㊿ みんな集まる
カブの感想は俺が昔感じた事と同じだった。
「耕運機……、そうだよ。カブの1速は本当に耕運機だよな!」
「いやー、確かにトルクは凄い頼もしいですけどオンロードの街乗りだと、これ……ストレス溜まりません?カイトさん」
「おう。間違いない!信号で停まって発進する度にもうちょっと伸びてくれって思ったわ。だから今まで16丁に替えてたんだ。いやー今のこの感覚、懐かしいぜー!」
俺とカブが語り合いつつずっと1速で広い庭をぐるぐると走っているのを、
「何が楽しいねんコイツら……」
といった顔でターニャは見つめていた。
「ちょっとここから山道往復してくるな、ターニャ。芋頼んだぞ!」
「うんー!」
――ブゥゥゥウウウン!!ジャリジャリジャリッ。
俺は例の荒れた山道を下っていた。その中でまず感じたこと、それは――。
「うはっ!エンジンブレーキ強え!!ちょっと感覚取り戻すの時間かかりそうだ!」
「わっ。本当ですねカイトさん!これ……ブリッピングのタイミングも16丁のときと違うんじゃないですか?」
「ああ。だがタイミングは違うけど、こっちの方がシフトダウンが滑らかに繋がる!」
などとマニアックな話をしつつ山道を下りていく俺達。
そのうち一番斜度のきつい坂を通過した。
「よし、ここらでUターンするぞ!」
「はい!」
ザザッ。
俺はその坂をちょっと眺めた。以前、階段状になっていた部分をスコップで掘って平らに均した所だ。
「よし、行くぞ!」
ドゥルルルルッ、ジャリジャリッ!
おおっ。やっぱり今までのカブとは別物のようなトルク感だ!
現代では扱いにくかったカブの1速が今はかなり頼もしく感じる!
ザッ……ザザッ、ドゥルルルルルー。
軽やかに坂を走破するカブ。
「おおっ!これなら軽油8缶満載でも登れるかも知れんな」
「そうですね。このタイヤはグリップ力が優秀なので行けるかも知れません!」
「よっしゃ、急いで戻るか!」
「はい!」
わずかな時間とはいえターニャを一人にしとくのは怖い。
――といった感じでカブの走り心地を確認した俺達は再び家に戻って来た。
すると焚き火の前にいるはずのターニャの姿が見えない!?
そして替わりにデカい絨毯のようなものが転がっている……あ!よく見たらウチの番犬の犬だった。
そしてもっと目を凝らすとデカい犬の胴体にターニャが腕を広げて埋まっていた。
「もっふもっふーー!」
ターニャは笑顔を浮かべ犬のモフモフ感を堪能していた。
犬は犬で自分の頭をターニャに擦り付けたりして遊んでいた。
「きゃはっ、きゃははっ!!」
とりあえず仲良く戯れる奴らを見て、俺は安心した。
「おっす。ターニャ、遊んでもらえて良かったな」
「おじ。おかえりー!」
「おおっ、カイト殿。お帰りなさい!てっきり何処かへ行かれたのかと……」
「ん、ちょっとカブをカスタムしたから試運転に行ってただけだ。犬よ、お前本当にウチの家の近くに居るんだな……」
「ええ、たまたま機械の彼――カブ殿でよろしかったかな?……の音が聞こえました故、留守番をするつもりで駆けつけた所でごさいます」
うーむ。なんちゅう忠犬っぷりだ。
俺、そこまで恩を売った覚えはないんだが……。
「でも犬さんが近くに居てくれるおかげでこの家の守りは固くなりますね!感謝してます!」
「ありがとうございます。これからも周辺の警護はお任せください。カブ殿」
カブは明るい声で犬に感謝を伝え、犬もそれに応えた。
……ここで俺はふと思った。
そういや犬ってものなんかアレだな……。
「よし、お前に名前を付けてやる!番犬だから『バン』な」
「光栄でございます。そのようにお呼び下さい」
バンは凛々しい顔のままそう答えた。
何と言うか、紳士的で大人びているな。カブとはタイプが違う――などと、人でなく言葉が通じると言う所は共通していたため、つい比較してしまうのだった。
「バン!よろしくー」
そういいつつもターニャはまたバンの腹に顔を埋める。
「よろしく、ターニャ殿」
バンもそれに答えるように顔をターニャにスリスリしている。
「……ん?そういや芋はどうなった?ターニャ」
「出来たよー!!」
ターニャは焚き火からちょっと離れた場所に3本の芋を置いていた。
「柔らかくなった?」
「うん!3つとも、ぐにゅってなる!」
「よし、じゃあ食うか!俺は甘いのはそんなに得意じゃねえから一口だけでいいや」
「……のこりは?」
「お前にやる」
「ういーー!!おじ、ありがとー。……じゃああと一つは?」
俺はカブをチラッと見た、すると――。
「いや!僕は食べられませんよ!!分かってると思いますけど!!」
「知っとるわい。犬……バン。お前さんは芋食えるか?やっぱり肉しか食わんか?」
「いえ、私も芋は好物です」
「じゃあ残りの一個はお前にやるから食えや」
「ありがたき幸せ!」
俺はアルミホイルを芋から剥がし、芋を2つにパカッと割った。
フワッ……。
白い湯気が芋の断面から立ち上る、うおっ。芋別に好きじゃねえけど普通に美味そうだな。
「ほら、ターニャ」
「うん!」
ターニャはニコニコしながら芋を受け取り、パクリと一口で皮ごと食らう!
確か皮も食物繊維が豊富で体に良いんだったな。よしよし。
「はふっ……はっ、はふっ……」
どうやらまだ熱いようだ。
「ふーふーして冷ましながら食うんだぞ。そんで焦げた部分は捨てとけよ」
「うん……ふーっ、ふーっ……」
パクッ……一口ずつ芋を頬張る度に表情が緩むのが見てて面白い。
「バン、ほら。ちょっと熱いと思うけどよ」
「ありがとうございます……熱っ!わ、私はしばらく冷ましてから頂きます……」
俺は笑顔でうなずいた。
ふとヤマッハの方角を見つめると、もう日が落ちてきれいな夕焼け空が広がっていた。
「あー、のどかだ……」
なんというか、ここで今、この秋風に吹かれながらボーっとしているだけで気持ちがいい……穏やかで清らかな気分というか……。 とにかく心地よくてたまんねえ。
この世界、好きになったぜ。
「よし、今日は風呂を沸かすぞ。風呂場洗ってくる!」
「行ってらっしゃい!カイト殿」
「ターニャもいく!」
「芋食い終わってから来いよー、ターニャ」
「うんー!」
「カイトさん。また後で僕にガソリン入れといて下さいね!」
「おう!もちろんだ」
「カイト殿。ご馳走様でした。美味しかったです。それでは私は山に戻ります」
「おうバン、お前もご苦労さんだぜ。じゃあな」
なんかこの家もちょっと賑やかになってきたな。ふふ。