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㉜ プギャ芋


 それから4〜50分程経っただろうか、ようやく眼前に見覚えのある小さな村が見えてきた。


「あ、……あれだっ!見えてきたぞー!」


「いやー長かったですねー。カイトさん

 、ターニャさん、お疲れ様でした!」


「……ここ、前とおったとこ?」


「そうだぞターニャ。ここまでよく頑張ってくれたな!」

「うん!……」


 さすがにかなり疲れたらしくターニャはリアボックスの中でポケーっとしていた。

 しかし、ヘドライト村に着くと辺りをキョロキョロ見回し始めた。その顔には疲れなど微塵も感じさせない。


 子供はすぐ回復していいなあ……。


 一方で今の自分の状態はというと、間違いなく疲労困憊だ。

 手足や背中、下っ腹、首に至るまであらゆる部位に力を入れていたため、全身の凝りがものすごかった。


「えーっと、どこの家でしたっけ?」

「配達先はフェンダーって名前の家だ。この村、家は5〜6件しかねえから端から当たっていけばいいだろ」

「はい。では行ってみましょう!」

「いこーいこー!」



 俺達はちょうど2軒目でそのフェンダー家を発見した。

 赤い煉瓦の家で、この村では一番大きい家だった。



「どもー。お届け物でーす!」


 すぐさまカブを降り、ターニャから荷物を受け取ってドアの前で叫ぶ。挨拶も板についた感じだぜ。


「…………」


 ん?反応がないな。もう一度呼んでみよう。


「ちわー。配達ですー!」


「…………」


 やはり人の声はおろか物音すらしない。

 ……誰もいねえのか?まずいぞ、この世界に置き配みたいなシステムねえだろうし、ってかそもそも受け取りのサインもらわにゃ報酬が貰えねえ……、んー、どうする!?


 困った俺はドアを2、3回叩き、ドアに聞き耳を立ててみた。すると――。


 かすかに奥から聞こえてきた!「ゴホッ、ゴホッ」と誰かが咳をする音が!!


「あ、ヤベェんじゃねえかコレ……」


 俺は今手に持っている配達物が薬にもなるプギャ芋である事も考慮して考えると、中で病人が倒れている線を連想した。


「やべっ。これは家に押し入った方が良いか!?……いや、しかし何もなかった場合強盗かなんかに間違えられるかも知れん……あ!!」

 俺はあることを思いついた。


「ターニャ、お前……俺と一緒にこの家に入ってくれ!」


 ターニャは「?」という顔をしつつも「分かったー!」と笑顔で俺に協力してくれるみたいだった。


「よっしゃ、ありがとうよ。子連れで入っていったら少なくとも泥棒には見えねえだろう。失礼するぜ――」


 キィ……。


 俺達はドアを押して中に入ると、奥の方からやはり「ゴホッ、ゴフッ……」といった声がしっかりと聞こえてきた。

 俺はとりあえず声をかけることにした。


「おーい!誰か倒れてないか!?病人がいるんじゃないか?俺は配送会社のもんだが、プギャ芋ってやつを持ってきたぞー!!」


 そういいながら咳の聞こえてくる奥の部屋へと入っていくと……、いた!


 木で組まれた台の上にワラが敷かれた(恐らくベッドであろう)所に横たわる男が咳き込んでいる。

 顔だけ見ると若そうだな。歳はまだ20ぐらいだろうか?


 その男は床に伏しながら俺の方を振り向く。よし、意識はちゃんとあるな。

 俺とターニャは男のベッドに駆け寄った。


「おい、安心しろ!俺は泥棒じゃねえ。ただの配達員だ!」

「う……んん、配……達?」

 青年はなんとか返事をした。そうだ!プギャ芋の事を説明しよう。


「コイツがその配達物だ」


 俺は青年に革袋から出したプギャ芋を見せた。辺りには美味しそうな甘い匂いが漂いだす。


「このプギャ芋ってのは薬にもなるらしい。多分依頼人はお前がこんな感じだからこの芋で回復させてやりたかったんだろう。どう料理するか知ってるか?」


 すると横からターニャが助言してきた。

「ターニャ知ってる!これ焼いて食べる!」

「あ、そうなんか!要は焼き芋か、普通だな。おい、ちょっと釜戸借りていいか?」


 俺が青年に問いかけると、青年はハッキリとした言葉は発さずに首を縦に数回振った。


「オーケーだな。早速調理に取り掛かるぞ!」

「おじ、これ!」


 ターニャは俺より先に釜戸へ走り俺を呼んだ。なんかやる気満々だなお前!

 そんなターニャを微笑ましく思っていた俺だったが、その後かなり戸惑うことになる。


 ん?あれ?……これ、どうやって火ィ点けるんだ?


 釜戸の周りを見回すと、細かい小枝や油分の多そうな広葉樹の枯葉みたいなのが集められているスペースがあった。

 恐らくはコレに着火させて最後に大きな薪に火を燃え移らせるんだろうが……。


「点火はどうやってやるんだ?まさかライターなんてねえだろうし……」


 俺が困っていると、ターニャが何やら石のようなものを俺に持ってきてくれた。


「おじ、これをたたいて火をつける!」

「おお、……これ火打石か!ナイスターニャ!使った事ねーけどやってみるぜ!」



 カッカッカッ……カッカッカッ……。


 俺はその二つの石を、火種の小枝や枯葉に向かって100回近く打ち付け続けたが、全く点火出来る気配がない……。くっそ、こんな所で躓くとは……!!

 やや苛立つ俺に構わずターニャは隣にあったもう一つ釜戸の中を覗いている……何してんだ?


「あっ!()()()()()があるー!」

「え、何?何だって?」


 俺は聞き慣れない単語に戸惑いターニャに聞き返した。


「おじ!これまだあったかい。中に火が残ってるかも!」


 俺はそれを聞いてターニャと同じように釜戸を覗くと、()()()()()()()()のようなものが逆さまに置かれているのを発見した。これがカーフュー!?


 触ると熱を帯びていて熱い!ターニャの言った通り、中に前使った火種が残ってるかもしれん!


「おおっ!良いんじゃねえかコレ」


 早速俺はそのカーフューとかいう鍋を取った。すると中には燃え尽きて白くなった灰があり、その中心部分にまだ薪が少し赤く燃えているのを発見した!やった。


 俺はターニャに枯葉や小枝を持って来させている間に、その赤い灰に向かって息を吹きかける。

 すると、その赤い炭から僅かにゆらっと小さな火が上がるのが見えた。


「火だ!……」


 俺は妙に感動してしまった。今まで火というものにこんなにありがたみを感じた事はない。


 その上に枯葉や小枝を少しずつ被せていく、火が消えないように空気の通り道をちゃんと確保しながら慎重に火を大きくしていって……。


 ボォッ――。パチパチパチッ!!


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