211 カブと新人の邂逅
やはりカブは嫌がった。
俺に何か哀願するような顔でこっちを見つめている。
「カ、カイトさーん……また僕で練習ですか!?」
「これも仕事だ。まずカブに乗れなきゃ新聞配達どころじゃねえだろ?」
「……例によって全くの素人さんなんですよね?」
「ああ、しかも小柄で怖がりな女子だ。時間がかかるかもしれん」
「ふぅぅぅぅぅーーっ…………」
カブは諦めたように深いため息をついている。そこまで嫌がらんでもいいだろ?
ここでその光景を見ていたガスパルが提案してきた。
「おう、じゃあよカブ。オメーに代わって俺が新人に乗り方教えてやるよ!」
うおっ、どうしたお前!?
カブも驚いている。
「えっ、い、良いんですかガスパルさん!?」
ガスパルは不思議なほど良い笑顔で答えた。
「おうよ、俺だって新人にさっさと乗れるようになって欲しいし、それに何もしてねーと退屈だろ?」
「ありがとうございます!!めちゃくちゃ助かります!!」
俺はそんなガスパルに頼もしさを覚えると共に、随分成長したもんだなーとも思った。
そしてミルコも後に続いた。
「じゃあ俺はウドーさんにオイル交換のやり方とかチェーン調整とか教えますわ。俺も元々機械いじりは好きだったんで!」
「おう!頼むなミルコ」
……という感じでそれぞれの役割分担が決まり、俺達は今日のところは解散という流れになった。
翌日、俺達はギルドが開くよりちょっと早めに再びギルドへと集結した。
俺はちょっとビックリしたのだが、見事に昨日のメンバーが先に到着していた!
「皆早えーな!?」
「ども、おはよっす社長……!?」
真っ先にこっちに挨拶したのはあのボルトだった。おや、何やら驚いているようだが……。
「え、それ何すか!?車にしてはどれもめっちゃ小型っすね!?」
「すごい!このような車があるんですね……」
「私、これに乗れるんでしょうか?」
各々の感想と共に俺達のバイクに近寄ってくる新人達。後ろのウドーとその子供のヴェル、そしてサラも皆俺達のバイクに注目していた。
今日はいつものセロー、カブ、カブ90という3台でギルドに来たのだが、皆後ろに荷車を付けている。この3人……ヴェルも入れて4人を運ぶために用意したのだ。
――ドゥルルルル。
俺達はバイクのエンジンを切らないで、新人たちに挨拶して今日の予定を説明した。
「おう、皆おはよう!とりあえず後ろの荷車に乗ってくれ、本部まで案内する。そこで今日はカブに乗る練習と整備のやり方を皆に教えるから」
「はーい!」
ボルトは子供のような笑顔で手を上げて返事をした。
そして俺は手をバイクに向けて指示した。
「ウドーとヴェルはあのミルコのセロー」
「はい!」
「サラはガスパルのカブ90に」
「は、はいっ」
「ボルトは俺のカブの荷車に乗ってくれ」
「はーい。あ、子供だ!こんちゃー。ちょっとごめんねー」
「わたしターニャ!」
「あ、僕ボルトっていいまーす。よろよろー」
荷車の上でお互いに挨拶するターニャとボルト。この二人は揉めそうな感じはないな。俺はとりあえず安心した。
「じゃ、出発ー!」
――ドゥルルルルン。パルルルルッ。ドゥルルルルーッ。
しばらく本部に続く広い道を時速4~50キロでひた走っていると。後ろからボルトが驚く声と、ターニャがそれに合わせるような声が聞こえた。
「ええーっすごい!?……っはっっははは!!」
「ういーー!!」
なんかカブに驚いているようだがまあ予想通りだ。
――キキッ。
やがて本部に到着して新人達は荷車から降りた。と同時にボルトが俺に駆け寄ってきてこれらのバイクに言及した。
「え、社長!あの、この3台の車、今見てる限りめっちゃ高性能じゃないっすか!?多分なんか理由あると思うんスけど、これだけの性能の車があるんなら、この車を売るというか……国に特許申請みたいな形で発表したりとかって考えはないんスか??」
「ボルトよ、それはダメなんだ」
「あ、やっぱりワケありっす?」
「ああ、実はこれは俺のめっちゃ遠くにある祖国のとある国に存在する車の一種でな。車輪が2つのものを俺達はバイクって呼んでるんだが。俺も簡単にその国には戻れねえし、王や国にその祖国のことを聞かれたり行き方を教えろと迫られたりしても困るわけだ」
ボルトは天を見上げながら呟く。
「あー、いやー、確かに。むしろ下手すると国に捕まっちゃうかも知れないっすね……」
うん。理解が早くて助かるぜ。皆にもしっかり言っておこう。
「だから皆、これらのバイクについては出来るだけ他言無用で頼むな!目立たないに越したことはねーんだ(王都で1回姿見られてるけどな)」
ウドーとサラも何となく理解したようで頷いてくれていた。
よし、じゃあ早速各々の作業にかかってくれ!
「はい!」
ガスパルは早速サラとボルトに、カブ90デラックスを教習車にして乗り方を説明し始めた。
俺はミルコと一緒に、ウドーにカブのオイル交換の説明を始めた。
そして一つ思い出した。
「そう言えば俺達、先のレブルへの貿易輸送で2000キロ走ったんだよな?」
「そうですよカイトさん!今日はセローとカブ90も皆オイル交換してあげましょう!」
するとウドーが驚愕の表情で後ずさった!
「わあああっ車が、しゃ、喋った!?」
ああ、そこからか。




