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㊶ カブの成長


「ちょ、ちょっと確認するわ」


 俺はスマホを取り出し久しぶりにインターネットブラウザアプリを起動した。


「あ、普通に使える!無線もルーターの電波が届く範囲なら使えるんだな」


 カブは一言俺に助言してきた。


「はい、一応。それとスマホで通話も出来ます。携帯の周波数帯もこちらと繋げてますので!」


 俺はそんな事を簡単に言ってのけるカブを見て、

「……やっぱりお前の存在が一番ファンタジーだ」

 とつぶやいた。


「ははは、そうでしょう?まあ僕は精霊ですからねー!」

 と、カブは久しぶりに笑顔を見せたので、俺はちょっと安心した。


 俺は一つ気になった事を質問してみた。


「お前の他にもその……、精霊っているのか?例えばYAMAHAのR-25の精とかSUZUKI隼の精とか……」


「バイクの精霊は僕が初なんです!だからこんな風に言葉を話せるバイクも僕だけです!凄いでしょ!?」


「そ、そうか、まあ安心したわ。次に買ったバイクまで喋り出したら何かと大変そうだしな」


 カブと揉めそうな予感しかない。


「じゃあ電話も使えるならバイク屋に電話して当日用意しといてもらおう。ウチのすぐ近くにバイク屋があったハズだ。ナンバーも任意保険も要らん、観賞用バイクとして購入する」


「あ!なるほど。確かにこっちの世界では自賠責保険とか任意保険とか関係ないですもんね!お店から家までバイク押して持って帰る訳ですかー」


「ま、そういう事だな」

 俺はニヤリとして法整備されていない世界の自由さに感謝した。



 そして俺は夕食のコンロなどを片付け始めると同時に、カブを連れ戻してきてくれた犬に目をやった。


「犬よ、お前はどうする?飯は食ったのか?」


「はい、カイト殿。この辺りには餌となる生き物が多くおります。食うには窮しません」


 しっかりしてんなー。でもコイツが家を守ってくれてるってのは頼もしいぜ。


「よし、今日はちょっとバイクの事調べてから寝るかー」


「おやすみなさい!」

「またお会いしましょう。カイト殿」


 一台と一匹に別れを告げ、クークーと寝息を立てて眠るターニャの寝姿を確認する。

 それから俺は寝室に入りネットでバイクを検索してみた。

 あ、一応断っておくと、俺はこの世界ではまだ貧乏人だが日本ではそれなりに蓄えがあるのだ。……というより一人で暮らしてたらそんなに金使う事ねーからな。


「うーん……、やっぱ、()()かな……」


 次に買うバイクに目星を付けた後、俺は驚くほどすんなりと眠りにつくことが出来たのだった。



 ――次の日、俺は朝起きるとすでにターニャが先に起きていた。


「おはよう。ん、何してんだ?ターニャ」

「おじ!おはよ。パン焼くよー!!食べよ食べよー」


 見ると、ターニャはパンのバケットを斜めに輪切りにしてトースターに入れようとしていた!

 うおおっ、マジか!?ターニャすげえ。


「ターニャ!お前……一人でパン切って用意したのか!?やるじゃねえか!」

 俺がそう言うとターニャはニカッと口を開けて、

「うふふふー」

 と笑った。



 おっと、パンだけじゃ物足りねえからスープも温めとくか。


「よし、作り置きしといたチキンスープ。今日で全部使っちまおう」


 パチチチチ……、ボッ。


 コンロに火をつけスープを温める。どうやらこの世界では庶民の基本的な食事がコレらしい。

「なるほど、パンとスープか。毎日これだと飽きるはずだが、肉やら野菜やらが全部美味すぎて気になんねーぜ!」

「野菜うまーい!」

「はっ、子供の割に野菜好きな奴だな?……なんかお前、コレ食いてーって食い物あるか?今日一緒に買いに行くか!」


 俺のその提案にターニャはそれまでの穏やかな目から一転して真剣な顔つきでこう叫んだ。



「プギャ芋!!」



 ぎゃあ……。


「い、いやっ。アレは……その……確かに美味いけど、……プギャ芋以外で頼むわ!」

 ターニャは俺の言葉を聞き、斜め上を見上げた。


「んー、じゃあ何かの芋!甘いやつがいい」


 お、おう、そうか。それならいいぞ。サツマイモみたいな芋が良いんだな!食材屋で探そう。



 ――そんなわけで今日の予定が決まった。順番に書き出すとこうなる。


 ・ヤマッハで軽油を8缶買ってバダガリに売る。

 ・ギルドやらで仕事探し。

 ・甘い芋を買う。


 ……こんな感じか。


 俺のメインの配達業に関しては、昨日はたまたま超高収入の仕事が入ったけど安定して毎日配達するような納品先はまだない。

 バダガリ農園だって軽油を毎日あんなにいっぱい買ってくれるわけじゃない。


 今の俺の貯金は17300ゲイル。日本円換算で69200円!まだまだ安心とは程遠い……。


「そう、まず安定だよ安定。仕事が安定しなきゃ俺は性格的に安心できねえんだ!」


 玄関でそうカブに向かってつぶやくと、カブはこう言った。


「カイトさん、そこは地道に営業していくしかないですよ。僕らの会社『スーパーカブ』の機動力はこの世界のどこよりも強いと思ってます!配達の需要なんか多分いっぱいありますよ。頑張りましょう!!」


 俺はカブが過去一良いこと言ったような気がして、目をパチパチさせた。


「うおっ、どうしたお前?やたら前向きだな?」


「はい、昨日は取り乱してしまったので。改めて気合いを入れました!」

「そうかー。分かった、……で、()()()()()()()だけどよ……」


 俺はここまで言ってカブの表情がどうなるかジッと見ていた。


 しかし他のバイクの事を話しても、カブの顔は真剣なままで俺を見返してきた。

 おっ!本当に気合い入れ直してるみたいだ。


「何にするんですか?そのセカンドバイクは?」



「候補が二つあってな。CRF250L!もしくはセロー250だ!」



「おー!なるほど……。あまり詳しくない僕でも聞いた事あります。オフ車の定番みたいなバイクなんですか?」


「ああ、調べたら大体この二台がおすすめによく出てくるんだ。その上でこっちの世界の道路状況と俺の仕事に適してる方を後から吟味する!」


「分かりましたー。僕はもう変な事言いません!カイトさんの判断について行きますよ!」


 そう笑顔で話すカブはなんだか頼もしく見えた。


「でもメインはお前だぞ。なんたって自動運転まで出来るんだからな。それと仕事が軌道に乗ってきたら従業員を雇うかもしれん。まあまだまだ先の話だがな……」


「はーい!了解っ」

「はーい!」


 いつの間にかリアボックスに一人で乗り込んだターニャも、カブに同調するように大きな声でそう言った。


 俺はカブにまた例の荷車を結びつけ、カブに跨る。


「よしっ、今日も頑張って行くぜー!」

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