206 新人面接①
――夢のような時間が終わり、俺達は温泉から上がった。
そして再び自宅に戻り各自しばらくのんびりした後、ミルコとイングリッド、そしてガスパルに別れを告げた。
「それじゃ、今日はありがとうございました!」
「また会いましょう皆さん!カイトさんまたギルドに来て下さいねー」
「まあ近いうちに行くわ」
「またねー!」
「おやすみなさーい」
手をブンブン振って三人を見送るターニャとケイ。
俺は忘れないよう『スーパーカブ』の二人に確認した。
「おーいガスパルとミルコはまた明日朝本部に集合な!」
「おう!」
「了解っすカイトさん」
――パルルルルッ。ガラガラガラッ!
ミルコはイングリッドを後ろに、荷車にはガスパルを乗せて暗闇の中に消えていった。
「ケイ、お前はどうする?また泊まるか?」
ケイは少し寂しげな顔で答えた。
「おじさん、ターニャ……私明日は朝から忙しいから今帰らなきゃ……」
「忙しいって……踊りの練習か?」
「ちっがーう!!もー、私の本業は魔法使いなんだってばー」
ケイは軽く文句を言ってターニャの方を見た。
ターニャはケイより物悲しそうな表情でケイの手を握った。
「ケイ……つぎはいつ来る?」
「そのうちまたすぐ来るから!じゃあまたちょっとお別れね。バイバイ、ターニャ」
「ん、ばいばい……」
なんかいつもより湿っぽい空気感だな。でもこういう経験もターニャの成長に必要かもしれんな。
ケイはこっちをちょっと振り返りながらゆっくりと世界樹の穴へと消えていった……。
ターニャの顔を見ると今にも泣き出しそうだった。しかしターニャはそんな顔を見せるのが嫌だったのか、「おじ……ねる」と言い残して家の中へと走っていった。
アイツもちょっとずつ成長してるのかもな。感情豊かな深みのある人間になってくれればいいがな……。
そんな風に考えながら俺はしばらくボーッとしていた。
するとそんなシックな空気をぶち壊すように、カブがいつものテンションで話しかけてきた。
「え?え?それで、カイトさん。明日は朝から何をするんですか?」
カブはなんかソワソワしているようだ。
俺も気持ちが切り替わり、「ふっ」と鼻で笑ってから答えた。
「ふふ、実はな。ちょっと前からセシルに頼んでギルド内にウチの『スーパーカブ』の求人を出してもらってたんだ」
「ええっ、本当ですか??あ、以前言ってた従業員募集ってヤツですね!?」
「おうよ。これからもっと忙しくなるし、最低一人は人を増やしたいんだ。で、すでに今日までに応募者が3人いるらしい。それで明日ギルドで会って面接するわけだ」
カブは嬉しそうな笑顔を弾けさせた。
「うわーっ。楽しみですねー!!どんな人が来るんでしょうねー!?」
「ああ、俺も楽しみだ」
「というかカイトさんはどんな人を採用したいんですか?」
「んー、別に特別難しい仕事でもねえし、やる事さえしっかりやってくれりゃ文句はねーよ。仕事の種類も配送だけじゃなくて整備とか営業とかもいたほうがいいしな」
「なるほど、そうですかー!」
「そりゃあよっぽど素行が悪いとか人格的に問題があるとか、仕事をサボりまくるとか、まあそんなんだったか無理だけどよ」
カブはやはり楽しそうな顔を続けている。
「お前は仕事が多くなって毎日稼働させられても嫌じゃないのか?」
「とんでもないです!僕は動ければ動けるほど嬉しいので。逆にずっと倉庫に入れられたままとかだったら発狂します!!」
俺は大いに笑った。
「はっはっは!それでこそお前だ!!また明日な」
「はい!」
……。
それから俺は気持ちよく眠りについて明日を迎えた。
そして3人でいつものように朝食をとっていると、ちょっとターニャの元気がない事に気がついた。
「おう、どうしたターニャ?やけに静かじゃねえか」
するとターニャはボソッと呟いた。それもいつもより大分小さめの声で。
「ケイがいなくてさびしい……」
それを聞いてセシルと俺は顔を見合わせる。
うーん困ったな。やっぱり一番歳の近い女の子と遊びてえだろうなあ。
ここでセシルがターニャに励ましの言葉を送った。
「あ、そうそう。今日の面接に来る人の内一人が子連れでね。男の子で、ちょうどターニャと同じぐらいの歳だと思うよ」
その瞬間ターニャの目が輝いた!
「どんな子??会いたい!おじ、急ごう!!」
「ははは、なんか急に回復したな……ま、実際に会って気が合えば友達になればいいさ」
「たのしみー!」
――ドゥルルルン。ガタガタッ!
そんな訳で俺達三人はセシルの出勤と共に本部に到着した。ガスパルとミルコは既に到着していた。
「おおっすカイト!今日はアレ、面接だろ!?」
「おはようございます。いやー新人楽しみっすね!どんな人が来るのか」
「おう、二人共元気そうだな。とりあえずギルドに行くか」
そこから俺達はカブ、セロー、カブ90の3台でヤマッハのギルドまで走った。
セシルは健康のために歩いて来るそうだ。偉いな。
――キキッ。
ギルドに到着して裏手にバイク3台を止め、俺達はセシルが来るまで待っていた。鍵はアイツが持っているのだ。
すると、俺達以外誰もいないと思っていたのにギルドの正面に妙な男がウロウロしていた。
少し猫背で落ち着きがなく辺りをキョロキョロと見回している。歳は俺より少し下っぽい。30代ぐらいか?
「ギルドが開くまで待ってんのかい?珍しいな」
気になって俺が話しかけると、その男は大げさにビクッと驚き口をパクパクさせた。
「あ、あ、ああ。はい、はい……まあ、そうです……」
異様なほどにビクビクしているな。いやいや警戒しすぎじゃね?
するとそこに一人の小さい男の子が走ってきて、サッとその男の後ろに隠れた。
「ほう。ギルドに子連れとは珍しいな」
「いやカイト、おめーもだろ?」
「たしかに、ははは」
ガスパルに突っ込まれてしまい俺はちょっとはにかんだ。で、当のターニャはというと――。
「ういーー!」
笑顔でその子の元に駆け寄っていった。
しかし男の子は、またしても父親らしきさっきの男の後ろに素早く隠れてしまった。
んん?これは……。
すると男が申し訳なさそうに弁明した。
「すす、すいません。息子のヴェルセスは人見知りなもんですから……」
ターニャはそのヴェルセスという子をジッと見つめていた。ヴェルセスもターニャを男の後ろからジッと覗いている。
しばらくそのまま見つ合って、やがてターニャは痺れを切らしたのか俺の方に引き返してきた。
そしてこんな事を言った。
「おじ。このままじゃダメ、芋で釣ろう!」
「……釣られるのはお前だけだ」




