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199 さよなら


「うおおおおおお!!」


 ――ゴアアアアアアアアアアン!!


 とんでもないパワーのカブで俺はトライアンを目指した。


「ほ、本当にこの道で良いんだろうな?てかどれぐらいの距離なんだ!?」


『ドゥカテーとトライアンは隣国ですから、すぐ着くと思います!』


「分かった」


「カイトさん、フグさん。飛ばしていきますよー!ふふっ」


 カブは最初、強力過ぎる自分のパワーを持て余しているようだったが、今のこの場においては存分にその力を解放してイキイキとしている。

 馬力やトルクだけではなく車体の剛性やタイヤの強度もとんでもなく上がっているのだ。

 それこそゴーレムを一撃で粉砕出来る程に……。


 ちなみに俺も拳で大岩を粉砕出来る力がある。

 ここではスズッキーニと違ってモンスターが出るらしいが、警戒など全く必要ないぜ!ふはははは。



 ――ゴルゥアアアアアアアァァァァンン!!


 10分もしないうちに俺達は隣国トライアンに辿り着き、フグの案内で王城が見える丘に到着した。


「で、フグよ、その毛髪に悩める王様はどこにいるんだ?」


 フグに尋ねるとすぐに答えが返ってきた。


『あの方は王城の最上階にこもっておられると思います』


 ほう、一番辿りつきにくい場所だな。


「カイトさんどうしますか?」


 ちょっと悩んだ末、俺は辺りを見回してニヤリとした。ちょうどいいジャンプ台みたいな三角形の岩があったのだ。


「カブ」


 俺がその岩を指差すと、カブもニヤリとした。

 普段の俺達だったらまずあり得ない発想だ。


「あ、あとお前、そのタブレットに()()()()()()()()()()()()って入ってたっけ?」

「えーっと、ありまーす!」

「よし、じゃあこうしよう……」


 俺とカブは簡単な作戦を練った。

 これも見方によっちゃ子供の遊びみたいなモノだが、薬に対する説得力を増やす意味で有効かと思われた。



 ――ドゴルァァアアアアアー!!


 再びエンジンをかけて、俺達はその岩、そしてその先の王城の窓を見上げた。


「行くぜーー!!」



 ブオオオオォォォォーーーーン……ダッッッッ!!



 俺はカブと共に空を飛んだ。


 普段の俺なら恐怖でしかないだろうがここではそんな心配はない。

 壁にぶつかれば壊れるのは俺達ではなく壁の方だ。



 ――ヒュゥゥゥゥゥゥーーダンッッ!!キキキキーーザザザッッ!


 しかし俺達は無事に王城の窓からスッポリと入り込む事ができた!

 俺は即急ブレーキをかけ車体を停止させる。



 早速広めのその部屋を見渡すと、部屋の隅に震える一人の人物を発見した。


 うおっ、まだ30過ぎぐらいで王にしては若いじゃねーか!?しかし、その頭は話に聞く通り見事に禿げ上がっている!こ、これは……。


 いや、だからこそ、この薬だ!


 カブはアプリを起動させ準備オーケーのサインを出した。よし、やるぞ。



「トライアンの王よ。我は神である」



 俺は頑張ってそれっぽいセリフを言った。


「か、神!?」


 王は少し狼狽うろたえながら初めて口を開いた。


 俺は王に対して続けてこう言った。


「お前の窮状きゅうじょうの原因がその薄毛にあると知り、助け舟を出しにやって来たのだ。受け取れ」


 俺はカブから降りて薬とプギャ芋のセットを王に手渡した。


「それでお前の毛髪は回復するだろう。然る(のち)に、以前の手腕を発揮しこの国のまつりごと、そして周辺国との調和に尽力するのだ」


 王はしばらく立ち尽くしていた、その表情はまだ冴えないままだ。

 するとここで意外な事に、フグが感情をあらわにした。



『あなたは、まだ病んでいるのですか?スクランド王!』



 ん?フグ、どうした!?


 明らかに今までのフグと違い確かな感情がこもった言葉に俺は驚いた。


『あなたのお側にいた私は元々病で余生も少なかった。だから転生魔法で異世界転生し外部からあなたの薄毛を解決出来るものを持ってこようとしたのですよ!今、私は役目を果たせましたでしょう?是非それを使って下さい!』


 当然フグのこの言葉は俺とカブにしか聞こえない。


 が……んん?しかしなんかこの言い方……フグ(コイツ)ってもしかして。


 俺は小声で言った。


「もしかしてフグって王の嫁さんか何かかだったんか?」

「うーん、そうかも知れませんね……」


『カイトさん。私はスクランド王の妃、アンナ。先程も申しましたように、病で余生が長くない事を悟り、王の悩みの薄毛を直すべく異世界に転生したのです』


 あー、なるほど。よし。



「スクランド王よ、聞け」



 王は依然として力なく立ち尽くしている。俺は続けた。


「この薬はお前の妃であるアンナが異世界を駆け回り手に入れたものだ。しっかりと使え」


「ア、アンナが!?」


 アンナの名を聞いた王は目を見開いて俺のすぐ前まで走ってきた。



 俺は続けた。


「そして今、アンナの魂を呼び寄せた。別れを交わすといい」


 カブはボイスチェンジャーアプリを操作して俺の声を高めの女のものにした。

 そして俺は脳内のフグの声を代弁した。



『スクランド様、あなたはこんな場所に閉じ籠もっているべき人ではないでしょう?その薬を使って下さい』


 王は驚きながらも意外な言葉を返してきた。


「ち、違うんだ。私は髪のことだけで悩んでいたわけではないんだ」


 は?何だと?


 俺は頭が混乱したが、ひとまずアンナと王に会話させてみようと思った。


「本当は自分の髪よりもアンナ、君を失った事を悔やんでいたんだ」


『えっ!?』


「君は私に内緒で転生してしまっただろう?せめて君が亡くなるその時まで……側にいたかったのに」


『そんな……!?ありがたいお言葉ですが、私は貴方を支える事を第一に考えておりました。あのまま病に伏したまま死ぬのならせめて――と……』


 王の目から一菊いっきくの涙がこぼれた。


「はは、いつも人の事ばかり考えていたよな君は。転生しても相変わらずだ」


『はい、私、もう魂しか残っておりませんが、あなたと最期に話が出来て良かった……スクランド、これからもお元気で。さよなら』



 ……。



 …………。



 その言葉を最後にフグ(アンナ)の声は一切聞こえなくなった。




「うう……っ」


 王はしばらく涙していた。



 そして、やがて立ち上がった。


 その顔は最初に俺達が見たそれとは全く違い、しっかりと前を見据えた「王」のものだった。


 うーん。俺達どうしよ……。ちょっと気まずい。

 するとスクランド王は、


「……あなたに感謝致します。気持ちに整理がつきました」


 と頭を下げ、手に持っていた薬とプギャ芋を口に入れて飲み込んだ!


 だ、大丈夫か!?

 俺はプギャ芋を食った人間がどうなるか体験済みなので警戒したが、王はしばらく微動だにしなかった。しかし――!


 突然王の頭頂部が青くなり始め毛が伸びていく!!



 ズアァァァ……!!



 いや効き目あり過ぎだろ!?コレは間違いなくプギャ芋のブースト効果だな。



 一気に腰の辺りまで伸びた髪を女性のように紐で縛り、王は俺達に礼をして扉を開けてくれた。


 そして俺達に聞いた。



「あなたが何者かは存じませんが、神ではありませんね?」


 しっかりバレている。まあその方が話が早い。


「おう、俺はカイトだ」


「カイトさん……いままでアンナがお世話になりました」

「いや、気にすんな。あんたが元気にになって良かったぜ」


 王は笑って扉の方に手をかざした。

「丁重に城外までお送り差し上げます。どうぞ」




 ――それからしばらくして、俺達は再び城外へ出ることが出来た。


「カイトさん、アンナさんの声、もう聞こえませんね……」


「ああ、でもまあこれで良かったんだ。二人共ちゃんとお別れできたしな」


 俺は上を向いてちょっとだけあのフグ(アンナ)の事を考えた。

 異世界をまたいで旦那の悩みを解決するって……凄えな。よく考えたら。


 それからカブのエンジンをかけ、再び俺達はドゥカテーへと戻るのだった。


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