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㊼ 新しい配送ルートとプギャ芋


「ど、どうした、ターニャ!?そんな不機嫌な顔して?」


 ターニャは不機嫌な顔を崩さず答える。


「おじ、あの村はダメな村!」


「お、おう?珍しく怒ってんなお前……何が嫌なんだ?」


「魔女もおかしの家もない、ゴミの山しかない。あそこはダメ!」


 俺はそれを聞いて微笑ましくて笑ってしまった。


「はっはっは。そうかそうかー。ま、ターニャにとっちゃ魅力ねーわな」

「僕は雪とアイスバーン以外はどこでも好きなんですけど。ターニャさんはどの場所が一番好きですか?」


 カブの質問にちょっと間を開けて考えるターニャだった。そしてこう答えた。


「おじの家!」


 俺はニカッとした。

「分かってるなーお前」

「ははは、やっぱり実家が一番って事ですねー」

「ごはん、おいしいから!」

「よっしゃ、じゃあ今日はその実家に帰る前にヤマッハ行って芋でも見てくるか!」


「わー、芋ーーーー!行こうヤマッハ!」


 ターニャが俺の背中を掴む腕から、その喜び様が伝わってくる。

 よし、今日は芋でも焼いて食うか。



 ――トゥルルルルン、ガチャガチャッ。


 キルケーからヤマッハへの道もあまり荒れていなくて走りやすい。


「んん……、よく見ると道にあちこちであの車で走ったキャタピラ跡があるな」

「あ!ほんとだ。キルケーの人達はヤマッハにも行ってたみたいですね!」


 ここで俺はもうちょっと考えてみた。


 キルケーの連中がバダガリ農園で買えないもの、――塩とか他の野菜とか雑貨とか、その辺をヤマッハで買うにしても、結局あの車を使うんだよな。


 お!


「一個閃いたぞ!」

「どうしました?カイトさん」


「キルケーの奴らがヤマッハでする買い物も俺が運んでやればいいんだ!」

「え?……」


 カブはちょっとよく分からないといった表情だ。


「つまりよ、俺達が最初にキルケーの奴らの欲しい物をヤマッハで買ってキルケーへ持って行く、そんでそれらを渡した後バダガリ農園へ行って野菜を買う!そうすりゃより無駄のない配送が出来て儲かる上、キルケーの奴らも絶対喜ぶ!!」


 カブはちょっと考えて納得したようにタブレット上で手をポンと叩いた。

 ……うおっ、今度は手まで出てきたぞ!


「あ、ああー。なーるほど!それグッドアイデアですね!こちらとしては走行距離はほぼ一緒だけど、ヤマッハ→キルケー便の分だけ送料が上乗せされますもんね!!」


「おう。そう言う事!早速明日フランク達に掛け合ってみるわ」


「はい!お願いします。カイトさん」




 ――というわけで再びヤマッハへとやってきた。


 俺は一旦ギルドまで走り、ギルドの建物の前でカブを停めた……。



「よっ」


 ギルドへ着いた俺は、カウンターでいつもと変わらず仕事をしているイングリッドを発見し、声を掛けた。


「あ、カイトさん。ターニャちゃんも、こんにちはー!」


「おっす。元気そうだな。『スーパーカブ』社あての仕事はねーかい?」


 イングリッドは申し訳無さそうに言った。


「……やー、カイトさん……申し訳ありませんが全然無いです……」


 まあ、予想通りだったので驚きは全く無かった。


「そか。ま、しゃあないな。ここへは一応毎日通うからまた仕事あるときはヨロシクな!」


 そう言って帰ろうとする俺をイングリッドは呼び止めた。


「あ。あの……カイトさん、大丈夫ですか!?」

「ん、何が?」


 イングリッドは真剣な表情で俺を見つめる。


「いや、……だってカイトさん、こんな異国に来てお金も0だった訳でしょう?その上ターニャちゃんも育てないといけないし、かなり金銭的にキツイ状況だと思うんですけど……なんかイキイキとしてますよね?私すっごく不思議なんですけど――」


 イングリッドの話は最もだ。俺もそう言われて不思議な感じがしてきた。


「ま、まあ。そうだな。……実は最近デカい取引先と知り合いになってよ『バダガリ農園』ってとこなんだけど――」



「ええーーーー!!??」



 イングリッドの驚きようは凄かった。


「バ、バダガリ農園って言ったら、このスズッキーニで一番の大農家じゃないですか!?そ、そんな所と取引って……一体何を運んでるんです!?」


 カウンターから身を乗り出してそう聞いてくる。やっぱりアイツ、バダガリって凄え奴なんだな……。そう再認識せざるを得なかった。


「軽油をちょっとな。アイツんとこ畑めっちゃ広いだろ?耕運機とか動かすのに軽油が必要じゃねえかなーと思って営業してみたんだ。そしたら大正解でよ!」


「へ、へー……凄い……カイトさん、逞しいですね」

「おじ、凄い!」


 横のターニャからも褒められて俺はちょっと照れた。


 まあ俺も色々頑張ってるけどなんだかんだ言ってカブの奴が優秀なんだよな。



「今日はこの後ターニャの好きな芋を買いに行くんだ」

「あらー。ターニャちゃん良かったわねー」


 イングリッドはにこやかにターニャに話しかけている。


「うんー!いもーいもー。プギャ芋おいしー!」


「え……プギャ芋?」


 その時のイングリッドの顔は明らかにこわばっていた。ん?どうした?

 その後のイングリッドの発言はこうだ――。


「プギャ芋……あれ今、()()()()に指定されかけてますよ!!」



 俺は吹いた。



「な、なんじゃそら!?――プギャ芋はこの前ヘドライト村に配達したばっかだぞ!?」


「はい、まあプギャ芋については以前から薬としての効力が強すぎるとして問題になってたんです。依存性や副作用はほぼ無いみたいですけどね……」


 俺はヘドライト村でプギャ芋を食ってハイテンションになった事を思い出した。


「も、もしかして。プギャ芋のせいで薬が売れなくなったとか医者が仕事を失うとか、……そういう大人の事情もあったりするのか?」


「うーん、国の事情までは分かりませんが、すでに禁止になってる国もあるみたいです。ウチは一応まだなので取引や配送に回すことが出来ますが」


 俺は顎に手をかざしてちょっと考えたが、そもそもプギャ芋は値段が高すぎて気軽に買えないし、今必要でもないな、うん。


 俺はターニャの方を向いて宣言した。



「ターニャ!プギャ芋は無理だが他の芋なら買える。行くぞ!」


「ういーーーー!」


「あ、カイトさん……」


 ん?


「セシルさんがすごく感謝してましたよ。以前の件」



 俺は振り向いたまま笑顔を見せ、「おう」とだけ言ってギルドを後にした。


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