔法頼むわ。焼けたら一緒に食おうぜ!」

「やった。たのしみー!」



 ――ボボーーッ。


 グリルの中火から強火ぐらいに調節されたケイの火の魔法が3匹のサンマをあぶってゆく。


 しばらくすると、炙られたサンマから脂が滴り落ちてきて、美味そうなサンマの匂いが辺りに立ち込めてきた。


 ――パチパチ……パチ……。


「うわーすっごい、いい匂い!美味しそう……」

「絶対美味いぞ!」


 ちなみに俺は魚の中でサンマが一番好きだ。ふふふ。


「カイトさん!僕匂いセンサーとか味センサーがないので分かりませんが、見た目からして美味しいんでしょうね!?」


「おう!めちゃくちゃ美味えぞカブ。お前も人間だったら食えたのにな」

「その代わり僕はガソリンが食べられますよ!」

「そ、そうだったな……」



 そんな与太話をしているうちに、サンマにいい焦げ色がついてきた。そろそろ頃合いだ。


「おっけーケイ、もういいぜ。ほんじゃサンマ食うか!」

「やった!いただきまーす!」




 ――ガツガツ。

 ――ハムッハムッ。


 ……うめええええ!

 金網にのったままのサンマに醤油を振って、俺とケイは一気に貪るように食らいついた。


 ケイは箸が使えないので事前に俺が身をほぐしてやった。これでフォークで食えるだろ?こんな美味いもんをしっかり味わえないのは辛すぎるってモンだ!



 そして気付いたら2匹のサンマはなくなっていた。ふー、ごっそさん!


「あー……めちゃくちゃ美味しい魚だったなー。ありがとカイトおじさん!」


 ケイが満足そうに微笑みながらお礼を述べる。

 芋みたいにこっちにもサンマを輸入してやりたいけど魚は難しいだろうな。



「……ぐっ……」


 そのとき、犯人の男がうめき声を上げた。


「!?」


 それを聞いたケイは予定通り小屋へと走る。

 さて、ここからが本番だ。


 俺は男の縄を解いてやり、サンマを焼いていた場所でタッパーに詰めた飯を用意した。


「おい、腹減ってんだろ?遠慮なく食えよ」


「……!?」


 男はサンマの匂いに吸い寄せられるようにヨタヨタと歩いていき、用意された飯にかぶりついた。

 猛烈な勢いで食うかと思ったが、胃が縮こまっているのか男はなかなか完食できずにいた。

 だが俺は辛抱強く待つ。この後が大事なんだ。


「ふぅー……」


 久々の飯を食ってさすがに安心したような顔でまどろむ犯人だった。本題を話そう。


「おい、お前に言っておくぞ。あの向こうに見える王城に行け。王様にはお前が犯罪人だって話は通してある(嘘)からそこで罪を償え。多分いつかは出してくれるだろう。それから心を入れ替えて自分の夢なりを叶えろ。分かったな?」


「……」


 男は何の感情もないような顔をして俺を見上げた。


「分かってるかもしれんがこの辺はモンスターも出る。これで自分で対処しろよ」


 俺は男の前に剣を置いた。



「あと、腹は満たされたと思うが王城まで行く体力はないだろうからこれをやる。食え」


 俺が渡したのはお馴染みの万能薬、ムロッチだ。

 男の前にポンと放り投げると、男は即それを口に入れた。


「むっ!!うおおおおお!!」


 男は一気に立ち上がり、体を動かした。この辺は皆と同じ反応だ。よし。



 そして俺は不自然に犯人に背を向けて、カブと打ち合わせ通り適当な話を始めた。



「い、いい天気ですねカイトさん……」

「おう」

「た、体調はどうですか……?」

「どこも悪くねーぞ」

「そうですか……はは……」


 何だこのぎこちない会話は!?

 カブの奴、緊張してんのがバレバレじゃねーか!


 そんな感じで、俺は一切後ろを振り向かないで立ったままでいる。

 さて、男はどういう反応を示すだろうか。



 !?



 俺は背中に異変を感じて振り向くと、男が渡した剣で俺の背中を刺そうとしていた。


「あーあ……」


 俺は少し悲しくなり、哀れみの目で犯人を見つめた。


 剣で刺されたハズなのにピンピンしている俺に、化物でも見るかのような視線を送る男。


 ――パキーン!


 そして男は更に力を込めるが、剣の方が折れてしまう。


 男はそんな得体の知れない強さを放つ俺に困惑し、その場から逃げ去ろうとした――。



 ――ガロロオオオオオォォォン!!


「待ちなさい!犯人さん、あなたには改心の見込みがありません!もはや情け無用!!」


 超パワーのカブに一瞬で先回りされ動きが止まる。


「す、すまん!俺が悪かっ――」



 ――ドッゴォオーーン!



「もう遅い」


 そんな男に拳を叩き込むと、男はグニャリと体を曲げて面白いぐらい上空まで吹っ飛んでいった。



 はあ、やっぱりどうにもならん人間というのは存在するのだ

 そんな自分の考えにさらに自信をもつ結果となり、俺は本当に少し悲しくなった。


 ま、一件落着……かな。


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