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㉝ うおおおお!


 一旦枯葉に火がつくと、油を多く含んでいるのか一気に火は燃え広がった!よし。

 俺はターニャから小枝を10、薪を1の割合で受け取り、順調に薪に火を移していった。


 着火から約2〜30分後、見事に5本の薪に火が燃え移り釜戸に赤い炎が宿った。

 もちろん中にしっかりプギャ芋を一本入れて焼いてある。


 俺は床に横たわる青年に少し冗談めかして声を掛けた。


「おう、もうちょいで芋が焼けるからよ。それまでに事切れるのはやめてくれよ?」


「う、……ます」


 ハッキリとした言葉ではなかったが、なにやらお礼を言われた気配がした。

 ……しかしプギャ芋って何なんだろうな?薬になるって言われてるらしいが、ただの畑で取れる芋だろ?本当に薬としての効果あるのか?


 俺はふと時間が気になりスマホを見てみると午後7時だった。

 ……という事はこっちでは午後1時ぐらいか。今からヤマッハに帰ると午後3時ぐらいだ。バダガリ農園へ行くのはやはり明日にするべきだろうか?

 ……等とあれこれ考えたりして、ターニャと釜戸の芋をひっくり返していた。


「おじ?もうそろそろいいかも?」

「お、そうか」


 ターニャに促され俺は鉄の長い箸のような棒で芋をつまみ引っ張り出した。

 その瞬間――!!


 ふわっ……と、もの凄い良い香りが辺りに立ち込め、俺とターニャは二人同時に、


「おおーっ……!」


 という感想を漏らすのだった。


 その芋の表面は黄金色から焼けて焦茶色に変わっていたが、少し握ると柔らかく、十分火が通っているのが分かった。


「よっしゃ。コイツをまずあの兄ちゃんに食わすぞ!」

「ういーー!」



 ……というわけで適当に置いてあった木の皿に焼き芋を乗せ、青年の元へ運ぶ。

 青年は俺達を振り向き、目を大きくひらいて手を伸ばしてきた。


「お、自分で食えるか?ほら」


 俺は二つに割った芋を青年の手に持たせた。

 少しずつ口の中へ芋を運ぶ青年、そして大きく口を開け芋に齧り付く!!


 モゴモゴと咀嚼し、ゴクンとこちらにも聞こえるような音をたてて芋を飲み込んだ青年は驚きの行動に出るのだった――!!



 バッ!!


 それまで床に伏して完全に病人のようだった彼は、一気に上半身を起こし、そして立ち上がったのだ!!


「えっ!な、何だ!?病気治ったんかお前!?」

「おおー!立ったー?」


 俺とターニャは青年の急激すぎる回復模様に驚きの声を上げる。


 青年はベッドから降りてきて、エネルギーが有り余ってしょうがないといった風にその場で数回飛び跳ねたり腕を回したりしている。まるで自分の体の感覚を確かめるかのようだ。


「う、うおおおおおおおーーっ」


 そしていきなり叫び出した!?な、何がどうなってんだ!?コイツの身に何が起きたんだ!?


 そして次に青年は家のドアから外に出てどこかへ走って行った!?


「お、おい待てー!?どこ行くんだ!サインしろコラァァ!」


 大慌てで青年を追いかけるべく俺も家の外は駆け出す!

 しかし青年はもの凄い速さで村の畦道をひた走っていく……、クソォ、何じゃいアイツ!?ターニャ。追うぞ!!


「ういーー!!」


 何が何だかわからないが楽しそうな笑顔を見せるターニャをリアボックスに突っ込むとカブに跨った。


「あ、カイトさん。あの人追いかけるんですね?」


 カブは青年と俺達の行動を見て察してくれたようで、すでにエンジンがかかっていた。ナイスゥ!!



 ドゥルルルルン!!ガシャッドゥルルルルルルルルーーーーガシャットゥルルルルルルルルルーー。


 気が荒くなっていたせいか、いつもより回転数を大分あげながらのシフトアップで奴を追いかける!


 さすがに人間の走りとバイクの走りでは距離は一瞬で縮まっていく。

「おいっ。待てやー!どういうつもりだ!?」


 ついに青年に追いついた俺は大声で怒鳴った。

 しかし、青年の方はというと……。


 ――笑顔が弾けていた。


 ええ!?な、なんだコイツ!?


 俺の声を聞いた青年は立ち止まり、俺の顔を見て涙を流した。


「あはっ、はあっ……はあっ。素晴らしいっ!素晴らしい芋だっ!」


 息を切らせながら感動したようにそう話す青年。俺は一旦青年に家に戻るように言った。


「ちょ、ちょっと色々話もある……一旦お前のウチに戻ってくれねーか?」

「あ、オッケーオッケー!つい嬉しすぎて大暴走しちゃったけどもう大丈夫!落ち着いたから戻りましょう!」


 相変わらず会心の笑顔でそう話す青年だったが中々カッコいい顔してんな。



「いやーもうね、俺昔っから病気あって急に動けなくなったりすんの。だから今回持って来てくれたあんたの芋で俺めちゃくちゃ助かったよ!ホントにありがとう!!」


 家に戻って最大級の賛辞を送られた俺は、さっきまでと青年の態度やらが色々違いすぎる事にポカンとしていた。

 ターニャも不思議そうに青年の顔を見つめている。


「お、おう。まあ役に立てて良かったよ。下手したら命に関わってたかも知れねえしな」


 俺は遠慮がちにそう答え、サインの事を思い出して伝票を差し出した。


「あ、サインね。ほいほい!あ、あのさ……」


 軽快にサインをしてくれる青年は俺に質問してきた。


「あんたってどこの配送会社の人?」


 俺はニヤリとして答える。


「おう、会社名は『スーパーカブ』俺の名前はカイトだ」


「スーパーカブのカイトさん……。分かった、覚えとくね!」


 そう言って笑顔で伝票を返してくれる青年だったが、伝票の依頼日を見て驚きの声を上げた。


「え!?……っていうか今日の朝ギルドで依頼した芋がもうきたって事??凄すぎじゃない?」

「ふっ、ウチは大手の配送会社みたいに大量の物資を運ぶのは苦手だが、遠距離を最短で届けるってのは大得意だ!任しとけ!!」


「……分かった。ありがとう!そだ。お礼って訳じゃないけど、この芋半分食っていいよ」


 それに大歓声を上げたのはターニャだった。



「えーー!?プギャ芋……こんなに貰えるの!?」



 青年は笑って答えてくれた。

「ははっ、いいよいいよ。芋はもう一本あるし。見ての通り僕も今めちゃくちゃ回復したからね。この芋って健康な人にとっても体にいいみたいだし。是非どうぞー」


 俺とターニャは顔を見合わせた。


 そして半分に分けた芋の皮を全部剥いて、さらに俺とターニャの分に分割した。


 ゴクリ……。


 ターニャを見るとちょっと涎が垂れている、それ程のものか……プギャ芋とは……!


 二人共プギャ芋を手に取ってお互いに顔を見ながら、芋を口に放り込んだ……。すると――!!



「う、うおおおおおおおおっ!!!!」

「ふあああああああああっ!!!!」


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