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㉑ バダガリ農園


「進めど進めど畑しか見えねーな、とりあえず人を見つけないと話にならん」


 畑の畦道を軽快に走ってゆく俺達だったが人が全く見つからない。

 これじゃ営業どころの話じゃねーぞ!?


 俺はちょっと焦ってガソリンメーターを覗いた。

 するとメーターの針は満タンのFから僅かに下がった所にあった。

 ……一見するとほとんど減っていないように見えるが、実際にはガソリン満タンの状態から1リットル程消費している!それまでメーターの針は下がってこないのだ。


 ――これはつまり、ここまで来るのにガソリンを4分の1程使ってるって事だ!


「往復2リットル使うのか……、こりゃあ何としてでも成果を残さにゃならんな!」


「はい、でも車自体がレアなこの世界ですから、絶対畑の近くに農家の家があるはずですよ……あっ!」


「ん?どうした?」


 カブの叫びに合わせるように俺は周りを見渡した。

 すると畦道の奥の方に黒い何かが動いているのが見えた!何だアレは……まさか熊か!?


 俺は少し身構えつつカブのスピードを落としてゆっくりその黒いモノに近づいていく。


「あれは……!?」


 ……正体が分かった、人間だ!ただのデカい人間だ。

 いやこんなデカい人間、現代でも見た事ないぞ……。2メートルは優に超えてるんじゃねーか?


 俺は警戒を続けたままゆっくりカブで近づいていった。

 その巨大な男はラジオ体操のような動きをしていて、大股を開き前屈みになっていた。

 俺達は背後から近づく形になった。

 カブの音は静かなので相手は気づいてないかも知れん。

 俺は先制攻撃とばかりに大声で挨拶した。


「おう!!」


 するとその前屈していた大男は今度は逆にそり返りそのまま地面に向かって綺麗なブリッジを決めた!!


 ――ガンッ!

「ぐあっ!!痛えーっ」


 な、何じゃコイツは!?


 男はブリッジしながら俺達の方を見て痛がっている。そりゃ地面に頭をぶつけてんだから痛えだろうよ!


「……んー?この辺じゃ見ない顔だな?」


 ブリッジを崩さずそんなセリフをはく男。シュールな絵面だ。


「そらそうよ。この辺の人間じゃねーからな!」


 俺がそう言うと男は初めてブリッジの姿勢を崩し、俺達に対し正面を向いた。


「え?、まさか俺の事も知らない?」

「だから知らんっつーの!誰だお前?」


 俺はこの奇妙な男にとりあえず正体を聞いた。


「そうか、じゃあ教えてやるぜ。俺の名はバダガリ。世界一の農家になる男だ!」


 親指で自分を指してそう言うバダガリという男だったが、「農家」という言葉にハッとした。


「お前本当に農家なのか?格闘家の間違いじゃねーか?」


 そのバダガリという男をよく見ると馬鹿でかい上に筋骨隆々で歳も若そうに見える。一流アスリートだと紹介されても十分納得いくぐらい立派なものだった。


「ふははは。昔は格闘技もやってたぜ?王室の警護隊長までやったが今は農業一筋よ!」


「じゃあ、もしかしてこの辺の畑はお前さんの畑か?」


「全部ってわけじゃねえが半分はウチのバダガリ農園の畑だ!このスズッキーニの小麦の3分の2はウチが作ってんだぜ?どうよ!?」


 バダガリはドヤ顔をキメて自分の畑を自慢し始めた。しかし普通に凄い……。

 俺はコイツを相手に商売出来ねーかなと考えた。


「なあ、あんた……バダガリよ。俺はスーパーカブって会社のカイトってモンだけどよ。今、軽油の巡回販売をやろうと思ってんだよ」


 それを聞いたバダガリは目を見開いた。


「軽油!?……巡回販売……だと!?」


 お、これは好感触か!?


「耕運機やら動かすのに必要なんじゃねーかと思ってよ、この辺の農家に打診して回ってるところなんだ」


 俺が追加で説明を加えると、バダガリは鋭い視線を送ってきた。


「おっちゃん。今、巡回販売って言ったか?もし頼めば軽油ここまで運んでくれんのか?」

「あ、ああ……そのつもりだが?」


 するとバダガリは感極まったように目を細めて天を仰いでポツリとつぶやいた。


「……やっぱ神は俺にグレートファーマーになれと言っているようだ。おっちゃん、軽油買うぞ!それも大量に!!」


 おおっ!マジか!?


「その話を他の配達屋にも一回頼んでみたんだけどな。なんでも軽油やらの可燃物は危険だから配送出来ないとか言われちゃってよ!」


 やっぱそうなんだな。これは好機だ!


「買ってくれるんなら願ってもねえ!このタンクでどれぐらい必要だ?」


 俺はカブのリアボックス内のタンクを指差して聞いた。

 同じくリアボックス内にいるターニャがタンクを掴んで、


「けーゆ、けーゆー♪」


 などと楽しそうにつぶやいている。


 バダガリは本数を指で示した。


「あればあるだけ欲しいってのが本音だが、とりあえず耕運機に入れる分……それ4つ分ぐらいはすぐに欲しいな」


 80リットルか!こりゃあ結構骨が折れるぞ……。しかし俺の心は踊った。

 おっと、ここでちゃんと軽油の単価も説明しとこう。


「分かってると思うけどよ、配達コストがかかる分給油所で買うよりかなり割高になるぜ?」

「む、……いくらだ?」


 実は俺は軽油を売ろうと思った時から計算していた。


 給油所で売られている軽油はこの20リットル入りタンク一つで600ゲイル(2400円相当)。ちなみに未蒸留の場合は400ゲイル(俺が昨日買ったやつ)。

 つまり一般的に一つのタンクに満タンの軽油で600ゲイルが相場って事だ。

 そして巡回販売という形式で売る場合――。



「このタンク一つで1800ゲイル!一般価格の3倍だ。それでいいなら買ってくれ!!」



 俺はあえて通常価格と比較するような言い方をした。

 バダガリはそれを聞いて口を尖らせて渋い顔をした。


「た、高えーーーー!?も、もうちょっと安くなんねーか?!」

「それぐらいでないと採算取れないんだよ!お前も農家なら分かんだろ?」


 続けて誇張も交えつつ上手く言い訳を作る。


「そもそもまず最寄りのヤマッハからここまで来るのに往復で軽油をかなり使っちまう。倍の値段で売っても儲けはわずかだ!」


「むう……」


 バダガリは渋い顔で聞いている。よし、もう一押しするぞ!

 俺はカブを指さして説明を加える。

「それにウチの車は見ての通り小せえから一往復でタンク何10本とか運べねえし、どうしても単価を上げざるを得ないんだ。分かってくれるか?」



 バダガリはしばらく考え込んだ後、口を開いた。



「……一つ、提案がある。これは俺もあんたも特になる話だと思うんだが――」


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