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㊺ 商談開始!


 その姿は日本人の俺が今まで見てきた典型的な女の幽霊のそれだった。


 俺は無言でターニャを抱えリアボックスへ入れて無言でカブに跨る。

 女は俺達の存在に気付き、その様子をジーッと見つめている。怖ええええええ!!


 俺もその女と目を合わせたまま何故か動けなかった。


 山で、()と出会ったときは、背中を見せて逃げると追いかけられて危険だと聞いていた。

 今回俺は無意識のうちにそれを思い出したのかも知れない。



 女はこちらを観察するように凝視したままだ。――ひいいいい。


「あれ?カイトさん?どうしました?」


 カブは呑気な言葉を投げかけてくる。


「いや、お前怖くねえか?アレ」

「え?僕が怖いのはアイスバーンの道路ぐらいですけど……?」

「おじ、どした?」

「ターニャ。お前もか……」



 そんな会話をしていると、女が何か不思議な声を上げながらこっちに歩いてきた!


「えっ……ん?……」


 俺はなんか固まって動けなかった。


 ……しかしよく見ると幽霊風の服装と長い髪の女ではあったが、それだけで別に()()ではない。

 さっきも新素材がどうとか言ってたし……。


「ちょ、ちょっと話してみるわ」

「は、はい」


 俺は強引に声を張り上げた。


「お、おう!あんたここの住人だろ?俺はバダガリ農園から来たんだ!ちょっと話があってよ……」


 ――ササササッ!!


 その女は高速でこちらに移動してきた。ひいいいっ。


 そしてカブの真正面に立ち、前タイヤのすぐ上にあるフロントフェンダーをそっと指でなぞった。


「ひゃっ……」


 カブがおかしな声を上げる。


「こ、この材質は一体……?木でも、鉄でもない……」


 女は俺の存在に気づいていないかのようにカブのフェンダーだけを凝視している。


「あ、それはポリプロピレン……」


 それにカブがちょっと答えようとしたその時――。



 ビービーーーーッ!!



 俺はめったに鳴らさないカブのホーンを2回ほど鳴らした。なんとなくこの女に主導権を取られるとマズイと判断したためだ。

 さらに女にこう宣言した。


「おい!お前が何者か知らんがこれは神の遣わせた乗り物だ。簡単に触っちゃならねえ!」


 女は、その時初めて俺の存在に気づいたように目線を俺に向け、素早く後ずさった。


「あ、あわわわ。すす、すいませんでした!!つ、つ、つい夢中になって……」


 俺はこの時「あ、やっぱり人間だった……よかった……」と本気で安堵した。言葉が通じる人間ならこっちのもんだ!!


 カブも俺に続きそれっぽい演技をかます。


「そ、その通りです……その通りなのだ!私はこのカイトさんに遣わされた神聖なる精霊!たやすく触れてはならないのだ!」


 カブも役者だぜ。ヘッドライトやウインカーを点滅させまくり、タブレット上でそれっぽい表情をして神の遣いを演出している。


「こ、言葉を喋る車……まさか本物の精霊……!?凄い……」


 女はおっかなびっくりした顔だったが、同時に薄く笑ってもいた。

 とにかく色々と怪しさ満点の女だ。マッドサイエンティストっぽいっていうのかな……。



 そして俺はここに来た目的を思い出した。


「おっと、そうそう。俺はカイト。このキルケーに商売の話をしに来たんだ!」


 女は不思議そうなあっけにとられたような顔をして、それまでのギラついた表情から一転してションボリしたようにうつむいた。


「神が……商売をすると?」

「か、神にも色々あるんだよ。ほっとけ」

「……そう……」


 女の態度の急変に構わず俺は商談を持ちかける。ここは貪欲に行くぜ!


「バダガリから聞いたんだが、ここのキルケーは定期的にバダガリ農園から野菜や小麦粉を運んでるんだろ?」


「ええ、それは間違いないわ。あそこは私達の食料庫だもの」

 女はちょっと俺達から関心が薄れたような態度でそうつぶやいた。


「その役。俺達がやってやろうか?」


「え!?……」


 女は目を丸くして聞き返す。


「要は運び屋だよ。聞いた話じゃ月10回近く往復してるそうだな。それ、全部俺が引き受けてやる!もちろん送料はもらうがな。どうだ?」


 女はちょっとうつむいて考えこんでいた。俺はかまわず続ける。


「このキルケーからバダガリ農園までは結構な距離があるだろ?しかも3日に1回ぐらいのペースで……相当な労力なはずだ」


「……うん。それは間違いないわね」


「で、気になったんだが、誰がどうやって運んでんだい?」


「村人7人全員で当番を交代しながら運んでるわ。運ぶ手段はフランクさんが()を開発してくれたから皆それを使ってるわね」


 俺とカブはその言葉に食いついた。


「車!?ど、どんな車だ?興味あるんだが……」


 女はとある方向を指差し、俺はそちらを見た。


 ……するとトロッコの先に一人乗りの運転席がくっついたような初めて見るタイプの乗り物が目に入った。



 俺とカブは一目散にその車に駆け寄った!


「うおおおおお!凄え。まるでコンテナの付いたターレットだ!!」


 カブも興奮して言った。


「し、しかも車輪にキャタピラみたいなのを履かせて山の斜面対策までされてる!うわー面白い!へぇー!!」


 ターニャだけ「なにが面白いねんコイツら」みたいな顔をして首を傾げていた。



 俺達が凄い凄いとワクワクしてその車を眺めていると、その車の隣の家からまたしても人が飛び出してきた。


「うわあああああああ!!」


 そして頭を抱えながら地面を転がりまわる!なんかこの流れさっきと一緒じゃねえか??


「エンジンの動力を効率よく伝える方法が思いつかないよおおおーー僕は才能が無いんだああああもうだめだああああ!!」


 そう叫びながらフラフラとこっちへ迫ってきたので、俺はひとまず軽く回し蹴りを喰らわす事にした。


「おいっ!」

 ドガッ――。


「ぎゃあ!」


 全く痛くないハズの蹴りだったが男は大袈裟な叫び声を上げた。


「な、なな、何だい!?」


 俺は慌てふためく男ににこやかな笑顔を届けた。


「おっす。俺達は配送会社のもんだ!バダガリ農園からここへの配達、俺達に任せてくれねーか?」


 俺がそう言うとその男は口を半開きにしてしばらく固まり、すぐにハッとしたような顔で畳み掛けてきた。


「は、配送会社だって!?……ぜ、是非ともお願いしたい!この村には20人の発明家達が住んでいるんだけど、皆本当に研究にしか興味ないんだ。だから畑や牧場を作って自給自足――みたいな事は誰もやりたがらない」


 なるほど、現代で例えるとみんな自炊せずウー○ーイーツみたいな感覚かな。


「よっしゃ!じゃあ交渉成立って事で――」


「ただ……」


 ん?

 男は何やら俺とカブを見て訝しげな顔をしていた。


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