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㊵ バイク二台持ち!?


 最初に軽いパッシングをした。


 ん?


 タブレット上の表情を見ると、目を丸くして絶句しているような顔だ。

 ……これは一体何だ?


「お、おいカブよ?どうした?」


「あ、あ、あばばっばばばばっ……」


 なんか頭がおかしくなったかのようにヘッドライトやウインカーといった灯火類をランダムに点灯点滅させ、そしてエンジンがかかっているのにセルモーターまで回してやがる!!


 ギイイイイイン――。


 おい……ホントにどうしたんだ!?バッテリーに良くねえだろが!?


 するとカブは話し始めた。


「カ、カイトさん……。僕というバイクがありながら他のバイクに浮気するって言うんですか!?ええっ……!僕はショックで、き、気が狂いそうですよ!!」


 い、一体何を言い出すんだコイツは……。


「……いや、ちょっと意味が分からんぞ。浮気とかお前は人間の嫁か!?」


「人間でも嫁さんでもありませんが僕はあなたのパートナーです!!」


 タブレット上でカブは眉を吊り上げてそう言い返してくる。コ、コイツこんな厄介な性格だったのか……。


「お前自分でも言ってたじゃねえか?僕が壊れたらカイトさんどうするんですか、……ってよ!その答えがバイク2台持ちじゃ駄目なのか??最適解だろうが!」


 カブは今度は茹でダコのように顔を赤くして怒った。


「ぼ、ぼ、僕はてっきり僕の予備パーツを充実させたり、修理できるメカニック的な人材を育てたり……そういう感じで会社『スーパーカブ』をまわしていくって事だと思ってました!!まさか僕が使い物にならなくなったら別のバイクに乗り換えるだなんて思ってませんでしたよ!うぐーーっ!!ショックです!精神が破壊されたーー!有給もらいまーーす!!」



 ドゥルルルゥゥン!!カシャッ、トゥルルルルーー。


「うわーーーーん!!」


「あ、おい!どこ行くんだよお前!?」


 家から山道を下り何処かへ消えていくカブ。


 おいーー、やべええええ!!アイツがいなくなったらやべええええ!!すべてが狂っちまうぞ!?



 ダダッ!!


「どうなさいました。カイト殿?」


 どこかで聞いた声、それは昨日の犬!


 突如として俺とターニャの眼の前に現れたその犬は俺達のただならぬ言い争いを聞いて心配そうに俺の顔を見つめる。


「お、おお、昨日の犬か!すまん、ちょっとアイツがどこ行ったか見に行ってくれねえか!?」

「承知致しました。カイト殿!」


 ダダッ――。



 犬は俺の頼みを快く引き受けてくれ、すぐにカブを追いかけていった。


「おじ、カブどうしたの?」


 ターニャが純粋な質問をぶつけてくるが「嫉妬」という感情を4歳ぐらいのガキに伝えて分かるもんかな?


「ターニャ、今は俺達の移動はアイツに頼りっきりだろ?」

「うん」

「だからアイツが壊れたりした時に代わりの乗り物を探そうって話をしたら、なんかカブのヤツ怒り狂いやがってな……」


 ターニャはポカンとした顔をしていた。


「……なんでー?」


「ん、んー……。例えばな、今俺達の所に新しくお前より小さい子供がやってきてよ、俺がソイツばっかり可愛がってたらお前はどう思う?」


 俺がそう言うとターニャは一点の曇りもない笑顔で、小刻みに飛び跳ねながら、


「ターニャも可愛がるー!いい子いい子ってするー!!」


 ……うーむ、なんて素晴らしい奴だ。出来ればそのままでいてくれ。


「カブ、帰ってくるかなー?」


「……分からん!さすがに帰ってくるとは思うけどな。ところでターニャよ、そろそろ眠くならんか?」


「んー……あんまり……」


「そか、でもちょっとでも眠くなったら言えよ。布団敷いてやるからな」

「分かったー!」



 ――というわけで俺とターニャは引き続き焼肉をいただいた。

 味は変わっていないハズだが、カブの事が頭から離れなくて肉の味が入ってこない。


 くそっ、あいつめ……。


 そういえばこの前、カブとバイクの売り上げの話をした時アイツかなり悔しがってたな。ここまで嫉妬深い奴だったとは……。




 それから30分程度が経ち、用意した野菜や肉がすっかり無くなった。

 ターニャは満足そうな顔でちょっとウトウトしていた。

 そんなターニャを布団に寝かしつけ、俺は食事の後片付けに入った。



「ああー、どうしよ……さすがにカブも帰ってくるとは思うが、どうやって説得したもんか……」



 などと考えていると、再びカブのエンジン音が聞こえてきた。その横にはあの立派な犬もいる。


「カイト殿、機械の彼はこの近くでうなっておりました」


 俺は頭の中でカブをどう説得するかのシュミレーションを始めた。


 プルルルルーン……。


 カブはギアを1速にしてゆっくりと俺に近づいてくる。


「うう……ううー……」


 泣きそうな声を出しながら、カブはイスに座る俺の前まで来た。


「あ、あのなーカブ。もう一台バイクを買うといってもメインはずっとお前だからな」


「……!?」


「新しく買ったバイクばっか乗ってお前は倉庫に入れっぱなし――みたいなことはねーからよ。誤解すんなよ」


「え!?……カイトさん、すいませんでした。なんとなく古いバイクは乗らなくなってしまうもんだと……」


 カブの顔は今にも泣きそうなションボリした顔だ。


「いや、お前知らねーのか?色んなバイクに乗ってきたやつが、なんやかんや最後に行き着くのがカブだぞ!(知らんけど)。とにかくそれぐらい良いバイクなんだ!乗らなくなるとかあり得ねえ」


 カブはポカンとした顔をして、

「そうなんですか?」

 と一言つぶやく。


「そもそもお前は納車から4年経つのに全くといって良いほど不具合もないし相変わらず燃費はアホみたいに良いし自動遠心クラッチで運転も楽だし、配達で使わない理由はねーよ」


 と俺が褒め称えると、カブは恍惚とした表情を浮かべて目から涙を流し始めた。

 こいつ……、絶対中身人間だろ!?


「まあそういうわけでお前の良いところは今言ったような所だが、マイナス面がないわけじゃねえ。それがパワー不足だ!お前も自覚はあんだろ?」


「は、はい……コレばっかりは排気量的にどうにもなりませんね……」


 カブは再びシュンとした。


「そこでもう一台は250ccのオフロードかモタードにしようと思うんだがお前なんか良いバイク知らねーか?」


「いやー、僕スーパーカブの精霊なので他のバイクはよく知らないんですよー」


「嘘つけ!お前この前ハンターカブやPCXの事で愚痴ってただろ!?」


「あ、あれは僕が売り上げランキングをネットで調べたからです!」


 ん?……あ、そういやこの家はネット繋がってんのか!?


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