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㊾ スプロケット交換と焼き芋


 ドゥルルルルッ、ガチャガチャ……。


 俺達はその後、軽油タンク同士がこすれる金属音を響かせながら山中の自宅に帰って来た。


「フゥーーッ、あー今日も仕事したなー!」


 カブを降りるなり俺は大きく背伸びしてそうつぶやいた。


「それから明日の仕事の予定も入りましたね、カイトさん」


「おう、翌日も確実に仕事があるってのはやっぱいいよな。安心できるぜー」

「あれ?でもカイトさん、日本にいた時は毎日会社行ってたんでしょ?やっぱりこんな風に安心出来てたんですか?」

「いや、……あん時は仕事行くのめんどくせーとしか思わなかった……。なんだろな、この違い……」



「おじ!芋たべよー芋!!」


 おっと、そうそう忘れてたぜ。


「よし、焚き火の準備だターニャ!落ち葉や枯れ木を集めるぞ」


「ういーー!」



 そうして燃えそうな木や葉っぱを集めているうちに、地面が柔らかくなっている場所を発見した。


 俺は指で穴を掘り、一つ一つ種を落としていった。とあるアニメのサイ◯イマンを思い出したぜ。


 ま、コレはカブとも話したけどあくまで趣味だ。このまま放置して運がよけりゃ何らかの野菜が育つだろう。


 後は――芋だ。



「ほら、ターニャ。この箒で落ち葉を集めてくれ。こうやって掃いて集めるんだぞ」


「分かったー!」


 嬉しそうに返事をするターニャ。

 芋を食うための準備だからウキウキしてんだろな。


 俺はターニャに箒を渡し、家の中にライターを探しに行った。


 すぐにライターを持って外に出ると、カブが凄くアホな事をしていた!


 ――ドゥルルルルン。


 カブはなんと前ブレーキをかけ、アクセルを捻り後輪を空転させて落ち葉を集めようとしていた!いや、何してんだお前!?


「カイトさん!僕も落ち葉拾い手伝いますよー!」


「アホ!穴掘ってるだけじゃねーか!!てかお前、構造的に落ち葉集めるとか無理だろ!?」


「そんな気がしてきましたー!」


 ドゥルルルルン!

 呑気に答えるカブだった。


 と、取り敢えず大人しくしとけ!タイヤも減るだろ!


「は、はい。ちょっとはりきり過ぎました……」


 こいつ、普通に賢いのに時々予測不能な事するから全く油断できねえ……。



 ――カブを大人しくさせてから、俺はヤマッハで買ってきた芋3個にアルミホイルを巻き、集めた落ち葉にライターで火を点けた。


 バチバチバチバチ……。


 油分の多い落ち葉だったらしく、すぐに火が燃え広がった。よし!


「はい、おじ」


 するとここでターニャが自分で拾い集めた小枝を手渡してきた。

 おう、よく分かってるな!



 パキッ、パキッ……パチパチッ……。


 短く折った小枝を火の中へ放り込んで燃やす。

 枝が灰色になって燃え切りそうになったら、次に薪のような大きめの枝を放り込んでまた燃え移らせる。

 この薪が十分に安定して赤く燃えている状態になったら、その周囲に芋を置く。


「わあ……」


 その時のターニャの目の輝き様は凄かった。


「出来上がったらうめえぞ~!ここからはちょっと時間がかかる、芋の硬さを棒でつついたりして確かめながら待っといてくれ」

「おじ、分かった!」


 ターニャは俺の言ったことを忠実に守るべく、割り箸を持って芋を見張っていた。




 ……よし、じゃあ俺はその間にカブ(コイツ)をこの世界用にカスタマイズするかな!


「おーう、カブ」


 俺は軽く呼びかけ。


「はい、何でしょうカイトさん?」


「今から()()()()入れ替えするぞ!今の16丁から純正の14丁に戻す」


 カブはハッとしたような顔をした。


「あ、ああー……そっか!!確かにここじゃ最高速がいくら伸びてもしょうがないですもんね!登坂能力を上げるために低速トルクに振ってある純正ギアに戻す!……良いと思います!!」


 カブと俺が楽しそうにそんな話をしていると、焚き火を見守っていたターニャが聞いてきた。


「スプロケってなにー?」


「おう、ターニャ。スプロケットっていうのはな、カブの体の中に入ってる歯車みてーなやつなんだ。……ちょっと持ってくるわ」


 俺は倉庫から工具とスプロケを持ってきた。

 ふぅー。捨てたり売ったりしないで良かったぜ。


「ターニャ、これだ」

「何かギザギザしてるー……」

「そうだろ?このギザギザがあるからカブが動くんだぜ!」

「ふーん……」


 ターニャはしばらく不思議そうにカブの純正スプロケを見つめていた。

 俺は早速交換作業に取り掛かった。



「えーっと……最初はステップ付近のガードから外していくんだったっけな?もう大分前にやった事だから忘れちまってるなHand Manの動画でも見直すかー」


「Hand Man?誰ですそれ?」


「カブのカスタム動画上げてる奴だ。結構分かりやすいぞ」


「やっぱりカブは弄りやすいからカスタム動画もいっぱいあるんですね!」


「ああ、良い世の中になったよ。動画はおろかネットも無かった時代の人達は全部手探りでカスタムしてたんだろ?……大変だったろうな」


 などと言いながらも作業を続けていく。


 カバーが外せたら次は後輪タイヤのアクスルナットを緩め、タイヤを前方に動かしチェーンを弛ませる。


 チェーンが弛んだらフロントスプロケットを止めているナットと金具を外し、今はめている16丁のスプロケットを駆動軸から手前にスライドさせて抜いてチェーンから取り外し純正の14丁のソレをチェーンにはめ、そのまま駆動軸にはめ込んでいく。

 そして、しっかりボルトを締めてスプロケの交換は完了。


 後はチェーン調整用のナットを微調整してチェーンの弛みを適切に出来たらアクスルナットを締めて固定する。


 ちなみに14丁などの「丁」というのは14個の歯があるギアという意味だ。

 Tとも表記されていたりもする。


「そうそう、思い出してきたぜー。こんな感じだったわ」

「カイトさん、なんか楽しそうっすね」

「おう、まあな。作業自体はしんどいけど完成したら達成感あるし、スプロケはハッキリと走りに変化が感じ取れるから楽しいんだよな」

「僕も楽しみです」



「よっし、……これで作業は終わった」


 最後のカバーのボルトをソケットレンチで締め終えてそうつぶやいた。


「ちょっと試運転してみっか」

「はい!じゃあエンジンかけてみますね」



 キュルルッ、ドゥルルルル――。


 俺は左足でシフトペダルを前に踏み込みギアを1速に入れる。

 ――カシャッ……。


「よし、じゃあ発進するぞ。久しぶりの純正カブの1速発進だ!」



 ドゥルルッ……!!


「うわっ!これだー。このめちゃくちゃローギアードでトルクに全振りしたようなギア比!!」


「うっわー。……まるで耕運機みたいですね!!」


「hand man カブ」で検索検索〜!

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― 新着の感想 ―
[一言] 山道走るとスプロケが砂でゴリゴリに削れていきますよね。リアも予備があったほうが良いかもです。もちろん鉄で。
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