203 意外とやる事が多いぞ!
するとターニャは目を輝かせた。
「うわっ!?おじ、何それー!?」
「ふふ、これはドリルってやつで色んなもんに穴を開ける事が出来るんだ!まあこのドリルは金属とかは厳しいけどな」
「へー」
俺はタンクの底近くの側面部分に、配管の径と同じ大きさの円をマジックで書いて、その内側に沿ってドリルで穴を開けていった。
――キュイーーン、ボソッ。キュイーーン、ボソッ……。
次々に穴が空いていく。恐らく30個ぐらい穴を開ければ配管サイズの穴が切り取れるだろう。
ターニャはそれを真剣な表情で見つめている。
ここで俺はちょっとターニャにやらせてみようと思った。
「おう、お前やってみ。ターニャ」
「え!……う、うん」
「ドリルは両手でしっかり握って持つんだ。で、最初にドリルをぐっと押し付けて下穴を凹ませてから刃先を回転させるとズレにくいからな」
「……うん、やってみる」
ターニャはおっかなびっくりしながらも、ちゃんとドリルを押し付けて壁を少し凹ませた上で穴を開けることができていた。
うん、普通に上手いな。こういう作業といい料理といい、地味に能力高いんじゃないかターニャは……ふふ、いいぞー。
俺は自分の子の成長のように嬉しくなるのだった。
やがてポコンと壁に配管とほぼ同じ大きさの穴を開けることが出来た!
「やったー!!」
「おおっ。よくやったぜターニャ!じゃあここに配管を通してみよう」
「うんっ!」
――ズポッ!
「うひょっ!ほとんどピッタリじゃねーか。ナイスナイスー!」
「ういーー!……でもお水いれたらもれない?」
「もちろんこのままじゃ漏れる。だから……これだ!」
以前も使ったこの瞬間接着剤シアノンと重曹である。
まずこのシアノンを管と穴の接触部分に塗りつけて……それから重曹をまぶしていく。
するとシアノンと重曹とが混ざった部分が半透明になり、かなりの強度まで硬質化するのだ!
そして更にその上からシアノンをかけて重曹をまぶし……といった具合で硬い部分が更に大きくなっていく。
気がつけば配管とタンクの穴はガッチガチに固まり、押しても引いても全く取れる気配はなくなった!
「よっしゃ!じゃああとは台所の方に向かう配管も取り付けよう」
――キュイーーン、ボソッ……。
……。
それから同じ作業をして、もう一本の配管を取り付ける事ができた。
「よし。完成だ!」
「おおー。これでここからお水が流れる!?水道ができたー!」
目を輝かせるターニャだった。が、まだまだ甘いぜ。
「ふっ、これで完成だと思うかターニャよ?」
「え、ちがうの?」
「ターニャ、実は水ってかなり重てえんだ」
「うん?」
いまいちよく分からないといった顔だな。
「バケツに水を入れたら重たいだろ?その何十倍もの水がこの貯水タンクに入るわけだ」
「……うん」
「で、その水が配管を通して台所や便所にそのまま流れていくと小型タンクが凄い水圧になるわけだ!分かるか?」
「……なん……となく」
やはりターニャは微妙な表情を浮かべている。まあしょうがないか。
「で、その水圧を制御するために蛇口があるんだ!」
「ほうほう……」
「だからあとは台所と便所に出てる配管の先っちょに、今みたいにシアノンと重曹で蛇口を取り付ける!小型タンクにはその蛇口から水を注ぐようにするんだ。これで99%完成だ!!」
「おおー!」
「残りはろ過装置をペットボトルで作ったり、貯水タンクの上部に漏斗状の物を取り付ける――といったところかな」
ふと見ると、ターニャがニコニコしている。
「これでガスパルが喜ぶねー。おじ!」
「ははは、そうだなー」
本来は社宅だからガスパルだけの住処じゃねーんだが、ミルコの奴よっぽどイングリッドのトコが気に入ってるとみえる。
――それから間も無く、台所と便所に繋がった配管の先端に蛇口が取り付けられた。
「うおっしゃー。これで小便が楽しみだぜ!はやく催さねえかなー!?」
それを見たガスパルが声高に排尿宣言をしているが仕切りの壁も何もないから丸見えだ。……いやーコレは流石にマズい。
「後からベニヤ板かなんかで仕切っとこう……ああっ!!そういえば……」
俺は重大な事を忘れていた。
「や、やべぇ!!外の汚水溜めの大穴、蓋がねえぞ!?」
ダッ――。
俺は外に出て頭を抱えた。
そうだよ、こんな所に落ちたらシャレにならねー!汚いというのもあるが万一落ちたら自力で這い上がる事は不可能だ……。
「い、命に関わるじゃねーか……!」
また今度ケイに頼もうか……いや、明るい今はまだいいが夜の暗い中誰かが落ちたりしたらシャレにならん!
絶対にココだけは今蓋をしなければ!!
――ドゥルルン!
その時、カブが俺の心を見透かしたかのように話しかけてきた。
「カイトさん、すぐ出来ると思ってたら意外とやる事多くて焦ってませんか?今」
「……ふ、お前は本当にたまに核心をつくな。おうよ。すぐにでもこの穴を塞ぎてえんだ。それも絶対に誰も落ちないように」
するとカブはにこやかな表情で言い放った。
「すぐ側にその穴より大きそうな大岩がありますよ。アレで塞いじゃいましょう!」
「いや、ケイがまだ寝てるじゃねーか!?」
カブはますます不思議そうな顔を作った。
「え、カイトさんが動かせば良いじゃないですか??」
ふ、ふざけてるのか?いや、それにしては真剣な顔だ……ん、あっ!!
ここで俺は思い出した。
あの木の実の存在を……。
そうだよ!俺が自力で動かせば良いんじゃねーか!!はっはっはっ。
俺はあまりにあっけない解決策が身近にあった事に自分自身で呆れつつ笑った。
そして木の実を口に入れた。
「うおおおおおおお!!」
全身にとんでもない力が渦巻いているのが感じられる。
――ガシッ!
俺はその大岩に両手で掴みかかると一気に持ち上げた!
――グアアアアッ!!ドスッ、ドスッ、ドスッ。……ドッッッッ……。
そのまま一気に歩いていき、穴の上に静かに置いた。
その岩は思いの外大きく、穴の直径を余裕で上回っていた。
もはや穴があったのかどうかも分からないレベルだ。誰かが落ちようと思ってもまず無理だな。
「おおおおーー!おじ凄い!さいきょう!!」
ふはは、見たか!




