201 配水計画
――朝になった。俺の隣にはセシルが横になっている。もちろん全裸だ。
「あー、俺達いつまでやってたんだっけ……」
朧げな記憶の中に二人で睦み合っていたシーンが思い出され、俺は夢のような心地になった。
とりあえず起き上がり下着を履いて一階へ降りる。
ターニャはまだ寝ていた。
とりあえず今日はケイが来るまで待って、それから本部へ行くか……あ!
そこで俺は思い出した。
「貯水タンク買ってねーわ」
そう、以前買った400リットルぐらい入るデカタンクには一度軽油を入れている。とても飲料水を後から入れる気にはならなかった。
よし、まずはそれだな!
「おじさーん。カイトおじさーん!」
言ってる側からケイがやって来た。よーし、今日でまた本部が立派になるぜ!
その後、ケイも含めて4人で軽く朝飯を食い俺達は家を出た。
――ギャギャッ、ドゥルルルン!
カブ90カスタムのセルを回してエンジンをかけるセシル。
「セシル、お前そのカブ90、ずいぶん様になってんじゃねーか?」
「そ、そう?カブって慣れたら意外と楽に乗れるからね」
――カシャッ。
セシルはちょっと照れながらギアを1速に入れた。
ここで俺はケイが不思議そうにカブ90を見つめている事に気がついた。
「へー、セシルさんの乗ってるのもカブなんだ?」
すかさずカブが得意気に語り始める。
「そうです!こちらのカブは僕の兄弟ですよ」
「もっと言うとお前の兄貴だよな」
ケイは感心したように感想を述べた。
「へー、よく似てるけど……何となくおじさんの乗ってる喋るカブの方が新しい感じがするよね」
ケイの言葉を聞いたカブは一瞬で物凄い笑顔をタブレットに貼り付けた!
「デュフッ!いやー分かりますかーケイさん。いやー、その通りですよ!あ、もしかしてケイさんも僕やカブ90に乗ってみたかったりするんですか?」
ケイはカブの勢いにちょっと引きながら慌てて答えた。
「いや、私こう見えてずっと魔法に頼って生活してたから運動神経ゼロだし……乗り物なんて怖くて乗れないってー!」
うーむ、実際結構ケイの動きとかを見てるとそんな感じもするな。すぐ腰抜かすし。
「ターニャは絶対のる!それからセローにものる!!」
「え!?セ、セローか……あれは俺でも足付きがきっついぞ?セシルぐらい足が長けりゃ乗れるかもしれんけど……」
「ここはターニャちゃんの将来に期待ですね!」
「ういーー!ターニャが乗れるようになったらケイも乗せてあげるねー!」
「え……!?そ、それはどうだろう……」
ターニャはケイと二人でカブの荷車に乗ってはしゃいでいるようだった。ふっ、微笑ましいな。
「よし、じゃあ一旦本部へ行こう」
――キキッ。
早速本部に着くとヤクザのような目をしたガスパルが飛び出てきた!!うおっ!?
「んん!?……あーなんだ、カイト達かよ!泥棒かと思ったぜ!?ふぅーっ……」
そんなガスパルを見て俺は笑った。
「はっはっはっ!しっかりここの警備員やってるみてーだな。いいぞーガスパル!」
ここでケイはガスパルを何かの犯人のように指さして叫んだ。
「あーっ、会社に住んでるガスパルだ!?」
「うおっ!魔法使いの、あれ……えーっと」
「ケイだっての!忘れんじゃないわよ全く……」
「おうおう、なんだお前今日もまた魔法使ってぶっ倒れんのか?」
「きょ、今日は倒れないってば!!うぎぎぎ……むかつくー!」
な、なんかコイツらいつもこんな感じだな。
「じゃ、カイト私仕事行ってくるね」
「おう行ってらっしゃい!」
セシルはしっかり自分の乗ってきたカブ90の後輪にチェーンロックを掛けていった。もちろん忘れずに会社の金庫の取手を通してある。
よーし。これでセシルが夜ここから自宅に帰るまで、従業員がいつでも入金することが出来るわけだ。
次に俺は壁に立てかけたホワイトボードを見ると、しっかり昨日の日付でガスパルが書いたであろう「ガスパル、バダガリ農園」という文字があった。
「おー、ちゃんと書いてんなガスパル!俺の方でもしっかり控えてるから安心しろよ」
「へへっ。頼むぜカイト!給料日が楽しみでしょうがねえよ」
「給料より貿易の報酬の方が高えぞ。今の仕事量だと」
「そ、そうだ!それだ!ボーナスだ!?ひゃっほーーーーうぅ」
ガスパルは興奮を隠さずガッツポーズで喜びを表現している。現金なやっちゃ。
「俺ちょっと貯水タンク買ってくるからな。ガスパルは配管を用意しててくれ」
「おう!」
――ドゥルルルン!
「やー、まいど!大タンク一つで4000ゲイルねー」
給油所の所長はにこやかに微笑みながらタンクを運んできた。俺も笑顔でお金を支払った。
「はいよ所長、4000ゲイルな。お、やっぱ空だと軽いな!」
空のタンクはデカいが俺一人でも十分持ち上げられるくらいの重たさだった。
さっそくカブの荷車に積み込み給油所を後にした。
「毎度ありー」
という優しげな所長の声を背に、俺は本部に戻った。
ちなみに今の俺(会社)の貯金は約20万ゲイル程だ。日本円にしたら80万円。会社経営している身としてはまだまだ心もとないぜ。
――キキッ。
俺とカブがデカタンクを積んで戻ってくると、すでに配管として使うラッセンの木が並べられていた。
「カイト、これでいいか?」
「おう!後は俺の頭ん中の設計図通りになるようケイに魔法で頑張ってもらおうか」
「いつでもいいよ。おじさん」
「よし、ではケイ。今から手順を説明するから出来るだけ手際良く実行してくれ。その方がお前も楽なはずだ」
「うん」
俺は社宅の建物から3メートル程離れた場所に立ち、地面を指差した。
「ここにまず大きめの深ーい穴を掘ってくれ。その穴を天然の浄化槽にするんだ。で、そのとき掘って出た土を……こっちに集めて山を作ってくれ」
俺は最初の場所から社宅の壁に沿って横に2〜3メートルずれた位置で、山のイメージをジェスチャーで伝えた。
「その山は何?」
ケイの質問に俺はすぐに答える。
「山の頂上に貯水タンクを設置するんだ。今俺が買ってきたやつな。そしてその山の斜面に沿って配管を設置していく」
「なるほどね」
「で、その配管を社宅の窓から中に通して小さめのタンクに水を貯めて台所用の飲み水として使う」
「うんうん」
「で、その台所からさっきの深い浄化槽に向かって穴を掘って配管を設置する」
「おー!」
「で、それとは別の配管をもう一本用意して、こっちは便所のタンクに向かって設置する!いわゆる水洗便所だな」
「へぇー。水でおしっことか流しちゃうんだ!?めっちゃ快適そうじゃない!?」
「おう。そうだろ?でよ、配管は全部水が流れるように絶対下向きになるようケイに魔法で上手く埋め込んでもらいてえんだ。出来るか?」
ケイはニヤリと笑った。
「ちょっと大変そうだけど面白そう!おじさん、あの木の実頂戴!」