494 犯人を捕まえるぞ!
――ガツガツ。
背中の痛みを必死で抑えながら俺はムロッチを噛んだ。口の中にムロッチの柔らかい餅のような感触が広がり、そしてそれを飲み込んだ。
む!?
「うはははははっ……あいたたたっ!」
家の廊下で笑いながら芋虫のようにのたうち回る俺。
「カ、カイトさん!?痛いのか楽しいのかどっちなんですか!?」
「両方だ!ぐぐっ……ト、トータルで評価するとまだ痛みが上回るぜ!痛ててっ……」
これは本当にそうで、ムロッチで痛みが麻酔みたいに消えるかと思ったがそうでもなかった。
……でも、痛みは確実に少しマシになっている気はする。俺はしばらく止血のために横になることにした。
……。
「カイト殿、体調はいかがでしょう?」
「……うん。刃物で2〜3センチぐらい刺されちまったけど深くはない、体感だけど背筋で止まってて内臓は無事だ。バン、カブも心配かけてすまねえな」
「あー良かった!カイトさんが無事で何よりです!」
「私も安心しました……そのような賊に気付かず、申し訳ありません」
俺は背中に気を使いながらゆっくりと体を起こした。血は固まって出血は止まってくれたようだ。良かったぜ。
「……っ!」
やっぱり背中を伸ばすと痛い……しかし何とか動けるぞ。ムロッチ(プギャ芋)の効果は凄えな!
俺は感心しながらカブに聞きたいことを聞いた。
「カブよ、俺を刺した奴は世界樹からドゥカテーへ逃げたんだよな?どんな奴だった?」
その質問にカブは非常に悔しそうな顔を見せて答える。
「はい!格好はドゥカテーの世界の魔術師みたいな感じでしたよ!動画撮ろうと思ったんですけど咄嗟のことで出来ませんでした!すいません!!」
やはりあっちの人間か、しかも魔術師……こりゃあドゥカテーでなんか起きてじゃねーか?
俺はそのまま体を恐る恐るひねってみた、するとさっきまであった痛みはかなりマシになっていてちょっとビックリする。
これもムロッチの効果なのか、単に刺され方が良かったのか……とにかく俺は安堵するとともにこれからのことを考えた。
「……カブ、ドゥカテーに行くか」
そういう俺をカブは真剣な顔で見つめ返す。
俺は続けた。
「あんな奴が世界樹から出てくるんじゃ、この先自宅に安心して住めねえからな」
俺ももちろんだがセシルやターニャなんかは輪をかけて怖いだろうし、エルドもいる、これは最優先で必ず解決しないといけない問題だ!
「もちろん僕はカイトさんに付いていきます!」
「カイト殿。私も微力ながらお手伝いさせていただきたいと思っております。カイト殿は私の第二の主でもありますゆえ」
「そうか、ありがとな」
俺はやっと笑顔を見せ、この場にターニャやエルドを連れてこないで本当に良かったと改めて思った。
――ちょっとトラブルがあってしばらく時間がかかるかもしれんが必ず帰る――
そんな書き置きを食卓に残して外に出ると、俺は世界樹の穴の前に立って、あることを思い出した。
「そうそう、バンも覚えてるかも知れないけど(198話)、ここからあっちの世界に行くとしばらくの間意識が飛んじまうんだ」
「そ、そういえばそうでしたな!……しかしそうなると――」
「ああ。全員一緒に入るのはかなり危険だ。いくら俺やカブの身体が強くなるとはいえな」
「あっ、たしかに!皆で向こうに行って世界樹の近くに犯人がいたら、意識を失ってる間に今度こそ刺し殺されるかも知れませんしね!」
俺は真剣な顔でカブに指令を出した。
「っつーわけでカブ、まずお前が先に入ってくれ」
「了解です!で、後からカイトさん達が来る……と!?」
「そうだ。お前の意識が回復するぐらい時間が経ってから俺とバンも入る」
「了解です!あっちの世界で強化された僕の車体なら、ちょっとやそっとじゃ壊れませんからね!!」
2〜30分意識が飛ぶのは、たとえカブであっても同じだ。その間に攻撃を受けても一番平気なのがカブである。一応金属の塊だからな。
そうと決まれば善は急げだ。最近、世界樹の穴はそんなに頻繁に光らなくなっているからチャンスは今しかない!
「じゃ、カイトさんお先に行ってきまーす!」
まずはカブが世界樹の光る穴に吸い込まれていった。
そして時間が経って、予定通り俺とバンも光る穴に入った。
……。
…………。
意識が戻ったとき直ぐ側にカブが停車していた。そして俺とバンはほぼ同時に目を覚ます。
「おおっ!」
俺は驚いた!それまで感じていた背中の痛みがほぼなくなっていて、代わりに体中に溢れ出すようなエネルギーが充満しているのが分かったのだ!
ふははははっ!やっぱりこの世界は凄えな。
「あ、目が覚めましたかカイトさん!?どうしました?」
「ドゥカテーにいるからか背中の痛みが全くない。こりゃ良いわ!」
「よ、良かったです!」
「うぅ……ハッ!?こ、ここは以前も見た景色……む!」
バンも立ち上がり辺りを見回す。そしてあるものに気がついた。
「以前はあのような建物はなかったハズ……」
「ああ、あれは世界樹を監視する小屋だ。要するに前いたゴーレムの代わりだな」
そう、俺達が初めてここを訪れて以来いろいろあってゴーレムが撤去され代わりにあの小屋が建てられた。
そして、俺はあの小屋にいるダッカンという管理人に監禁された事があるのだ。まあ逆にボコボコにして話し合いの末今は和解しているが。
「あの小屋にダッカンって奴がいるかもしれん。ちょっと犯人のこと聞いてみよう」
「そうですね!ダッカンさん、さっきの犯人を見てるかもしれませんしね」
「ああ……というかカブ、お前は見てないのか?」
「僕も意識が回復したときは誰もいませんでした!でも顔や服はカイトさんの家で見て覚えてますから、もしまたどこかで見かけたら絶対言います!!」
「おう頼むぜ」
――ガロロロオオオオォォォォン!!
カブがエンジンをかけると、相変わらずの凄まじい排気音が辺りにこだました。
そして俺もその場から一足飛びで軽く飛んだだけで小屋の扉に着地することができた。バンもすぐに後から追いついてくる。
さて準備はできた。
――コンコン。
軽くノックし扉を開けると、中にはダッカンがいた!そしてその隣にもう一人……。
「あー!!カイトさんあの人です!!犯人ですーー!!」




