210 サラ
「え?あっ、はいはい。てかいいんすか?僕、ここの人間になっても?」
「ああ、ボルト。お前さん結構口が上手いだろ?分析力もありそうだし、俺の営業補佐として一緒にやってみねーか?」
するとボルトは目をパチパチさせて「営業っすか!?はぁーっ……」と言いながら頭を掻いた。
「どうした?」
「いやっ、さっきも言ったんすけど、新規で取引先ゲットするのって大変なんじゃないかなーって思って」
「ははは、心配すんな。需要のある所に供給するんだから絶対上手くいく!」
俺はボルトの目を見て自信満々に答えた。
俺の言っているのは軽油をタンクごと離れの村にまとめて配送するというアレだ。これから冬になるから需要は確実にある。これは間違いない。
ボルトは口を閉じたままニマッとした笑顔を浮かべている。
――なんか面白そうだぞこの会社――
そんな風に考えているような気がした。実は俺も今からワクワクしているのだ。
「じゃあまた明日ここでな」
「あっ、はーい。ども、お疲れっしたー」
……そんな感じでボルトの面接が終わり、一旦俺達はこれまでの感想を話し合った。
「いやー、さっきのボルトって奴は強烈だったぜ。なんつーか、今まで見た事もないタイプっつーかな」
ガスパルが俺達にそう切り出した。俺もコメントをする。
「ああ、しかし実際、アイツは結構有能な気がするんだよな」
これは本音だ。というか、だから採用した。
「あ、それ俺も思ったっす!しかもボルト君て俺と同じくらいの年齢でしょ?それであれだけ飄々とした態度で面接に来れるって普通に凄いっすわ!」
「あー、そういや奴の経歴聞くの忘れてたな……まあいい、また明日も会うしな」
「三人目はどんな人でしょうね?」
――ガチャッ。
そう話していると、その三人目の人物がドアを開けて入ってきた。それはなんと女だった!
しかも小さくて中々に可愛いらしい見た目の10代後半ぐらいの女だ。背丈もケイとあまり変わらない。
おおっ!と俺達は色めき立った。
そしてターニャも「おっ!」という何かを期待したような表情を見せている。
その女は入るなり怯えたような目で俺達を見回した。
「あ、あ、あの……お仕事したくて……」
俺はすぐに掌を椅子にかざして座るよう促した。
「うんうん、まあ座ってくれな」
「は、はい……」
「……」
俺達はその女を見て、ちょっと戸惑い気味に顔を見合わせた。
こんな小さな女に出来る仕事ってウチにあるだろうか?
営業にしたってカブに乗って山道走らなきゃならんぞ。
出来る事と言えばギルドの受付みたいな事務仕事だがその辺は俺がやるしな……。
まあ、とりあえず何個か聞いてみるか。
「失礼。お名前は?」
「……はい。サラ=ベタンクールです」
俺は単刀直入に話した。
「サラさんか、いきなりで悪いんだけども、ウチの業務は基本的に荷物の運搬とかの力仕事、そして営業、後は車体のメンテナンスなんだ。サラさんはどういう種類の仕事がしたくて応募したんだ?」
「わ、私は何でも、します。やらせて下さい!仕事しないと……お金がいるんです私」
「うーん、そうか。訳アリか?」
「はい」
俺は今回の面接で一番頭を抱えた。
「サラさんよ、何かこう、自分の武器というか、私はコレが出来ます!ってのはあるかい?」
「……」
サラは少し上を見上げて考えている。
「例えば機械いじりが得意だとか」
「壊したことはあります」
「……物を売るのが得意とか」
「壺を買わされた事はあります」
「……実は人脈が広いとか」
「私、友達が欲しいんです!」
俺は再び頭を抱えた。
どうする?という視線をミルコとガスパルに送ってみるが二人共首を捻り唸っていた。
いやー悩ましいなー……。しかしそこで俺はフッとある事を思い出した。
新聞配達なら出来るんじゃね?
「サラさん、あんた早起きは得意かい?」
「え……」
サラは意外な質問に口を開けたまま固まり、そしてこう言った。
「が、頑張りますっ!」
うーむ、どうなんだろ?微妙な返事に俺はますます悩んだ。
ここでミルコが提案してきた。
「あの、ここは一旦仮採用して、仕事が無理そうなら解雇という形にしたらどうっすか?カイトさん」
お、なるほど。一旦雇ったら簡単にクビに出来ない日本にいたからかそういう発想は浮かばなかった。
「よし、じゃあそういう訳で仮採用させてもらう。もちろん給料は本採用と同じようにしっかり出すぞ」
サラは顔をほころばせ喜んだ。
「あ、ありがとうございます!」
しかし新聞配達以前にカブに乗れるようになってもらわないと話にならない。
ここの人間は二輪車に乗った経験がなく、ミルコでもある程度乗り回せるようになるまで3〜4日はかかった。ガスパルは超人的な運動神経で即乗れてしまったが、まず例外と見ていいだろう。
俺は真剣な顔付きでサラに念を押した。
「で、それに当たって一つ絶対に必要な、とある乗り物に乗るって技能があってな。サラ、君にはそれを習得してもらう。なに、慣れれば楽だから」
その瞬間サラは再び警戒心を顕にして自身の体を抱くようなポーズをとった。
「そ、その……い、いかがわしい事では、ないです、よね?」
何を想像したんだこの子は?
「あー、ウチは求人広告にもあるように配送会社だから、そういう事は一切ない。安心してくれ」
「わ、分かりました」
よし、じゃあまたカブに乗る訓練をしてもらうか。
「本格的な仕事までは10日程あるから。それまでにその技能を身に付けてくれ。早速明日から始めたい。来れるか?」
「はい!行きます」
「よし、あと、朝……っつーか深夜だな。3時ぐらいに起きれるようになっといてくれ」
それを聞いてミルコとガスパルが「え!?」という声を上げた。
「なんだ?新聞は朝一で読むだろ?当然それより早く配達がある。キャットによると3時からとの事で確認はとれてる」
「そ、そうかー。早起きかー。いやー……頑張りましょうか。ガスパルさん」
「お、おう。……そうだなミルコ」
お前ら自信ないんか?
「じゃあそういうわけで、明日ギルドが開く10時頃またここに来てくれな」
「分かりました!頑張ります!」
……という訳で明日、面接を受けた三人に早速仕事を教える事になった。
俺達はセシルに面接終了を告げ、会社の本部に戻る事にした。
――ドゥルルルルン!
「いやー、明日からまた忙しくなりそうですねカイトさん!」
その道中でカブは楽しそうにそう話した。
「ああ、それでな。明日その新人の女の子にカブの乗り方を教えにゃならん。その際カブ、最初はお前に乗らせる事になりそうだ」
「え゛……」
カブは笑顔から一気に青ざめていった。




