200 夫婦の愛
「おじー、カブ、おかえりー!」
ケイ達の村に帰ると、ターニャが元気に駆け寄ってきた。
「お待たせ。無事に解決したぜ」
「え!じゃあトライアン国の王様、無事に髪の毛生えたんだ!?」
ケイはかなり気になっていたらしく、真っ先に聞いてきた。
「ああ、髪の毛が生えて王も正気を取り戻した。ありゃあ良い王様になると思うぜ」
ケイは口を開けたまま独り言のように呟く。
「髪の毛ってそんなに人の心に影響あるんだ……へぇー……」
一応それだけじゃない事を伝えとこう。
「王が病んだのはそれだけじゃなくて、嫁さんがいなくなったってのもデカかったみたいだ」
「お嫁さん!?王妃ってこと?」
「ああ、そんでその嫁さんってのがあのフグだったんだ!元々余命が短かったらしくてな、どうせなら異世界に転生して外から旦那のハゲを治す手伝いをしよう……と思ったらしい」
それを聞いてケイは感極まったような顔を見せた。
「マジ!?な、なんて旦那さん思いの奥さんなの……」
……しばらく俺は空を見上げ、フグのことを思い出し、やがてターニャに質問した。
「ターニャよ、もし俺の頭が――タコみたいにツルツルになったらどうする?」
ターニャは一瞬真顔になり、それから吹き出すように大笑いした。
「ぶっ……あはははははははははっ!!」
なんかターニャはしばらく狂ったように大笑いていた。
「タコー!おじが……!?あははっうふっうふふっ……!」
「そ、そんな笑わんでもいいだろ!?」
「なんかツボにハマったんですかね?ターニャちゃん」
やがてやっと笑いが収まったターニャは、おんぶ……いや、肩車を要求して手を伸ばしてきた。珍しいな。
よっ……と。
俺はターニャを肩車してあげると、ターニャは俺の頭を撫でてきた。
「おじがタコみたいになったら毎日こうやってナデナデするね!うふふー」
お!な、なんかハゲも悪くない気がしてきたぞ!!
「カイトさん、今ハゲも悪くないと思ってますね?」
「おまっ、心を読むな!」
「あはははははは!」
などと、俺達はしばらく談笑しつつ和やかな雰囲気に包まれていた。
そしてふと、これからの事を考えて俺は思った。
「ケイよ、実は俺達、ここに来る前にデカい仕事をやってのけたんだ。で、そのお疲れ様会みたいなのを明日やるんだけどお前も来ねーか?」
「え……いいの!?私おじさんの仕事、何も手伝ったりしてないよ?」
それを聞いて俺はニヤッとした。
「いやー、それもそうかー。やっぱりちょっと参加しずらいよなー、うーん」
「でも全然私行くよ!おじさんが来てくれって言うんなら」
「いやー、やっぱり何か仕事してから参加してえよなーこういう会は」
「おじさん?……」
「いやー、実はうちの本部の社宅をちょっと改築したくてよ」
ケイは呆れた笑いを浮かべた。
「んもう、最初からそう言ってよ!土魔法ね。いいよそれぐらい。カイトおじさんには今回の件も含めてお世話になってるもん」
助かるぜーケイ!!
「ケイもおじの家来るの!?ういーー!」
ターニャも嬉しそうに万歳をする。
「じゃあケイ。明日の朝こっちに来てくれや」
「うん分かった!じゃあまたねおじさん」
……というわけで、貿易輸送を終わらせてすぐ異世界の王を救うという中々にハードな仕事から開放された俺は、ここでやっと気を緩ませる事ができた。
「いやー、やっと我が家でくつろげるぜ……」
俺は家の玄関にカブを入れてセンタースタンドをかけて停めた。
「本当にお疲れ様でしたカイトさん。今日ぐらいはゆっくりして下さいよー」
「うん、おじ。あとはターニャにまかせてゆっくりしてて」
「ふはは、ありがとよ二人共。じゃあちょっと部屋でゴロゴロしとくわな」
というわけで俺は自室に横になって、貿易輸送からの事をボーっと考えていた。特にフグ(アンナ)の事を。
あいつ、満足して逝ったみたいだな……。
俺やセシルが余命僅かだったら同じような事するんだろうか?……いや、そもそも転生魔法なんて発想がねえよな、はは。
そして俺は次にギルドで見たセシルの艶めかしい姿を思い出す。
ああー、なんかすっげー興奮してきたぞ!セシル早く帰ってってこねえかな?
悶々としながら俺は気付いたら寝ていたらしく、仕事から帰ってきたセシルとターニャに起こされた。
「おじがつかれて寝ちゃってるー」
「カイト、夕飯できたけど、そのまま寝とく?」
うおおおお!セシルの声だ。俺は飛び起きた!!
「あ、ありがとう。もちろん食うぞ!」
そうして三人で夕食を頂き、食べ終わるとほぼ同時にターニャがウトウトし始めた。コイツはこうなると一瞬で寝ちまうからな。布団敷いとこう。
「ZZZ……」
本当に一瞬で眠りやがった。ある意味うらやましい。
ここで俺は会社の金庫の事を思い出してセシルに尋ねた。
「ガスパルの奴、ちゃんとバダガリ農園往復の報酬入れてるかな?」
「本人が言うには、バッチリだ!……ってさ」
俺は笑顔でうなずき、セシルから手渡された小型の金庫を明けてみると――うん!しっかり報酬金額が入金されてるな。
俺は自分の手帳にガスパルの働きを記入した。タイムカードの控えみたいなモンだな。
「彼も真面目になったよね?会ったばかりの凶暴だったあの頃とはぜんぜん違うじゃない」
「アイツも今の『スーパーカブ』が好きなんだよ。めっちゃイキイキしてるわ。はははっ」
「いい感じね。……あ、カイト達が持って帰ってきた貿易輸送の薬はもうすぐ王都に運ばれるから。そしたら……いよいよお待ちかねの報酬だね!」
「嬉しいぜ……」
この時俺はセシルの言葉をあまり聞いていなかった。セシルに対する興奮でそれどころではなかったのだ。
「二階行こう……」
グイッ。
「あっ」
セシルの背中を押すようにして、二人で俺の部屋へと入っていく。
俺は部屋に入るなり服を脱いだ。そうだ、全裸だ!
しかし興奮していたのは俺だけではなかったようだ。セシルも同じく服を脱いでベッドに座り、俺を手招きしてきた。
……。
お互いに抱きしめ合い、その体温を感じ合う。
そして俺は自身の口でセシルの口を塞ぎ、その柔らかい感触に俺の胸の鼓動は更に高まっていった。
「はっ……はあっ……」
「はぁっ……はぁっ……」
ゆっくりとセシルをベッドに倒していく。
トサッ――。
押し倒したセシルの胸がその呼吸とともに上下するのを見て、俺はさらに興奮した。
「カイト……もう……」
「止まれんぞ」
恍惚とした表情のセシルは下から俺の首に腕を回してきくる。
「ん……」
――そして夜は更けていく。しかし、俺達の情交の熱が冷めることはなかった。