208 新人面接③
いきなり採用決定かのような事を言ってしまった俺は当然ながらミルコとガスパルに突っ込まれた。
「ちょ、ちょっといいっすかカイトさん?」
「おう」
俺とミルコとガスパルは離れた所でウドーに聞こえないように話をした。
「一旦三人面接して後から結果出すんじゃなかったのかよカイト??」
「な、何か考えがあるんすか……?」
俺は半笑いになってこう答えた。
「いやーそのつもりだったんだが、良さそうに見えたからつい勢いで言っちまった。悪いがこれは完全に俺の独断だ」
「ええ!?……」
ミルコとガスパルはお互い困惑したような顔を見合わせていた。俺は少し付け加えた。
「あとこれは偏見だが、求人に応募してくる奴の中でカブに乗って配達したいって奴は多いかもしれん。だがメンテナンスを専門でやりたがる人間は稀だと予想している」
「はぁ……まあ、そうかも」
実際メンテナンスはかなり重要なのだ。
「この前の貿易輸送ん時だって、もし途中でカブの故障とかがあったら輪をかけて大変だっただろ?」
「確かに……」
「チェーンが伸びたままだと燃費も悪くなるし外れたりするし、オイル交換は忘れてるとエンジンぶっ壊れるし。あ、ちなみにここの世界じゃエンジンは壊れたら絶対に直せねえからな!」
後半は語気を強めて強調しておいた、実際問題これは事実である。
「……もし壊れたらどうなります?」
ミルコが真剣な表情で聞いてきた。一応俺の考えを述べておく。
「事故とかでエンジンが故障した場合、カブに月1で日本に転移してもらってバイク屋に預けるしかねえんだが、即日治らなかった場合はまた1ヶ月後に取りに行く事になる」
「えっ!?じゃあその1ヶ月間丸ごとバイクが使えないって事っすか?やばー……」
「ああ、だから今のままじゃまだバイクが足りてない。予備車としてあと2~3台は欲しいな……っと今はその話してる時じゃねえか」
俺達はまたウドーの所に戻り採用報告をした。
「おっす、お待たせしてすまねえ。ウドーさん、あんたがやる気があるなら是非ウチの整備士になってくれ!」
それを聞いたウドーは顔をほころばせて喜びを表現した。
「ほ、本当ですか!?ありがとう……ございます!!」
ここで忘れずにに俺は付け加えた。
「だが月々いくらとかじゃなくて、やった仕事に対してその都度給料が加算されていく体制なんだ。今はまだな……。それでもいいかい?」
「わ、分かりました。一応ある程度金銭には余裕がありますので」
ここで俺は前からちょっと気になった事を聞いてみた。
「なあ、ちなみにウドーさんも含めて平均的な庶民の月給っていくらぐらい?」
ウドーは上を向いて少し考えてこう言った。
「……そうですね。農家で1〜2万ゲイルぐらいで、工場労働者は2〜3万ゲイルぐらいだと聞いたことがありますね」
俺はビックリした!!……安すぎね?
1〜2万ゲイルって4〜8万円だろ?月給だろ?
「か、確認だけど月給だよな?」
「は、はい……」
俺はゆっくりミルコとガスパルの方を向いた。
するとミルコはややバツが悪そうに苦笑いを浮かべ、ガスパルはサッと俺から目を背けた。
「カイトさん。別に庶民の月給がいくらだからといって、その……カイトさんの考える給料配分に俺達は従うだけなんで!でも俺ら的には結構頑張ってるつもりっす」
「だ、だよなミルコ!この前のレブル往復とか頑張ったよな!?でも額を決めんのはカイトだから俺らからどうこうは言わねーぜ!あ、あと農民の金が少ねえのはアイツら食料は自給自足出来るからだと思うぜ!いや、だからどうこうってわけじゃなくて……」
なんか二人が必死だ。
それもそうだ、俺だって月給4〜8万円だったら涙出るわ。
「あー任しとけ。お前らの働きは十分知ってる。それなりの支払い額にはなる」
二人は安心したように表情が緩んだ。
「ウドーさん。あんたは明日からまたここに来れるか?」
「あっ、はい!」
「じゃあそれで。そっからうちの本部まで案内しよう」
「分かりました。それでは今日は失礼します」
……という感じで再び俺達はギルドの正面に戻ってくると、そこで俺は意外な光景を目にした。
ヴェルセスが嬉しそうにターニャに向かって熱心に何かを語っていて、ターニャの方は何か「もうええわ」的な表情になっていた。
んん?何だ何だ??
「それでねターニャ!ゼンマイの力をね、はぐるまに伝えてね――」
「もー!ヴェルの話むずかしい、よく分からん!」
ほほう。熱心に何かを伝えようとするヴェルにターニャが参っている――といった感じか?ちょっとおもしれーな。
「ヴェル。帰るよ」
ウドーがヴェルの手を引いて行こうとしたが、ヴェルはターニャをずっと見て別れを惜しんでいるようだった。
俺はターニャに別れの挨拶をさせようとした。
「おうターニャ、今日はヴェルと話せて良かったな!」
するとターニャは微妙な返事をした。
「いや……どうだろう」
あれー?
「す、すいません。ヴェルは自分の好きな事をずっと誰かに話し続けるクセがありまして」
「ああ、なるほど……まあ子供はそんなモンよ。そのうち相手の事も考えられるようになるさ(たぶん)」
「では、失礼します。また明日ここで」
「おうっ!またな。ヴェルもばいばい」
俺は笑顔で二人に手を振り、二人と別れた。
ひとまずこれで面接の一人目が終了した訳か。
「カイト、お待たせ」
声に振り返るとそこにはセシルが立っていた。
「おう、今早速一人面接終わったわ。整備士として採用した」
「えっ。早いね。一応お昼前って話だったんだけどね」
「時間に遅れないように早めに来たんだろ?いいんじゃね?」
それからセシルはギルドの鍵を開け、俺達も中に入り裏口の倉庫であと二人の応募者を待つことにした。
そして二人目がそこに通された。
――ガチャッ。
「あ、どもどもこんちゃーす!僕ボルトっていいまーす。ども、よろしくっす!へへっ」
その男はミルコと同じく20歳ぐらいの見た目で、ずっとヘラヘラとした笑顔だった。
そして落ち着きがなくあちこちを見回したり世話しなく動いていた。
俺達があっけに取られていると、男はさっさと用意した席に勝手に座り、いきなりこう切り出した。
「スゥーッ。えーっと、まずちょっと聞きたいんですけどー。ここってーどれぐらい働いて給料いくらぐらい出るんすか?あ、僕条件悪かったらすぐ帰るんで、お互い時間の無駄っしょ?」
な、何だこいつ……。




