㊽ 謎の種
それから俺達はヤマッハの食材屋にやってきた。ここに来るのは二度目だな。
野外ではあるが、色んな種類の食材露店が所狭しと並んでいる。
野菜、肉、魚、パン、干物など、様々だ。
「いもー、いもーお芋ー!」
ターニャは小躍りしながら一目散に野菜売りの露店に突っ走る。
ターニャの後ろ姿を見ながら俺は考えていた。もしプギャ芋が売られていたらどうしようか……。
確かプギャ芋1本の値段が8000ゲイル(32000円)という超高価格なのもあって簡単に購入には踏み切れない。
しかし、あれだけの薬効があるから薬として買って家で保存しとくってのもありかも知れん。
……だが、芋だぞ?保存も何も数日も経てば腐っちまうかも……。
などと色々考えてその辺を見回してみるが、あの黄金色のプギャ芋はどこにも見当たらなかった。
俺は店員に聞いてみた。
「なあ、おっちゃん。プギャ芋ってあるかい?」
店員はビックリして目を見開いた。
「ゴフッ、ゴフッ……プ、プギャ芋!?ありゃあ特殊な食材だからこういうとこには無いよー。あービックリした……」
「……だよなあ」
俺はそんな気もしていたので特に驚きはなかった。しかしこのおっちゃんの焦り様からして俺は相当おかしな事を言ったようだ。
現代の日本で言えば店員に大麻あるかいって聞いたのと同じ様なもんか……。
するとここでその店員がターニャに声を掛けてきた。
「お嬢ちゃん、どんな芋が好きかね?」
「プギャ芋ー!」
「……そ、その次に好きなのは?」
「甘い芋ー!」
「じゃあこれだ!一番甘いベニースイートね」
「おお!これほしいー、おじ!……」
ターニャはこちらを振り向き、輝く目で買ってほしいと訴えてくる。
なんか商売上手なおっちゃんに上手いこと乗せられている気もしたがまあいい。
「うん、買うわ、いくら?」
俺がそう言うとターニャの目が再び輝きを帯びるのだった。
「毎度!3本入りで60ゲイルね!」
――そうして芋を購入した俺達はヤマッハで他の買い物をする事にした。
主な内容はターニャの服、それから畑用の野菜の種だ。
ちなみに俺は今、カブのエンジンを切って手で押しながら歩いている。ターニャは既にカブから降りていた。
「ターニャ、お前服はどうする?もう一着買っとこうと思うんだが」
「ふく?何でもいーよー」
「そ、そうか、じゃあ適当に子供用の買うかー」
……ふぅ、年頃の娘でもないし今は着るものより食うもんだな。
と、俺は少し安心してしまった。
「僕はHONDAのステッカーが欲しいです!」
突如カブは自身の希望を述べてきた。
「お前、それ、ここじゃ絶対手に入んねーだろ!ネット注文しといてやるから日本に戻るまで待っとけ」
「本当ですか!?やった!」
ここでふと俺は思った。
「なあ、今ウチの宅配ボックスにA○azonとかからお届け物が来た場合どうなるんだ?」
カブは上を向いて思案顔になった。
「あっ、カイトさん。宅配ボックスとか郵便受けはここと繋げてないんです。だから日本に戻った時にまとめてこちらに持ち帰るしかないです!すいませーん!!」
カブは申し訳なさそうな顔をしていた。いや、別にそれぐらい何ともねえ。ちょっと励ましといてやろう。
「あーそうかそうか。まあ全然大丈夫だ。むしろ上下水道やらガス、電気にネット回線まで繋げてくれてるんだから、お前スゲーよ」
これは本当にそう思う。
「そうですよね!日本に帰ったらゴッソリ持ち帰りましょう!」
「切り替え早っ……」
などと与太話をしながら村を回ったが服屋など一件も無かった。
……あれ?皆どこで着るモン買ってんだ!?
「おいカブ。ユ○クロがねーぞ?」
「……そうですね」
カブが生暖かい目線を注いでくる。
「ひょっとしたら皆家で自分で作ってずっと着回してんじゃねーかな?」
俺はちょっと考えて結論を出した。
「まあ服に関しては子供服をネット注文しておこう。ターニャも大きくなっていくだろうしそれに合わせたサイズを何着か買っておく」
「はい!ステッカーもよろしくお願いします!」
「おう」
さて、肝心のターニャはというと、――先程買った芋をずっと手に持ってニヤニヤしていた。
やれやれ、コイツは本当に芋が好きなんだな。
……その後、俺達は街の外れに小さい露店を発見し、中を覗くと色んな野菜の種が売られていた。
「おっ!ちょうど良かった。ちょっと買ってくるな」
ここで俺は種の購入と同時に興味深い話を聞く事になる……。
「よっしゃ、お待たせだな。じゃあ帰るか!」
いくつかの種を購入した俺がカブとターニャの元へ戻った。
「カイトさん、あの……」
「ん?」
「今って畑なんかやってる暇あるんですか?自分で食べるだけなら町中で売っている野菜を買った方が早いですし、農家として販売するにしても競合相手が多くて難しいと思うんですが……」
真顔でカブは聞いてきた。言いたい事は分かるぜ。
「そう思うだろ?でも上手くいけば超高額商材になるかも知れねーんだ!」
「えっ……!?」
「なんか種屋の店主に聞いた話だと、種から栽培した野菜の極一部は特殊な個体になる時があるらしくてよ」
「は、はぁ」
「あれだ、プギャ芋もそれらしいんだ。だからもしそういうレアな野菜が取れたら――って考えたらお前ワクワクしてこねーか?絶対高額で売れるだろ?」
「……カイトさんて宝くじとか好きな方ですか?」
「ん、まあな。夢があるしな」
「……」
カブは複雑な表情を浮かべている。この人にどう説明しようか?といった顔だ。
「分かってるよ!あくまでこれは宝くじ枠の趣味みてえなもんだ。配送の仕事に影響は出ないから安心しろ」
そう言うとカブは安心したようにつぶやいた。
「ほっ。分かりましたー。でも何の種買ったんです?」
「おう、取り敢えずよく分かんねーから色んな種類の種を一個ずつ買ってきた」
するとカブはタブレットに中で、タバコを咥えライターで火をつけるといったアニメーションを展開させてきた!
うおっ!なんつー腹立たしい絵面だ……。
「フーーッ、……カイトさん。農業に関しては素人っぽいですね。趣味で正解ですよ」
「うっせーこのヤロウ!」
とりあえず俺はカブのヘッドライトを腕でロックして締め上げた。
「あいたたたたた!ギブギブ!!」
こいつ本当に精霊か?絶対どっかのオッサンだろ……。
――このときは何とも思っていなかったが、ここで買った種が後で世界に革命を起こす事を俺はまだ知らないでいた。