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496 長期戦だ!


「ケイ!何をするつもりだ!?」


 ダッカンはマットを庇うように立ち塞がりながら、攻撃の意思を見せたケイに問う。


「決まってるでしょ。ソイツを王城に引き渡すのよ!」

「いやいやケイ氏。落ち着いて下さい。私は犯罪人ではありませんよ!?」

「そうだ!マットはただ世界平和を実現させようとしているだけなのだ!我もその意志に共感し力を貸そうと決意した。ケイ、我は騙されているわけではないのだ!!」



 あー、なんかやべえな。このままだと魔法バトルが始まっちまいそうだ。

 俺は自分を刺した犯人のことはとりあえず置いといてこの場を収めることにした。


「まあ待て待て!まだマットが犯人と決まったわけじゃない。ケイも落ち着け」


「……う、うん。ごめん」




 皆、一旦冷静になってくれてホッとしたが、どこから調査していくべきか――あ!

 俺は一つ思い出してダッカンに歩み寄った。


「なあダッカン。お前、ゴーレムの代わりに世界樹の見張り番やってんだろ今?犯人が世界樹に入ったときに気づかなかったのか?」


 するとダッカンからアホみたいな言葉が返ってくる。


「ふっ、我は精神修行で目を閉じて瞑想していたから何も見ていないのだ!」

「見張りの意味ねえじゃねーか!?」


 ――バコォッ!



 俺が軽く突っ込むつもりで背中を叩くと、ダッカンは壁を突き破って吹っ飛んでいった!

 あっ、しまった……。


 当然小屋の壁には大穴が開いて、俺はそこから外に出て慌ててダッカンの行方を追う。


「ぐぐ……」


 よかった、生きてた。


「すまんすまん!大丈夫か!?」


 俺は焦ってダッカンに肩を貸して立ち上がらせた。



「す、素晴らしい!」



 俺とダッカンの元へ駆けつけ、そんな言葉を吐くマット。ん?素晴らしい??

 するとマットは、吹っ飛ばされたダッカンの目の前で力説した。


「カイト様。今の一瞬で理解しました。あなた様のその力……おそらく全ての魔術師を上回るかもしれません!是非私達の同志となり、お力を貸していただきたい!」


 うわっ、なんて薄情な奴だ!本当に力だけが欲しいんだなコイツは。


「無理に決まってんだろ!っつーかお前、少しは仲間のダッカンの心配をしろよ……俺が言うのもなんだけど」


「わ、我のことなら心配いらぬ!自分の責務を放棄していたから……い、因果応報というものだ」


 まあそれは事実ではある。ダッカンがちゃんと見張ってりゃ俺は刺されてない。



 ……そのあと、ダッカンが一人で立てるのを確認した俺は要点を話した。


「まあとにかく俺は自宅にいて刺されたわけで、人を刺すような奴が世界樹から出てくるんじゃ怖くてまともに生活出来ないって話なんだ。俺だけならまだいいが妻子もいるし」



 ――ガロロオオオオオォォ……!


「カイトさん!」


 カブが一瞬で距離を詰めてきた。ん?

 カブは俺に近寄り、俺だけに見えるようにタブレットに何やら小さめの文字を表示させた。



「根本的な解決策じゃないんですけど。しばらく僕を玄関じゃなくて世界樹の前に置いたらどうですか?僕は寝たり疲れたりしませんから!」


 おお、カブが自ら監視カメラを志願してくるとは。

 そんなカブの目はいつも以上に真剣だった。よし!


 ここで俺は一つの()()を思いつき、そして決めた。長期戦だ!



「まあこのまま話してても犯人も見つからないし、俺達は一旦スズッキーニに帰るわ。ケイ、ダッカン、それと一応マットも皆仲良くな」



「カイトおじさん……ターニャによろしく言っといてね」

「カイトさん、力なれずすまない……」


 ケイとダッカンは少し名残惜しそうな表情を浮かべて、お互いの顔を見合わせた。


 一方、マットは二人とは違う性質の残念そうな顔で俺をまじまじと見つめていた。

 最後にカマかけてやろう。


「マットよ」


「はい。何でしょうカイト様?お力を貸していただけるのですか?」


「そ、それは嫌だ。話変わるけど、スズッキーニの飯って美味えよな?」


 マットはキョトンとした顔をして答えた。


「そうなのですか?私は食べたことがありません。是非いただきたいですがね」


 その挙動に違和感はなかった。うーむ、冷蔵庫を漁って食料を盗んでいったから引っかかるかなと思ったが……もしかしてマットの奴、本当に犯人じゃねえかもな。



「帰りますかカイト殿?」


 ずっと小屋の外で待っていたバンが聞いてくる。


「おう、ちょっと考えがあってな。一旦帰ってちょっとした作業をするわ」

「承知いたしました!」


 おっと!あとこれを言っとかないとな。


 俺はケイとダッカンを近くに呼んで小声で()()()()をして、マットには秘密にしておくように告げた。



 ……。



「うん、分かったよカイトおじさん。っていうか多分こっちから行くことほとんどないけどね。ふふ」

「了解した!もしこちらで犯人を捕獲したらその手筈で……」


 二人共気前よく了承してくれた。これであとは帰って作業するだけだ!



 俺はケイ達に手を振って、カブとバンとともにドゥカテーをあとにした。




 ……。




 …………。




 今回は三人(?)一緒に世界樹の穴に入り、自宅裏の世界樹の前で揃って意識を回復させた。ふう、異世界転移も慣れたもんだ。



 俺はまずカブに話しかけた。


「カブよ、ちょっと考えがあるんだが」


「はい!何でしょう!?」


「お前が監視カメラみたいに見張っててくれるのは嬉しいんだけどよ、俺とカブが家を出張ってるときもあるだろ?」

「あっ!そ、そうでした……!」


 俺は自信満々な笑顔で言った。


「だからよ、いつ誰が転移してきてもいいようにここにでっかい()()()()を掘るぞ!!」

「ええーーっ!?お、落とし穴ですかあ!!」


 カブはもちろんバンも驚いようだ。


「そ、それはまたなんとも大掛かりな罠ですな……」

「ああ、人が落ちたら這い上がれずに死ぬレベルの深めの穴だ。いつ犯人がやってくるか分かんねーから持久戦だよ。ケイやダッカンにはちゃんと警告しといたから安心だ」


 もしやはりマットが犯人だったらぶん殴って王城につき渡すぞ。なんか違う気がするけどな……。

 そしてカブはちょっと考えた末、その目を輝かせた。


「い、いいかもしれません!でも僕らが落ちないように気をつけないとダメですね!」

「それはもちろんだ。厳重に杭を打って有刺鉄線で囲うし、当たり前だがターニャやセシルにもちゃんと説明する!」

「分かりました!じゃあ掘りましょう」



 といっても一人じゃかなりきつい……スーパーカブ油送(ウチ)の奴らに時給500ゲイル(2000円)で声かけてみるか!


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