498 かかったか!?
その日は夜も遅いしミルコ達には一旦帰ってもらうことにした。
「えっ!?俺まだまだ穴掘るっすよカイトさん!もし今夜また犯人がきたら……」
「いや、今晩は俺が厳戒態勢で玄関で寝て見張るわ。カブには世界樹を見張ってもらう」
――パパッ!
「任せて下さい!僕は人間と違って疲れませんから!!何か異変があったらホーンですぐに知らせます!!」
ここでターニャが張り切ってこう言った。
「おじ、私も戦う。玄関で寝る!」
「えっ?いやお前は普通にセシルと一緒に寝てろ。危ねえぞ?」
「やだー!おじとカブを守る」
お前は守られる側だろ?
するとセシルが近づいてきてターニャを抱きしめた。
「ターニャ、一緒に寝よう。あなたはエルドを守ってね?」
そして、セシルは背中で眠っていたエルドを前に抱きかえてターニャに見せると、ターニャはハッとして態度を変えた。
「う、うん……犯人をしばくのはおじとカブにお任せする。私はエルドを守るね!」
そう答えてエルドの寝顔に顔を近づけてニヤつくターニャだった。俺はちょっと安心して会社の皆に告げた。
「明日には穴を掘り切る。あとは仕掛けを作って完成だ。あ、これ、今日の分の賃金払っとくな」
俺は皆に1000ゲイルを手渡した。
「あざまーっす」
「ありがてーぜカイトォ!」
「明日もちゃんと掘りにくるからね」
「わーい♪」
「ありがとうカイトさん」
皆嬉しそうな声を上げてそれぞれのバイクで山を降りていった。
俺は夕飯時にセシル達を安心させるために「絶対大丈夫だから心配しなくていいぞ!」と強く念を押しておいた。
セシルは笑っていたが絶対内心怖がっている。そういう奴だ。
ターニャは逆に犯人をやっつけようと思ってるが、いざ来たら絶対爆睡している。
そういう奴だ。
飯を食い終わり、世界樹の前に掘った穴の2〜3メートル後ろにカブを停車させておく。
「よし、これでいいかカブ?」
「はい!バッチリです」
「頼むぞカブ、まあ今晩犯人が来るか来ないか全く予想つかねえけど」
ぶっちゃけ多分来ない気がするが……まあいい、宣言通り今晩は玄関に布団敷いて寝よう。今日はもう疲れた。
剣と犯人捕縛用の縄を横に置いて廊下に敷いた布団に入る。
すると俺は数分で眠りに落ちていった。
……。
ハッ!
俺が目を覚ますとすでに辺りは明るくなっていた。予想通り結局犯人は来なかったようだ。
起きて小便をすませカブの様子を見にいくと、カブはいつものテンションで俺に報告してくる。
「カイトさん!誰も来ませんでしたよ!!」
「だろうな。基本的に強盗に入った家に翌日また来る泥棒なんていないからな」
「つまらないですー!!」
「……いや、そういう問題じゃねーだろ」
カブといいターニャといい、犯人をボコボコにしたがる奴が多いな。
「っつーか、もしかしたら二度と来ない可能性まであるぞ」
「あ、そ、そうかもですね……!」
でも、万一俺達が留守のときに来られてセシルやターニャが刺されたらと思うと気が気でない。俺の精神安定のためにもこの罠は確実に作っておくぞ!
この日はセシルを見送ったあと、入れ違うようにスーパーカブ油送の皆がやって来た。
「やりますかカイトさん!」
「よっしゃあ、やるかー」
「掘るぞオラァー!!」
皆、やる気満々で落とし穴掘りに挑んでくれた甲斐あって夕方ごろには深さ3メートルの大穴を掘ることができた!すげー。
しかし俺はさらなるクオリティを追求した。
「この落とし穴だとまだ犯人がよじ登って来るかもしれん。角度をつけるんだ!」
「角度?」
「落とし穴の入口の面積より穴の底の方の面積を広くするんだ!」
極端に言えば三角フラスコみたいな形だ。そういう形に掘るだけでこの落し穴が途端に脱出不可能な監獄と変す!
「なるほどな!じゃあ底の広さを拡大すりゃあいいんだなカイト!?」
「そうだ。出るにはハシゴがなきゃ無理な穴を目指すぞ!」
「了解っす!」
――ガッ、ガッ!
掘った土はバケツに詰めてハシゴで登って外に捨てる、深さが増すにつれて作業難易度は上がっていくが、あのCBトンネル掘削を経験した俺達には屁でもない!
そしてとうとう、一度落ちたらほぼ脱出不可能な穴が完成した。よっしゃー!
「皆、お疲れさん。仕事でもねーのに手伝ってくれて助かったぜ」
「いやー、ちょろいっす。ははっ」
「余裕だぜ。なあ?レジーナ」
「余裕なわけないでしょ……!?あんたらと一緒にしないでくれる」
各々落し穴の完成に満足気な表情を浮かべている。
本当は上から石が落ちてくるような超攻撃型落し穴も考えたが、たとえ犯人だろうとガチで死なれたら後味悪いしシステムの管理も面倒だ。この辺が落とし所だろう。
「おおー、おじ凄い!皆すごーい!」
たった1日ちょいでこんな大穴を掘った俺達を、ターニャは感心するような顔で見つめていた。ふふ、大人の力を見たか!
「言っとくけどターニャ、あんたこれ絶対落ちゃだめだからね?普通に死ぬから」
ほう、レジーナが珍しくターニャの心配をしているぞ。
「落ちないもーん!ターニャそんなにドジっ子じゃないもーん」
そう、実際今まで一緒に行動してきて分かったがターニャは運動神経がいいだけじゃなくて危険に対する感覚も鋭いのだ。
……ってかよく考えたら、事あるごとに俺が「こういう所は危ねーぞ、気をつけろ!」と言って教え込んできたからかもしれん。
俺は皆に日給を払ってその日はそれで解散となった。
しかしこれでやっと安心して眠れるぜ!
そう思ってそのまま1月ぐらいが経過すると、やっと本格的な秋が近づき涼しくなってきた。
そろそろまた日本に戻る時期だな……と考えていたある日のこと。
俺とターニャがカブで自宅に帰ってきて、確認のために落とし穴を覗くと――!!
うおっ!だ、誰か落ちてる!?
そいつの顔を見て……俺は血の気が引いた。