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㊹ 恐怖


 ――ピィィィィン。


 俺が何度も聞いた小さな電子音が鳴った。この音はキーをONにした時の音だ。


 それと同時にメーター内の照明球、ニュートラルランプ、自分でカスタムして取り付けたタコメーター、電圧計など、様々なパーツが起動し始める。

 まあ、いつもの事だ。


 そしてメーター上部のクランプバーに取り付けられたタブレットには、例によってカブの顔が映し出された。

 そしてそのままカブは喋り始める。


「僕はスーパーカブの精霊。……主人であるカイトさん以外の人は僕を運転する事が出来ません!」


「うおおおおお!車が喋った!?え……な、なんか顔みたいなのが出てきた!?えええええ!!??」


 ――まあそう思うよな、最初は。現代人の俺ですら意味不明だったし。



「この通りソイツはただの車じゃねえんだ。俺がある日いきなりそのカブに異世界に飛ばされてやって来たのがここ、スズッキーニ王国とかいう場所だったんだ」


 バダガリは唖然とした表情で俺を見ていた。


「カ、カイトさん……。アンタそれでいいのか?」


「良いも何も、どうにもならねえ。帰る事も出来ないみたいだしな」


 一応、月一で日本に戻れるらしいけどあまり多くは語らないでおこう。現代の日本の事とかに突っ込まれると面倒だし。


 その時カブは笑顔になってこう付け加えた。


「カイトさんが許可すれば運転してもらっても良いですよ!ただし、転倒したりしたら僕が呪います!」


「うおっ。めっちゃ怖え!そんなもん乗れるか!」

「ぶはははは。そのガタイで怖がりかよお前!?」

「あはっ、バダガリこわがりー!」


 なんかターニャまで韻を踏みながら煽っている。


「う、うっせーわ二人共。俺は呪いとかそう言うのは昔っからダメなんだよ!!」

「魔女の村の奴らと取引してるくせにか?」


「あ、あいつらのは魔法じゃねえだろ!?……てかどうすんだよアンタ。キルケーに配達すんのか?」


 バダガリの問いに俺は即答した。


「やるぜ!何となくだけどよ、良いことがありそうな予感がすんだよ。ちょっと今からそのキルケーに行って商談してくる」


 俺はやる気満々だった。

 やる気と言っても商売の事よりもキルケーの発明家達がどんなものを作ってるのか?といった興味が大きかったのだが……。


「おじ!魔法は!?」


 ターニャが純粋な瞳で聞いてくる。ちょっと後ろめたかったがひとまずこう言っておく。


「魔法使いがいたら教えてもらおうな。ターニャ」

「うん分かったー!ありがと、おじ!」

「おう」



 ……というわけで俺達はヤマッハへの裏道(?)を使い、魔女の村と呼ばれるキルケーへと走っていった。




 ――ドゥルルルン。ガチャガチャン……。


 空になった軽油タンク同士がぶつかる音が響く。

 道は緩やかな上り坂ではあるものの、凸凹はあまりない。

 ヤマッハからヘドライト村へ行く途中のあのクソみたいな山道に比べたら全然マシな道だ。


「カイトさん、キルケーの発明品だっていう車、どう思います?」


 カブの質問は俺もずっと考えていた。

 バダガリは「俺が説明するよりキルケーで実物を見た方が早い」としか言わねーし。


「まー、さすがにサガーやらの大型車より小さくて、こういう細い道を通れる何らかの移動手段を発明したんだろう」


「でしょうねー。でも彼らがどんな優れた車を開発したとしても僕の方が優秀だという自信がありますよ!」


 カブはドヤ顔で鼻息を立てる。

 コイツのアニメーション、日に日にクオリティーが上がってやがるな。


「まあ、今まで見てる限りここの文明は現代より100〜200年遅れてるからな。魔法でもない限りお前の方が圧倒的に高性能だろうよ」


「ってゆーか魔法が使えたらそもそも車要りませんもんね!あははっ」

「間違いない。ぶはははっ」


「えーっ、魔法使いいないのー?」


 ちょっとむくれた感じのターニャの声が後ろから聞こえてきた。おっとと。


「い、いやー、分かんねーぞ?……ほら、箒で空を飛ぶ魔女とかがいるかも……」


 この時俺はターニャが喜ぶと思ってそう言ったつもりだったが意外な言葉が返ってきた。


「でもほうきが空とんだらカブこまるんでしょー?」


 お!俺達の仕事内容を知っての発言か?なかなか理解力のある奴だな。


「おう、分かってるじゃねーかターニャ。そうなんだよ。空飛ぶ箒があったら俺達困るんだ。そうだな……代わりにお菓子の家とかだったら嬉しいんだがな」


「おかしー?おかしの家ー!?ほしいほしい!芋たべる芋ー!」

「お前本当に芋好きやな」


 カブもちょっと笑ってから、キリッとした顔を覗かせた。


「ははは。でも僕もキルケーに何があるのかちょっと気になってきました!」


「よっしゃ、ちょっと飛ばして行くぞー!」




 ――ドゥルルルルン!!ガランガラン、ジャリジャリッ。


 それから走る事4〜50分。

 俺達はそこが魔女の村だと一発で分かるような場所にたどり着いた。


「うわ……ここだ」


 そこにはヤマッハやヘドライト村といった普通の人が住む所とは明らかに違っていた。


 簡単にいうと山盛りになったゴミやガラクタの山があちこちに散見されたのだった。


「なんっじゃこりゃ……。鉄屑やら木片やら、現代の廃棄物の山みたいじゃねーか……」


 プルルルル……。

 俺はもう少しカブを奥まで走らせた。


「うわー、見て下さいカイトさん。コレ、ちょっとプラスチックみたいじゃないですか?」


「プラスチック!?……この時代にか?」


 俺はその廃棄物っぽいものを指でつついてみた所、――パキンッ。

 と簡単に割れてポロポロと地面に落ちていった……。


「な、なんじゃこりゃ……!?」

「カイトさん、あんまり触らないほうが良いんじゃないですか?」

「そ、そうだな。もしかしたら何かヤバい物質かも知れないしな……」


 ここでターニャも自分でカブのリアボックスから降りてきた。その表情は圧倒的にこんなハズじゃなかった――と言いたげなものだった。


「なんだターニャ。想像と違ってがっかりしてるな?」


「おじ、ここはダメな村!お菓子の家ぜったいない!帰ろー!!」


「気持ちは分かるぞー。でもちょっと商売の話を――」


 と俺が話していると,



「いやああああああ!!もう無理イイイいい!!」


 などという叫び声と共に妙な女が家から道に転がり出てきた!


「うおっ!なんだ!?」


「どうやってっ!作れば。良いのおおーー!?軽くて!丈夫でっ!安く作れる新素材っっ!!……そんなの無理いいい!!」


 頭を抱えてうずくまりながら女はそう叫んでいる。俺達はその光景に絶句し、しばらく固まる。

 やがてその女はゆらっと立ち上がり俺達の方を見た……。


 その姿に俺は恐怖を覚えるのだった。


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