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㉔ 家まで帰れるか?


 カブはタブレット上でドヤ顔を貼り付けて満足そうにしている。


 やっぱコイツあほなんじゃないか?


 店員の兄ちゃんはその荷車をぐるっと眺めて、とある文字に驚愕の声を上げた。


「え!?……コレ、バダガリ農園の荷車じゃないっすか!?ブランド品ですよ!!」


 ギクッ……!


「カイトさん。コ、コレどうしたんですか?軽油の入ったタンクを運ぶのにウチでも欲しいぐらいなんですが――」


 俺はどう答えるか迷ったがこう言うしか思いつかなかった。


「いやっ、それはおめぇー……企業秘密ってやつだ。色々あってすまねえが話しずらいんだ」


「そうっすかー。残念、いやー羨ましいっすわ」


「ははっ。ま、頑張って買えや!価格は24000ゲイルって話だ」

「24000ゲイル!?……り、了解っす!」


 兄ちゃんは驚きつつも笑顔を崩さず答えてくれた。かなり性格のいい奴だなコイツは。



 ――そんな感じで俺は貸し出し用タンクを8個も借りて、カブの荷車に載せた。

 ターニャが不思議そうにタンクの敷き詰められた荷車を眺めている。


「ターニャ、お前腹減ってねーか?」


 そろそろ日も高くなってきて飯時じゃないかと思って声を掛けたのだが。ターニャは「?」といった顔をしていた。


「昼飯だよ。ご飯。そろそろ食うかって聞いてんだ」

 それを聞いたターニャは目を輝かせた。

「ご飯たべるー!おじ、ご飯ご飯ー!!」


 リアボックスから身を乗り出し飯の催促をしてくるターニャ。

 うんうん、子供はそうでないとな!


「ははっターニャちゃん結構食べるの大好きですよね?」

「おう、てかもしかしたら今まで一日二食だったのかも知れんな。朝と夕の」


 俺はターニャを喜ばすために付け加えた。


「これからは昼飯もちゃんと食えるからなターニャ。嬉しいか?」

「うん!昼飯昼飯!」


 ははは。ま、俺も昼食わずにいるのはキツイし、一旦家帰って昨日買った食材でなんか作ろう。



 ガタッ、タプン……。


「……よっ、と。……カイトさん。コレで6缶満タンになりました。料金は一缶400ゲイルなので2400ゲイルっす!」


「おう」


 俺は料金を支払うと、もう残り1500ゲイル程になった。

 流石に8缶全部買うと持ち金が少なくなりすぎるから6缶に留めておいたのだが、これでも日本円なら6000円くらい。

 全財産がこれって冷静に考えてやべーよな……。


「毎度ありがとうございましたー!」


「よし、んじゃまたなー!」

「さようなら店員さん!」

「バイバイー!」



 という感じで気持ちよく軽油を購入しカブを走らせようとした、――が。


 ズシッ……。


「うっ、やはり重い!!」

「ぐっ……コレは結構大変ですねっ!」


 スタートにかかるエネルギーが通常とは桁違いに必要だ。――だがそこはカブだ!



 ドゥルルルルルルゥゥゥゥ――。


 ゆっくり、しかし確実にスピードは増していく!


「ふはははっ。さすがカブの1速は耕運機並だぜ!」

「カブ。凄い!強い!」


 俺とターニャに褒められてカブはちょっと調子づいた。


「ふっふっふ。どんなもんです。正直最初にヘドライト村に行ったときの山道のほうがキツかったですよ」

「あー、昨日の最初の依頼で登った道か!ありゃあ鬼だったな!」


 しかしカブは真剣な顔で忠告する。


「……カイトさん。確かに軽油を6缶積んでもこうやって動かすことは出来ますし、ある程度速度は出せると思います。ただ、急な坂や地面の不安定な砂利道とかだとどうなるか分かりません!」


「お、なるほど。今みたいな平な道だとこうやって動かせるけど山道じゃ厳しいってわけだな……ん?いや、ちょっと待て!!」


 俺はヤバいことに気がついた。


「そうです、……僕らの家に帰る途中にはあの荒れた山道があるんです!そしてある程度の登り坂でもある。正直心配です……」


「ま、行ってみなきゃ分からんわな」

「ですね……」

「カブー、はいたつできない?」

「いえっ。大丈夫ですターニャさん!僕に不可能は無いのです!!」


 最後にターニャがカブに聞いた事でカブは奮い立ったらしい、単純な奴だ。



 ――トゥルルルン、ガタッガタタッ……。


 平坦で広い道が終わり、俺達の前には荒れた山道が現れた。――さあ、こっからが正念場だ!


「行くぞ……」

 カシャッ。ブウウウウウウン……。


 俺はカブのギアを2速から1速に落とし、山の中へと続く登り坂をにらむ。


 ドゥルルル……。


 ゆっくりと進むカブ、それまでと違い軽油缶同士がガチャガチャと音を立て始める。


 そして俺もリアボックスの中のターニャも大いに振動で震えている。


 リアタイヤが小石を踏むとジャリッという音と共にタイヤがスリップし、バランスを崩しそうになる。


「くぅっ、これはキツイな!!」


 足を伸ばしながら運転しないと不安なぐらい車体がぐらつく。

 しかし少しづつではあるが前には進むのである意味安心していた。


 しかし、坂の道のとある場所に差し掛かったとき……なんとタイヤが空転し全く前に進まなくなったのだ!!

 これはマズいぞ!?


「やべっ。一旦俺は降りて荷車の後ろから車体を押す!だからカブよ」

「分かりました!ハンドルとアクセル操作は任せて下さい!!」

「おじ、ターニャも押す!」

「おお、手伝ってくれるかターニャ。よっしゃ!」


 俺はターニャの心意気と、実際後ろから押してくれる心強さで嬉しくて顔がほころんだ。


 通常ではありえない事だが、俺がハンドルを手放した状態でもカブが自分でバランスを取って直立してくれる。

 それを利用しない手はない。

 俺は荷車の後部に両手をそえて、ターニャはその俺の腕の下で俺と同じポーズで荷車を押し、二人で一気に荷車を押した!すると――。



 ジャリッ、ガタガタッ、ドゥルルルン……!!


 空転状態だったタイヤがしっかり地面に食い込み一気にカブは前進した!!


「うおおおおー!!やったぜ!」

「やったー!おじ、カブがうごいた!!あはははっ」


 俺は笑顔でターニャと顔を合わせて喜んだ。

 そしてすぐにカブを運転しにシートへ駆けつけた。


「やったなカブ!」

「はい、いやーやっぱり後ろから押してもらえると大分違いますねー!はっはっはっ!」

 喜びに溢れていた俺達だったが、俺はここでハッとした。


「あ、ちょっと待て!ここの箇所を通りやすい様に補修しとこう。今後も何度も通るだろうからな」


「あ、そうですねー。流石カイトさんは先を見てますね!」

「そらな」


 俺はタイヤのスリップしていた道の部分を見ると、その部分だけが急な角度の段差になっていた。

 こりゃ滑るわけだ。


「この段差がスリップの原因だな!だが何とかするのにスコップがいる」


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