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㉞ 危険運転!?


 その時俺の体に起きたこと。それは今までの43年の人生でも味わったことのない高揚感と全能感!!


 そしてこのヘドライト村に来るまでに溜まっていた体の疲労感は全て吹っ飛び、そこら中を駆け回りたい衝動にかられた!!


「う、うおおおおおっ!ははははははっ。こ、これはヤベェ!ターニャ、お前はどうだ!?」


「あはははあはははっ!きゃっきゃっ!!」


 などと飛び跳ねつつ体を回転させたりしてめちゃくちゃ愉快そうにしている。

 子供だからあまり違和感はないが間違いなくこのプギャ芋の効果だ!


 ……いや、ちょっと待て。この芋あきらかにヤバい食いモンだぞ!?


 現代の麻薬や覚醒剤みてえなもんじゃねーか!?これから中毒とかになったらやべえ!

 ……いや、でもターニャは昔ちょっとだけだが普通に食ってたって言うし……。


 などと、体調は最高だが元々ちょっとネガティブな俺らしく思考は暗い。


「な、なあ。この芋って、その……大丈夫なのか!?依存性とか、副作用とか……?」


 青年は目をパチパチさせながらよく分からないといった顔をする。


「え?これはそんな危険なものじゃないよ。子供から老人に至るまで昔からお祭りや病気の治療とかでほとんどの人が食べる芋なんだけど……。依存性で言うとお酒とかの方がよっぽど高いよ」


「あ、そ、そうなのか……なんだ。じゃあ平気なのか!良かった」


「ははっ、そもそもそんな危険な物なら配達依頼なんて出来ないでしょ?ギルドで弾かれてさ。あははっ」


 声を上げて笑う青年だったが、確かにギルドは中身を確認してるようだし……ま、大丈夫か!


「はははっ、しっかしこんな元気になったのは久しぶりだぜ!いいなこの芋」


 俺は立ち上がって自分の体を動かし、その軽さに驚いた。

 体感的には20代ぐらいだぞこりゃあ!


 そしてこうも思った、――家にも一本あったらいいな。究極の薬になるし……。


「なあ、この芋買ったらいくらぐらいするんだ?」


 その答えに俺は目が点になった。


「ふっ。なんと1本8000ゲイル!ビックリでしょ?」


「は……8000ゲイル(約32000円)!?マ、マジか……」


「ふふ、凄まじい価格でしょ?でもそれだけの価値があるってのも今あなたが直に体感して分かったハズだよ、カイトさん」

「うん、まあ確かにこれは8000ゲイルの価値があるわな」

「だから国によってはこれを流通禁止にしている所もあるって話。医者が仕事を失うとかでさ」


 俺と青年がそんな話をしていると、元気が溢れて仕方ないといった感じのターニャが、


「カイトおじ!早く、次行こう!カブ乗るー!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら外を指差してそう叫ぶターニャ。早く外で走り回りたいんだろう。


「おう!すぐ行く」


 俺はそう答え、青年を振り向き、

「お前さん、体はもう大丈夫だな?」

 と確認した。

「うん大丈夫。まだ芋も丸々一本あるしね。本当にありがとう、カイトさん!」

 青年はそう言って頭を下げた。



「じゃあ、達者でな!」


 俺は青年にサッと手を振って家から出た。


 すると、カブの二人乗り用のペダルを出してそこに足を掛け、自分でリアボックスに乗り込もうとするターニャが目に入った。

 だ、大丈夫か?お前の背丈の方がリアボックスの開け口の高さより低いぞ……!?


「ふっ、よいしょっ……と」


 という俺の心配をよそにささっとターニャはボックスインしてしまった!

 うおっ、やるなお前……。


「へへー!」


 どんなもんだとばかりに満足げな顔を見せつけてくる。俺はなんかちょっと笑ってしまった。


「うおっしゃーっ!カブ、準備は良いかァ!?」

「カブー出発ー!!」


 俺達の張り上げたその声は明らかに普段のそれとは違って活気に満ち溢れまくっている。


「ええ……!?なんか二人共テンションおかしいですよ!なんかヤバい薬でも飲んだんですか??」


「おお!薬じゃなくて芋キメてきたぞ!なあターニャ」

「うんー!プギャ芋キメて元気元気!あははっ」

「だ、大丈夫ですか?これ飲酒運転よりヤバいんじゃ……!?」

「安心しろォー!今の俺達はただ元気なだけじゃなくて理性的な脳みそもしっかり働いてるんだぜ!ふはははは、万能感がスゲェわ!!」

「は、はぁ……じゃあまあ行きますかー」



 ドゥルルルルッ。ジャジャジャッ!ガリッ……ドゥルルルルン!!


「はっはっはーっ!行けぇーー」

「うぇーーい!」


 ほとんど下り坂の帰り道は楽しすぎた!

 ずっとターニャと一緒に叫びながら運転していた。


「あばばばば、カイトさんっ!ちょっと運転がピーキーすぎないですかー!?」


「ああん?こんぐらい行けんだろ。気張らんかい!!」


 ブィイイイイイン――。


 プリッピングで2速から1速に落とし激しいブレーキングをかます!


「ヒィイイイ!僕はセローじゃないんですけどーー!!うわああああああーー」




 ……などとカブとの掛け合いを楽しみつつ俺達は再びヤマッハへと帰還した。


 驚いたことに、行きの三分の一の時間で帰ることが出来た!

 確かに帰りはほぼ下り坂とはいえ、俺のおかしなテンションでぶっ飛ばしたのも確実に早く帰れた原因である。



 ――しかしそのせいでカブは不機嫌だった。


「ふーっ……。全くもう……。二人共元気になりすぎです!途中で事故りかけたじゃないですか!?」


 カブはタブレット上に珍しく怒りの表情を映し出していた。


「お、おお……すまんなカブよ」

「ごめんねカブー」


 俺とターニャはカブに頭を下げた。

 俺はこのとき、離婚する前に嫁さんにしょっちゅう謝っていた事を思い出していた。

 そしてカブの次の言葉は俺の胸に突き刺さった!



「全くもう……僕が壊れでもしたらカイトさん、無職になってしまうんですよ?」



 俺は背筋が凍った。そしてちょっと取り乱しながら弁明した。


「お、お、おう!そうだな、悪い悪い。ちょっと俺……おかしかったわ。もうあんなやべえ運転はしねえ!安心してくれ……」


 この世界にはカブのパーツなど存在しないから当然修理なんかも出来ない……。そんな世界でカブ(コイツ)が壊れて動かない――なんてことになれば配送会社「スーパーカブ」は消滅し、銭を稼げなくなり、当然飯も食えない、そしてターニャの面倒も見れない、何も出来ない43歳のおっさんの出来上がりだ……。うわあああああああああ!!!!


 俺はあの芋を思い出し、真剣な顔でターニャに語りかけた。


「な、なあターニャ。お前昔プギャ芋食ったときは今みたいにならなかったのか?」


 ターニャはちょっと思い出すように上を見てから口を開いた。


「大丈夫!食べたのほんのちょっとだけだったもん!」


 ターニャはイタズラっぽい笑顔で答える。


 なるほど、あれは病人や弱った人間が少しだけ食べるぐらいがちょうど良いのかもな。


 俺やターニャみたいな健康なやつがデカい塊を一気に食っちまうと今みたいにおかしくなるんだ。理解したわ。


 一通りプギャ芋に関する知識を得たところでお次はギルドだ。



 お待ちかねの報酬ゲットだ!


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― 新着の感想 ―
ターニャちゃん、めちゃくちゃ可愛い(笑)
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