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㉟ セシルの感謝


 俺はギルドで報酬を受けた後の事を考えた。


「カブ、バダガリ農園だけどよ、もう今日中に行く事にするわ。報酬6000ゲイル受け取ったら給油所で軽油5缶買えるだろ?」


「あ、ホントですね。それで荷車に軽油8缶満載に出来ます!」


「だろ?」


「いやー、今日は稼げますねー!」


 と、まるで自分のことのようにホクホク顔になるカブだった。



 早速ギルドに直行すると、セシルとイングリッドの二人がカウンターに立っていた。ちょうどいいぜ!


「おう、行ってきたぜー!」


「あ、カイトさん。え?もう帰って来たんですか!?まだお昼ですよ。早ーっ!」


 驚くイングリッドにサイン入りの伝票を渡してニッと微笑む。


「あったり前よ。早い・確実・()()!それがウチの会社『スーパーカブ』だ!!」


「……カイトさん、それ正直過ぎません?」

 イングリッドはちょっと呆れ顔で笑っている。

「じゃ、私は伝票()()してきますね」


 そう言ってイングリッドはカウンターの奥へと消えていった。

 いつも思うけどどうやって荷物が届いたか確認してんだろな?


 そうな事を考えつつ俺はセシルの方へ目をやると、不思議な事に今までほぼ無表情無感動に写っていたセシルが少し嬉しそうに見えたのだ……。

 俺の気のせいかな?


「カイトさん、お疲れ様。やはりあなたに仕事を振って正解だったよ。荷車を用意するのでこちらへ」

「お、おう……」


 俺はそのセシルの綺麗な顔と所作に感心しながら後ろに着いて行った。

 何となく以前よりとっつき易く感じられたセシルに、今日の配達内容について話したくなった。


「そういえば配達先の家な、俺がドアノックしても出てこなくてよ」


「えっ……!?」


 意外にもセシルは目を見開いて驚いていた。

 俺はその反応に違和感を覚えつつも話を続けた。


「このままじゃサインも貰えねーからさ、ドア何回も叩いて聞き耳立ててみたんだよ。そしたら中から咳き込む音が聞こえてきてな――」


「そ、それで!?」


 ジッと俺の目を見つめるセシル。


「届け物がプギャ芋だって事も聞いてたからこりゃあひょっとして……と思ってたら案の定中で人が寝込んでてな。釜戸借りて芋焼いて食わせたら一瞬で回復してよ、そいつにはスゲェ感謝されたぜ!」


 話を聞いていたセシルは目を瞑り、少し上を向いた。

 ?なんかさっきからセシルの様子がおかしいな。


「カイトさん……周りには言わないで欲しいんだが、それは私の()なんだ」


 え?……そうなの!?


「そうか、元々病弱だったが倒れて寝込んでいたとは……ちょうど良いタイミングであの芋が届いたんだな――。良かった」


 心底ホッとしたように胸を撫で下ろすセシル。


「待てよ、じゃああのプギャ芋の依頼主ってもしかしてお前か?」


「ああ、カイトさん……これは内緒にしてて欲しいんだが、あなたの初日の実績を知って、――この人なら任せられる。と思って自分で依頼書を書いたんだ。ありがとう」


 セシルは俺の手を握って感謝してくれた。

 俺はちょっと照れつつも手を握り返した。


「はははっ。そうだったのか、まあ良かったじゃねえか!俺の方こそ割の良すぎる仕事振ってくれて助かってるぜ?次も頼むわな」


「ああ……当分ないと思うけどね」


 その時セシルはそれまでのような微笑ではなく、ハッキリ分かるぐらい笑顔になっていた。

 そのとんでもなく美しい笑顔に俺は年甲斐もなくドキッとした。


「あっと、そうだ、荷車をお渡ししないと……」


 セシルと俺は思い出したように荷車を転がし入れた空き部屋へ急ぎ、俺は再びあの高級荷車と対面した。

 取手を握り、カブの停めてある場所まで引っ張っていく。


「報酬もらったら次は給油所だな。今日は忙しい日だわ」


 カブの燃料計をみると針が三分の二ぐらいのところまで落ちてきていた。この針の位置だと残りのガソリンは半分の2リットルちょいってところだ。


「うわー、結構カツカツだな。ガス欠になったらどうしようもねえぞ」


「……」


 俺はカブに話したつもりだったが反応がない、そこで思い出した。コイツ、セシルの前じゃ話さねえんだった。


 そんな悪い奴じゃなさそうだぞ。カブよ?


 ――と俺は心の中でつぶやきながら、荷車をカブに取り付けていった。



「では私は仕事に戻る。カイトさん、今後もよろしく」


 セシルは俺に軽く礼をすると、ギルド内に入っていった。

 それと入れ替わるようにイングリッドがやってきてニヤニヤしながら俺を見る。


「カイトさん……セシルさんと何かあったんですか?あの人のあんな嬉しそうな姿、私初めて見ましたよー?」


 俺はセシルの「周りには言わないでほしい」という言葉を思い出し、ちょっと慌てて反発した。


「う、うるせえ何もねーよ。セシル本人に聞けや!」

「えー……。なんか怪しいなー」

「ほっとけ。つーか鑑定は終わったんか?」


 俺がそう言うとイングリッドは手をポンと叩き、営業スマイルを作った。


「そうそう、そうでした。それでカイトさんを呼びに来たんですよ!報酬6000ゲイルお渡しします。カウンターまで来て下さい!!」


 俺は貰った現金を見てテンション爆上がりした!

 うっひょー、わずか3時間程度で6000ゲイル(24000円)も稼いじまったぜ!!



 ……というわけで受付カウンターでイングリッドから6000ゲイルを貰った俺はすぐさまカブに跨った。


 今現在の所持金が7500ゲイル。


 給油所で軽油5缶買って、そんでバダガリ農園に軽油8缶全て売ると所持金はいくらになるか――そう。



 17300ゲイルだ!!うおおおおお!!!!



 俺は心の中で算出された未来の所持金額に大興奮した!

 しかもバダガリは軽油を大量に欲しがってたから、今日だけでなく明日も同じ様に稼げるかも知れん……。ふ……ふふ……ふはははっ。


 俺は興奮が顔に出て、ニヤつくのを止められなかった。


 とある鉄道ボードゲームで絶好調になっている時のような高揚感を今まさに感じている!



「おじ、次はどこ行くー?」


 ターニャが俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。


「おう、ターニャ。今から給油所行ってそれからバダガリ農園まで行って今日はお終いだ!今日はスゲェお金儲けが出来る日だぞ!」


「……おかね?ふーん……」


 ターニャにとってお金の事はいまいちピンと来ないらしい。そうか、まだ早いか。


「そんで帰ったら焼肉だ!美味いぞー!!」


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