207 新人面接②
「てか芋自体ねえぞ。もう一回普通に挨拶してこい」
俺はターニャを少し突き放し気味に送り出した。
タタタタッ……。
ターニャは再びヴェルセスと対峙し、今度はちゃんと自己紹介を始めた。
「私ターニャ!」
「わ、わわ、私はウドー=バルテルと申します……」
丁寧に頭を下げて返事を返すウドー、いやアンタじゃない。おもしれーなこの人!?
一方ウドーの後ろに隠れているヴェルセスの方は相変わらずジッとターニャを見たまま固まっていた。コイツの人見知りってのはどうやらガチらしいな。ふーむ……。
俺はここでターニャに質問を投げかけた。
「ターニャよ、言葉でコミュニケーションが取れない時はどうすんだ?」
「……!!」
ターニャはしばらく思考を巡らせた後ハッとして、ニカッと笑った。
「あはっあはははっ!うぇーーい」
そして笑いながら両手を上げて突っ込んでいく!
「ひっ!?なな、ななな何!?」
ヴェルセスは恐怖を感じたのか後退りする。
「ひゃああっ!!ななな何ですか怖い!!」
いやだからアンタは怖がるな大人だろ!?まったく究極のビビリコンビだな……。
「うわああーーん」
「あはははははっ。まってー!」
やがてターニャは逃げ出したヴェルセスに追いついた。
「はあっ、はあっ……」
「はあっ……はあっ……、な、なんだよぉ」
ヴェルセスの手を握ったターニャが聞いた。
「ヴェルセスっていうの?」
「……う、うん」
「なんさい?」
「……4さい」
「おなじー!ターニャとおなじー!」
やっとまともに会話できたからかターニャは満足そうな顔をしていた。
「きょうは何にしにきたのー?」
「し、しらない。……お父さんについてきただけ……し、しごとをさがすって言ってた」
……ん?あれ、仕事!?
そういやセシルの奴、面接受けに来る三人のうち一人は子連れだって言ってたな……もしかしてコイツらが!?
とりあえず父親のウドーに聞いてみよう。
「おう、ウドーさんよ。あんた、もしかして今日ここに面接に来たのか?」
「あ、は、はい!そうですそうです……。私、以前は時計職人をしておりましたが、機械化の波に逆らえず、つい最近廃業しました。あ、あのっ、もしかしてギルドの方ですか?」
低姿勢のまま俺にそう尋ねてくるウドー。俺は営業マイルを作って丁寧目に答えた。
「ギルドの人間じゃねーけどな、はは。一応『スーパーカブ』って配送会社の代表ではある」
「えっ!?」
ウドーはやはり飛び跳ねるように驚いていた。
「今日面接する予定なんだがウドーさんはウチの応募者ってことでいいかい?」
「あ、はい。確かにスーパーカブという会社に応募しました!」
お。やっぱ応募者で確定か。
……するとそれを見ていたガスパルとミルコもこちらに歩いてきて、ガスパルがウドーに睨みを効かせながら一気に言い放った。
「おおっと、なんだオメー応募者だったのか!よっしゃよっしゃー。ウチで働きてぇーんなら必要なモンはコレだ、やる気だ!そして気合いだ!!オメーにそれがあんのか!?なんかパッと見しょぼくれたおっさんにしか見えねーぞ!?だがよ、もしかしたら今後伸びるかもしんねーな。だから今それを俺達が見極めて――」
バシッ!
俺は軽くガスパルの頭を叩いた。
「いてっ!な、なんだよカイト!?」
「お前ちょっと静かにしてろガスパル。怯えてんだろ」
「フーッ……やれやれ」
ミルコも呆れてため息をつく。
ウドーはガスパルに恐怖を感じたように固まっていた。
まあでも確かにセシルが来るまでぼーっとしてるのも時間の無駄だな。よし、ここで面接しちまうか。
ターニャの方を見ると、あのヴェルセスという男の子が地面に絵を描いて、それをターニャがじっと見ている……といった具合だった。
何してんのかはよく分からんが、まあ子供同士でうまくやってくれ。
「ウドーさん、じゃあ外でアレだけど話を聞こう。こっちに来てくれ」
「あ、はい……」
俺はギルドの裏までウドーを案内して、早速質問を始めた。
もちろん『スーパーカブ』のイメージが悪くならないように気を遣いながら。
「ウドーさんは何でウチに応募したんだい?」
「は、はい。まず配送会社という事で体力がいるのかなと最初は思ったんですが……機械の整備といった仕事もあるそうで、あ、機械弄りは大得意なんです!」
「ふむ……なるほどウチも今んとこ俺含めて従業員はこの場の3人しかいないんだが……整備を専門でやれる人間はまだいないんだ」
ここで俺はスーパーカブのサービスマニュアルを見せてみた。
コレは整備士用のマニュアルで、一般的に購入と同時に店から貰えるユーザーズマニュアルとは大きく違いかなり細かくパーツの分解の仕方などが書かれているものだ。
それを見せた時のウドーの顔は、今まで見せていたそれとは大きく違ってイキイキとしていた。
「こ、こんな正確な図面があるんですか!?す、素晴らしい!是非実物もお見せ頂けますか??」
うおっ。凄え食いついてくるな!おもしれー。
「カイトさん、カブ君見せます?」
そう言うミルコに俺は即答した。
「おう、なんかこういう所ちょっとミルコに似てるよな?」
「そ、そうかも……はは」
俺はウドーをカブの所まで案内すると、ウドーは大いに感激していた。
「はー……。に、二輪しかない車なんてあったんですねぇー。凄いです……」
ウドーはカブの周りを回りながら舐める様に見つめている。カブは今どんな心境なのだろうか?
一応、混乱を招くから初対面では喋らないように言ってあるが……。
「しゃ、社長さん。……この車はもちろん動くんですよね!?」
俺は笑って答える。
「はは、そりゃあな。この前も走りすぎて皆ヘロヘロになって帰ってきたぐらいだ。だからメンテもしなきゃなんねーんだけど、他にもする事があってな」
「はああ……なるほど……」
ウドーは顎に指を当てながら答え、再びカブに目を向けた。
「で、やっぱりこういうのはキッチリした奴にやってもらいたい訳だ」
するとウドーは俺に向かって正面に立ち、姿勢を正した。
「やります。やらせて下さい!」
それはさっきまでの猫背で冴えない人間ではなく、機械弄りの大好きな整備士の姿だった。
俺はなんか感心してしまい思わずこう言ってしまった。
「あ、じゃあウチくる?」




