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㊷ バダガリという男


 ――ガチャガチャッ、ブゥウウウウン……。


 ギアを1速に落とし、エンジンブレーキを効かせながら俺達は進んでいく。

 目的地はとりあえずヤマッハの給油所だ。


 相変わらず急な坂だが今の俺達にとってもう脅威ではない。

 数回往復して慣れたのもあるし、大きい段差は以前均して固めたからだ。


 そうしているうちにヤマッハへと続く大きな道へと合流した。


「今日はもう真っ先に給油所に行って軽油を買うぞ。ギルドは後で行く」

「了解!」

「芋はー?」

「おう、それも後で必ず行くぞ!」

「ういーー!いもーいもー!!」


 ターニャの楽しそうな声だけで癒やさせるぜ。




 ――「あ、毎度っ。カイトさん!」


 給油所の兄ちゃんは相変わらず軽快な挨拶をしてくる。


「おう、今日も頼むぜ。昨日と同じ軽油だ、8缶な」

「うわっ。8缶!?マジっすか。あざまーす。早速入れましょう。どうぞこちらへ!」


 兄ちゃんは軽油の溜まった巨大なタンクの下へカブを案内し、注ぎ口から軽油を注ぎ8缶の軽油タンク全てを満タンにしてくれた。



「はい、お待たせしましたー!軽油8缶で満タンで4800ゲイルになります!!」

「はいよ」

 俺は財布から4800ゲイルを放出し、持ち金は12500ゲイルとなった。


 ここで、兄ちゃんはやはり軽い笑顔と共にちょっと商売の話をしてきた。


「カイトさん。ありがとうございました!……あのー、もしかしてまた明日も買いに来てくれたりします?」

 俺はちょっと首を捻って答える。

「いや、それはまだ分からんな。相手のバダガリがなんて言うかだ……」


 それを聞いた兄ちゃんは驚きの声を上げた。


「バ、バダガリ農園!!……やっぱりこの荷車といいカイトさん、あそこと取引してるんすね!?いやー、凄いなぁー!!」


「バダガリってそんな凄えのか?」


「いやもう、そりゃそうっすよ!このスズッキーニ王国にあれ程の畑を持ってる農業経営者は彼以外いません」


「……まあ、確かにクソほど広い畑だったが」


「知ってました?最初の一年はあの広大な畑を彼一人で耕して彼一人で収穫していたらしいんですよ!なんでも修行の一環にちょうどいいとか言って……」


「え!?バケモンじゃねーかアイツ!?」


 その時俺の頭には筋骨隆々のアイツの立ち姿が思い出された。


「で、その一年で身体を限界まで酷使してブッ倒れて思い知ったそうです。『このままじゃ畑仕事しながら死ぬ!』って……」


 ちゃんとオチはあったようだ。


「……なあ、バダガリってやっぱバカなんじゃねーか?」


「でも一人で全部やったら人件費は0っすから、ある意味理にかなっているかと……その年の利益凄かったんじゃないかな?」


「ふっ、それに懲りて耕運機や収穫機を購入したってわけか……まあ俺達にとっちゃ良い取引先になってくれてありがてえ話だよな!」

「間違いないっす!はははっ」


 兄ちゃんはニコニコしながら答えた。

 あ、そうだ一応この兄ちゃんの名前聞いとこう。


「あんた、名前は?」


「え、僕っすか?僕はミルコっていいます。よろしくっす!」


「ミルコか、分かった」


「是非また明日も来て下さいよ」


「俺もそうしたい所だ。ま、来れたら来るわ!ふははっ」


 俺は笑って答え、給油所を後にした。




 ――ドルルルルルー、ガチャガチャッ。


 歯を食いしばったような表情でカブは荷車を引っ張って行く。


「うぐぐぐっ、やっぱりフルに積むと重いですーっ!」

「はっはっは。前行ったときと一緒だ。まあ頑張って進めや!」


「はぁ……でも今回はガス欠の心配がないから良いですね。カイトさん」


「ああ、前はヘドライト村を往復してから続けてバダガリ農園まで行ってたからな。よくガソリン持ったもんだ、さすがカブだぜ」


「いやー……ハハ」


 カブは照れた顔をした。


「だがもう当分はガス欠の心配はねーぞ」

「えっ!?」

「前回の事を教訓に予備のガソリンを積んである。ターニャ、ちょっと狭くなるけど我慢してくれよ?」


 俺は前を向いてて見えないが、ターニャは恐らくリアボックスに入れてある5リットルのガソリン携行缶を眺めている。


「なんかあるー。……カブのご飯??」

「おう、その通り!」


「さすがですねカイトさん。これで長距離も安心です!」


「まあでも今までの中で最大重量にはなっちまってるけどな。頑張って行くぞ!」

「はい!」




 ……という訳で時速2~30キロという鈍速を維持したまま俺達はバダガリ農園へ到着した。


「さて、一応ここが待ち合わせ場所だが――」


 カブを降りた俺はひとまずそう言って畦道の奥をジッと見つめた。

 いつものパターンならその先にバダガリがいてこっちに向かって走ってくるのだが――。


 ……来ねえな。


 俺は家から持ってきた水筒をターニャに渡し、水分を摂らせた。


 ここは気候的には日本の秋ぐらいだが、日中はまだまだ暑い。

 ターニャから水筒を受け取り、俺も水を飲もうと口含んだその時――。



「バダガリこないねー。しんだー?」



 俺は一気に口の中の水を吹いた!!ターニャお前、なんちゅう事言うねん!?


「こら!ターニャ、お前そう言う事言っちゃダメだぞ!縁起が悪いからな」


 俺が歯を食いしばった顔でターニャを睨んでそう言うとターニャはちょっとビックリした様子で、


「うん……」


 と引っ込めるような動作を見せた。


「そこはお前、死んだ?じゃなくて、うんこ?とかにしとけ。な」


「うんこー?」


 するとターニャは純粋な笑顔で俺の「うんこ」をリピートした。


「うんこー、うんこー、あはははっ」


「ちょっ……何下品なこと教えてるんですか。カイトさん!女の子ですよ!?」

「う、うーん。そうだな、確かにこのままじゃ良くねえ気もするな……」



 ……などとアホみたいな話をしていたらどこからか耕運機の音が近づいて来た!


「おーう、カイトさんか!!」


 声のする方を振り向くと、バダガリが耕運機で畑を耕しながら手を振っていた!俺とターニャも手を振り返す。


「おーう、持ってきたぜ軽油!!」


 俺はとりあえずそう叫んだ。



 すると耕運機を降りたバダガリは、何故か畑からバク転やらハンドスプリングやら技を決めながらこちらに近づいてくる……。いや、普通に凄えけども、何故?……。


 ザザッ!!


「よおー。やっぱアンタに頼んどいて良かったぜ!耕運機のお陰で耕すのめっちゃ楽だわ。これで小麦の種まきに間に合いそうだぜ。はっはっはー!!」


「よ、良かったな……。ところでバダガリよ、ちょっと相談があるんだが――」


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