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㊳ カブって何者なんだ?


 俺はバダガリから受け取った12800ゲイルの内の一番大きな紙幣に目がいった。


「うおおお、これが10000ゲイル札か!」


 小声でつぶやいたつもりだったがバダガリやカブに聞かれていた。


「ふっ、カイトさんよ。そいつを落としたりしたらめちゃくちゃテンション下がるぜ?気ィ付けてな!」


 とバダガリに忠告されてしまった。ちと恥ずいな。


 ちなみに俺の財布に入っていた日本円は家の机の中に全て放り込み、代わりにゲイル紙幣や硬貨を入れてある。まあ当然の話だ。


 今の俺の財布には総額17300ゲイルのお金が入っている。日本円にして7万円ぐらいか。



「よし、これで今日の取引は終わりだが……、バダガリよう?」


 俺はニヤリとしながらバダガリに詰め寄った。

 それで察したのかバダガリも笑ってこう言った。


「ん?……あ、アレかい?もっと軽油買ってくれよって話かい?」

「そうだ!」


「ふはははっ。もちろんまだまだ欲しいぞ!耕運機やらの農業器具だけじゃなく、これから冬になるから暖房の燃料としても軽油は必要だ。毎回薪を燃やしてたんじゃ効率悪いしな!」


 俺はその時ちょっと意外に思った。この世界にもしっかり四季があるのか……。


「ターニャ、冬きらーい……さむいー……」


 ターニャのつぶやきに俺も同意する。


「俺もだぞターニャ。朝なんか布団から出たくねえよな?」


「僕もです!気温が低下するとガソリンが気化しにくく無駄に多くのガソリンを噴射するので燃費が悪くなりますし、オイルも硬くなって循環が悪くなりこれまた燃費に悪影響が出ます!」


「お前燃費の話ばっかりじゃねーか!」


「カブ、分からん!」


 俺とターニャに突っ込まれたカブはタブレット上に照れを表す顔文字と「テヘッ」という絵文字を映していた。

 なんか腹立つな。



「じゃあカイトさん、明日もまた8缶持ってきてくれるか?」


 なんとバダガリは今日と同じ量の軽油をまた注文してくれるようだ!!


「おおっ。もちろん配達するぜー!!明日にでも持って来れるぞ」

「ナイスだ!じゃ明日も頼むわ。昼過ぎぐらいがいい」

「場所はここで良いか?」

「ああ、また空タンク用意しとくぜ!」

「よし!毎度あり!」


 といった具合でとんとん拍子に明日の仕事も決まり、俺はニヤニヤが止まらなかった。




 その帰り道、俺達は大いに浮かれていた。


「いやー、明日も良い仕事にありつけたな!ホント、バダガリ様々だぜ」


「おじ、バダガリってともだちー?」


「んー……まあ友達とはちょっと種類が違うんだ、ターニャ。正確にいうとアイツは商売の相手だな」


「ともだちと違うのー?」


「ちょっと違う、俺は軽油を売ってお金が欲しい、バダガリはお金を払って軽油が欲しい。相手の欲しがるもんを売って金を稼ぐ、それが商売だ。ほんでバダガリはその商売の相手って事だな!」


「バダガリは商売相手ー!おじにお金くれるー!!」


「……あ、あの、カイトさん?」

 突如カブが割って入ってきた。

「もうちょっと女の子っぽい言葉使いを教えた方が良くないですか?」

「ぬ……そうだな……いつも一緒にいるのが俺だからなぁ。このまま行くとオッサンみたいな女の子になっちまう。友達でも出来たらいいんだが……」


 そういえば俺は前々から思っていた事だが、ターニャの教育ってどうすんだ?


「なあカブ、この世界って学校ってあるのか?」

「まだ無いんじゃないですか?通学中の子供の集団とか見た事ないですし……」

「ってかお前、前から気になってたけどこの世界の事どれぐらい知ってるんだ?」

 カブはタブレットの中で「ふっ」と笑い、


「ほとんど知りません!」


 と答えた。何じゃそりゃあ!?


「そもそもお前って何者なんだよ?」


「精霊です!スーパーカブの精です!」


「火の精とか水の精とかなら分かるんだが……」


 ここでカブは真剣な顔付きになった。


「現在、日本ではスーパーカブのライダーの6〜7割を30代後半以降のいわゆる『おっさん』が占めています(多分)」


「おっさんの方々は人生の大体のイベントを通過してしまい人生に新鮮味を感じなくなり、健康診断ではガンマgtpの値に怯え、体はガタが来て、家では嫁さんにトドと罵られ……そんな感じで自己肯定感が下がっているハズです」


「いや待てひどすぎるぞ、俺も含めて全国のおっさんに謝れ」


「そんなおっさん達の心を満たすために僕は生まれたんです!スーパーカブの販売台数一億台を記念してね!」


「いや、なんでそこでスーパーカブが出てくんだよ!?」


「カイトさん。それは哲学であり答えなどありません!」


「て、哲学……なのか!?」


「……とにかく、僕はカイトさん。あなたの手助けをしていきますから!今後ともよろしくお願いします」


 カブは笑顔を絵文字で表現していた。


 ……まあコイツには確かに助けられてる。それは間違いない。今の俺がこれだけ充実しているのは間違いなくコイツのおかげだ!


「俺からもよろしく頼むぞ。スーパーカブ110_ja44!」


「はい!」



 トゥルルルルルルーッ、カランカラン……。

 後ろのタンクに中身が入っていないため帰りは行きの2~3倍の速度が出せた。



 ――ヤマッハに着いたのはちょっと日が傾いた頃だった。


「あー腹減ったなー……」


 よく考えたら今日、昼飯を食ってなかったな。


「……カイトおじ……今日はやきにく?」


 ターニャも俺と同じく腹が減っていたようで、話し方に力がない。

 しかし今俺に言った「やきにく」という言葉が俺を覚醒させた!


「そうだよ肉だ!焼肉だ!!ここに来て初日に買った肉があるんだ。帰ったら腹いっぱい食うぞターニャ!!」


「あはっ、ういーー!」


 俺につられてターニャも元気になった

 今、俺の目には肉しか見えねえ!!


「いいなー、僕もたまにはハイオク欲しいなー」

「お前は一月我慢しろ!」

「はーい!」


 日本に帰った時の予定は今から作っておく。こういうのは段取りが重要だ。でもまあ、……とにかく今は肉だ!!




 家に帰り着き、俺とターニャは速攻で野菜を切った。


 そして倉庫からバーベキュー用コンロを取り出し庭に設営。その上に炭を乗せバーナーで炙る。


 ゴオオオオオオオォォォ……。


 黒い炭が徐々に赤くなっていく、なんかもうこれを見ているだけでよだれが出てくる。


「赤くなってきたー!わー!」


 目を輝かせながらターニャは叫んだ。

 俺も笑顔で炭を見つめる。ふふ、初めての炭火焼肉だぞターニャ。


 さて、お次はコレだ……。


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