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㊲ 初の軽油取引!


「ターニャ、燃費ってのはな、カブがどれだけ少ないガソリンで走れるかって事なんだ!ガソリンってのはカブのご飯みたいなもんよ。俺達人間も飯食うだろ?それと一緒だ。カブは少ないガソリンでいっぱい動ける。だからそれに乗ってる俺達は助かるんだ!」


 俺は一応分かりやすく説明したつもりだった。


「……カブ、ガソリンおいしー?」


 ターニャはあまり意味が分からなかったらしく、子供らしい意見を口にした。

 対してカブの返答はこうだった。


「今のガソリンは美味くはないですねー。色々燃焼しにくい成分が残ってますし、まあ直留ガソリンなのでしょうがないですが。やっぱりエ〇〇スやシ○ル、○スモといった石油会社のガソリンが一番で特にオクタン価が――」


「カブ、分からん!」


 ターニャはちょっと怒ったような言い方でリアボックスを軽く叩きカブの説明を止めた。

 俺はその会話を聞いて爆笑した。


「あっはっはっ!そりゃ分からんわな。お前もそのうち大きくなったら分かるようになるぞターニャ」

「……ふーん」


 ターニャはよく分からないといった顔をする。

 まあターニャがバイクに興味を持つかまでは分かんねーがな。



 そんなこんなで俺達のカブはガチャガチャと音を立てながら安定した速度でバダガリ農園に近づいていった。


 やはり道がある程度整備されてるってのは重要だ。

 アスファルト舗装とまでは言わないが地面が平坦で、ある程度固められているというのは配送業者にとって凄まじい安心感を与えてくれる。




 ――ヤマッハの給油所から2時間かからないぐらいで、俺達はバダガリ農園に到着した。


「ヒューッ。やっぱここは広いなー」

 カブに乗りながら遠くまで続く小麦畑を眺めていると、俺の後ろでゴソゴソする音が聞こえた。


「おじ、降りるー」


 どうやらターニャが降りたがっているようだ。

 俺はターニャに自分で降りる練習をさせてみようと思った。


 ――ガチャッ。


 俺はカブ降り、サイドスタンドを立てた。


 パカッ。


 そしてシートを上げて、そのタンクの上部を指差した。


「よしターニャ、一回自分で降りてみろ!」

 ターニャはニッコリ笑って、

「うん!」

 と答え、ササッとリアボックスをまたぎタンク上部からクラッチカバーへ足を運んで一瞬で一人で降りてしまった!


「えっ!……お、お前、そんな簡単に降りちゃうわけ?」

 俺はもっと「こうやって降りるんだぞ」的なアドバイスするつもりだったのに、……などと驚いている俺を背にターニャは駆け出して行った。


「あはははっ!広ーい!」


 嬉しそうにはしゃぎ回るターニャを見ていると俺も嬉しくなってきた。


「おう、しばらくお前走ってついて来るか?」


「うん!走るー!!あははっ」


 カブも笑顔を見せた。

「おおっ、ターニャさんが降りてくれたお陰で20キロは軽くなりましたねー。じゃあ僕らもゆっくり走りますか!」

「おう!」


 そんな風にして俺達は広大な小麦畑の畦道をひた走った。

 やっぱカブはこういう道を走る姿がよく似合う。


 数分ほどそんなのんびりした気分を味わっていた俺達だったが、気がつくと以前バダガリと会った場所まで来てしまっていた。


「そういやバダガリあいつどこにいんだろな?」

「そうですねー、前はこの辺で変な体操みたいなのやってましたよね?今度は会う場所も決めときましょうカイトさん」

「おう、そうだよな」


「あ、バダガリいたっ!!」


 ターニャが畦道のはるか遠くの方でバダガリを発見したらしく、そう叫ぶ。

 俺も目を凝らすが、確かに小さな影しか見えない。


「お前目ぇ良いなー。おーい!バダガリかー!?」


 と、俺が叫ぶと。


「おおーうぅ!!」


 というとんでもなくデカい声が返ってきた。


 さらにバダガリらしきその()は次第に大きくなっていき、こちらに猛ダッシュしてきていることが伺えた。


「いや、アイツめっちゃ足速くね!?」

「で、ですね……僕はちょっと恐怖を感じます!」



 ザザーッ!!


「うおおっ!やっぱカイトさんか!?軽油手に入ったんだな!」


 バカでかい声でそう叫ぶバダガリが目の前に走ってきた。


「きたよー」


 ターニャが両手を横に広げて、バダガリを覗くように見上げて言った。


「おう!あんときの子供か。元気そうだな!ほーらほーら!!」


 バダガリはターニャを抱え上げ高い高いをしてくれた。ターニャは大喜びではしゃいでいる。


「おう、バダガリ。約束通り軽油8缶満タン持ってきたぜ!1缶1600ゲイルだから全部で12800ゲイルだ。よろしくな」


「うおっ!マジで今日8缶満タン持ってきてくれたのか!?正直ちょっと遅れると思ってたぜ」


「バカ野郎。ウチの会社『スーパーカブ』を舐めんなよ。ウチのスローガンはな、『早い・確実・()()!』だからよ、覚えとけよ!」


 俺は自慢するように笑顔で胸を張った。実際納期にも間に合っているし自分達を褒めてもいいだろう。


「しょ、正直だなアンタ……」


 バダガリはイングリッドと同じ反応を見せた。


「ふっ、後から高い!って文句を言われないように最初に宣言してんだよ。特に軽油はギルドを通せないらしいから自分で価格交渉しなきゃなんねえし」


「はっはっは、なるほどな!それじゃ、カイトさん。早速その軽油受け取るわ。12800ゲイルだったな?今持ってくるから待っててくれ!」


 そう言ってバダガリはまたどこかへ走り去って行った。


「やっぱり豪快な人ですね、バダガリさん」


 カブはまた遠くの()になっていくバダガリをそう評価した。


「しかし馬鹿じゃねえ。それどころかこれだけの広さの農場を運営してるんだ、優秀な経営者といってもいい。パッと見あんまそうは見えねえけどな」


「あははは、確かに!」


「まあとにかくアイツは大事な商売相手だ。今度も長い付き合いを目指すぞ!」

「はい!」



 ――といった感じで俺達はバダガリが金を持ってくるのを待っていると、奴は思ったより早く再び現れた。


 遠くから何やら金属同士がぶつかり合う音が聞こえ、よく見ると俺達が借りた荷車と同じものをバダガリが人力で引っ張って来ている……。


「速っ!」


 ガラガラガラ!!……という音と共にバダガリが引っ張ってきた荷車の上には、空のタンクが8缶積んであった。ああ、なるほど!


「うしっ、じゃあカイトさん、そのタンクとこの空きタンクを入れ替えるぞ!」

「おう、それもウチの仕事だ、しっかりやらせてもらうぜ!」


 数分後、8缶全てのタンクを空タンクと交換し終え、いよいよ代金の受取だ!


「あいよ、12800ゲイルだ。しっかり確かめてくれい!」


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