204 みんな。お疲れさん!
浄化槽の大穴が閉じられて俺はやっと安心した。
そして更に、木の実の効果で超人的な力を得ていたこともあり、他に何かDIYができないかと考えた。……すると一つ思い当たった。
「よし、アレを作ってみるか!」
俺はそうつぶやくとすぐにカブに向かって走った。
「ななななんですかカイトさん!?」
カブは強そうな(実際に強い)俺が向かってくるので少しビビっていたが。目標はお前じゃないぜ。
「剣を貰うぞカブ」
俺は護身用にいつも荷車に置いてある剣を取って山に向かって走った、……というよりその場から一飛びで大きめの木の前まで到達した!
ちょっ……やばすぎだろ今の俺。
そして俺は剣を抜き、横なぎを払う。
――スパーン!
ほとんど切った感触がなかったが、木はゆっくりと傾いていった。よし、さらにもう一丁!
俺はその場で2メートル程ジャンプし、また木を真横から切りつけた!
そしてダルマ落としのように真ん中の丸太だけを引き抜いた。
――パキパキパキ……ドサッ……。
俺が今手に持っている丸太の上にあった部分が、音をたてて落ちて地面に落ちる。
俺はその丸太を地面に縦に置いて、軽くジャンプし、一気に剣を振り下ろした!
サクッ、スパーーーーッ、ザスッ……。
一刀両断とはまさにこの事だ。
あまりの切れ味の良さに木が斬られた事に気付いていないかの様に丸太のままの姿を維持している。
よし、好都合だ!
スパッ、スパッ、スパッ……。
俺は連続して同じ動作を繰り返し、気付けば丸太は複数の板状になっていて、やっと斬られた事を思い出したかのようにバラバラと地面に落ちて行った。
「よし、これで材料が出来たぞ」
――ドゥルーン。
「おおー!おじ、つよい!」
「す、凄いですねカイトさん!でも何に使うんですかそれ?」
やってきたターニャとカブに褒められて、俺は少し得意気にこれらの材料の使い方を説明した。
「ふふ、これは便所の壁の材料だ」
「あ、ああー。なるほど……。みなさん人間ですから生理現象ってありますよねー!」
カブは大いに納得していた。お前も喋りだけは人間みたいだけどな。
この時、俺はすでに木の実の効力が切れかけているのを実感した。
他にパワープレーの使い所って何があるかな?と考えながら社宅中に入った。
そしてすぐにガスパルに宣言した。
「ほら、ガスパル。これが便所の壁だぜ」
「うおっ。こんな板あったのかよカイト!?」
「いや今作った」
「は?……いや、カイトなら不思議じゃねえか……」
「でよ、この板を蝶番で繋げてな、折りたたみ出来るような形にして壁とドアを一緒に作っちまおう」
「おお!」
「ちょっと家帰って蝶番とネジとドライバー持ってくるわ」
ふははは、なんかちょっとずつ楽しくなってきたぞ。
――そんな感じで俺達は暗くなる前まで社宅のリフォームをしていた。
ケイはもうとっくに起きて夕飯を楽しみに待っている状態だ。
「いやー、もう少しでご飯食べられるんだー。楽しみねターニャ!」
などと、まるで久々に外食する家族の子供のような反応を見せている。
「うん、またおじにチャーハン作ってもらおー」
まかしとけ!最高のチャーハン作ってやるぞ。
――「こんばんはー!」
おっと、ここで外からミルコの声がした。
「おっす!まあ入れ入れ……おお!?」
そこにはミルコと一緒に意外な人物がいた。
「こんばんはーカイトさん。彼に言われて来ちゃいました!」
笑顔で少し恐縮したような顔を見せているのは、ミルコの彼女でありギルドの受付係でもあるイングリッドだった。
「おー。お前か!なんか久しぶりに見た気がするわ」
ミルコはイングリッドを指差し俺に説明した。
「料理とか結構上手い奴なんで……カイトさん達を手伝いながら一緒に参加しようって感じて連れて来ました。はは……」
「ご迷惑でしたか?」
俺は笑顔で首を横に振った。
「いやいや一向に構わんぜ。後で皆ウチに集まろうぜ」
それを聞いてイングリッドは明るい笑顔でお礼を述べた。
「ありがとうございます!セシルさんも後から来ますし……あ、私お酒持ってきましたー」
「おおーいいなー。温泉に入った後で皆で飲むか!?」
「お、おさけー!?あれは毒ー!!飲んだらだめ!」
突如ターニャが割って入って抗議してきた。ははは、この前ちょっと飲んじまって即吐き出したのがトラウマになってるようだな。
「それはお前が子供だからだ」
「えー……おじはあんなのよく飲めるね?」
「私もお酒とかムリー!」
ケイがトコトコとやって来て会話に入ると、イングリッドが「誰かな?」というような顔をした。
「ああ、コイツはケイって奴で俺と同じく異世界から来た異世界人だ」
「えっ!異世界……あ、あなたがウワサの魔法使い?へぇー!」
な、なんで知ってんだ?……ああ、ミルコから聞いたのか。
「お待たせ。皆揃ってるみたいだね」
お、今度はセシルが帰ってきた。
「おうセシル。仕事お疲れさん!」
「お疲れ様です!」
ミルコとイングリッドは軽く頭を下げて挨拶した。
「これで全員揃ったな。じゃあ行くか!」
「ういーー。行こー行こー!」
全部で7人……まあ荷車があるから一回で行けるか。
「ミルコ、セローの後ろにイングリッドを乗せてくれるか?」
「了解っす!」
「セシルはリアボックスに一番軽いターニャを乗せてくれ。坂は登れる」
「うん」
「後は……カブの荷車にケイとガスパルが乗る……でいいな?」
「おう!頑張って引っ張ってくれやカブ」
「任せて下さい!貿易輸送の地獄に比べれば全然軽いです!」
カブは力強い笑顔で答えた。
――ドゥルルルル、パルルルルン。ドゥルルルー。ガタガタッ。
それから俺達は全員で山道を駆け上がっていった。
「ひゃーっ!す、凄い……こんな山道でも登れちゃうんだ!?」
「はは、落ちるなよインギー」
イングリッドはミルコの腰に手を回して興奮している。
そういやコイツは自宅へ来るの初めてだな。
7人総勢で自宅に着き中に入ると、俺は真っ先に和室にテーブルを用意した。
そして真っ先にキンキンに冷えたビールとイングリッドの持ってきてくれた酒を真ん中に用意した。
もちろん全員分のコップも。あ、ターニャとケイはオレンジジュースだ。
そして全員そこに収まった事を確認して俺は音頭をとった。
「おう。とりあえず皆、日頃の仕事やお手伝いお疲れさん!スーパーカブの人間はもちろん、俺ァここにいる皆にめちゃくちゃ助けられてる。すげー感謝してるぜ!」
「いやいや何言ってんすか。こちらこそですよ!」
「そうだぜ。俺なんかカイトに会わなかったらのたれ死んでたかもしんねーし!」
「私なんか国ごと助けてもらったりしたしね!」
「おじはすごい!」
俺は照れながら言った。
「……は、はは。あんま誉めねーでくれ、照れ臭えわ。ほんじゃまあ、挨拶はこんなもんで……」
俺が酒の入ったコップを前に掲げると、皆真似をした。
「かんぱーい!!」
 




