197 王の悩み
『おお、これが世界樹の入り口!いつもゴーレムが守っていたので直接入るのは初めてです!』
皆で世界樹の前に立つと、フグは興奮したようにそう話した。
「ちなみにここを通るとしばらく気絶するぞ。でも……フグの場合どうなんだろうな?」
「あ、そうでしたね!まあとりあえず皆さん行ってみましょう!」
「ういーー!」
メンバーは俺(+フグ)とカブ、ターニャ、バンというものだ。
俺はさっと足から中に入った、その瞬間――!
……。
…………。
やはり気を失い、目が覚めると異世界であるドゥカテーの世界樹の前だった。
近くにゴーレムもいるが特に何もしてこない。
そう、俺達は毎回ゴーレムをぶっ壊していたため王様がフリーパスにしてくれたのだ。やったぜ!
周りを見渡すと、草をむしっただけの細い道と、遠くに不思議な形の石造りの家が点々と建っていた。
やはりここはスズッキーニとかと比べても文明は進んでいない反面、魔法が存在するから独特な世界観が作られてるな。
『へえー、ここがドゥカテーですかー。なかなかのどかな所ですね……』
お、フグはもう意識が回復したようだな。
「うーん……おじ。ケイは?」
続いてターニャが起き上がった。
「あいつが住んでるのは確かあの村だったハズだ。行くか!」
「ういーー!」
「お供しましょうカイト殿!」
バンも起きたか。カブは起きてるか?
「ハッ……わー、ドゥカテー懐かしいですねー!」
よっしゃ起きたか、これで出発出来るな。
あ、そうそう大事なことを伝えとこう。
「バンよ、こっちの世界だと俺やカブは超人的な身体能力になるんだ。今のカブに付いて来れるか?」
――ドゴルァアアアアアアアアアアッ!!!!ゴウゴウゴウゴウッッ。
カブがエンジンをかけた!
相変わらず凄まじい音だ。そして絶対単気筒の音じゃない。
「うわぁー……このパワー懐かしいですー!」
「ほぉおお、なんという迫力……!カブ殿、私も本気でついてゆきます」
「はい!僕はなるべく力を抑えます!」
「よし、行くぞ!」
ゴルァアアアアァォオオオオンン……。
……。
――ゴゥンゴゥンゴゥン、ギャギャギャッ!
俺達は到着したその小さな村でいきなりケイを発見した。
……何だ?アイツ、デカい岩の向こうで何やら数人に向かって演説のような事をしているぞ……?
俺達は興味をそそられたので岩陰からちょっと覗き見る事にした。
「みんなにしつもーん!みんな、魔法使いになりたいー??」
「なりたーい!」
「魔法で一番大切なのはー?」
「才能ーー!」
「才能溢れる私はだーれ?」
「ケイちゃん!ケイちゃん!」
「何してんだおめえ?」
「ギャーーッ!!」
ケイは飛び上がって顔を赤く染めて驚いていた。
「カ、カ、カイトおじさん!?なんでなんで??」
「ちょっと色々とあってな。話聞いてくれるか?」
「い、いいけど……」
その流れで俺達は村の集会所みたいな所にやって来た。
ちなみにこの世界の建物はほぼ石造である。ウチの本部とほぼ同じだ。
「へー、転生魔法でフグに転生した人の意識がカイトおじさんの頭の中に……は?何その話!?」
ケイは訳が分からないと言った顔をしている。
「まあ俺だって信じられねーけどよ、実際に頭の中でフグの声が聞こえるんだよ」
「ターニャもカブも聞こえるよケイ!あとバンも」
「へー、ターニャ達も聞こえるんだ……で、フグは何をしにここに来たの?」
そうだ、そういや具体的な事を聞いてなかったな。
するとフグは深刻なトーンで驚くべき説明を始めた。
『実は私の国トライアンでは王が深刻な病に侵されて心を病んでいるのです』
「深刻な病!?それこそ魔法で治せねーのか?」
「無理なんです、どんな治癒魔法でも治せませんでした」
「……具体的にどんな病気なんだ?」
『薄毛です!!』
俺とカブは吹き出した。
「ゴホッ、ゴボッ……!そ、そんなモンただの自然現象だろ!?俺だってその内ハゲてくるわ。もっと命に関わる病気じゃねーのかよ!?」
『いえ、王はこのままハゲていくなら死んでやるとまで言っているのです!間違いなく命に関わります』
「薄毛というよりメンタルの問題じゃねーかそれ?」
『そしてその薄毛に効くとされるミノムシールという薬草が隣のベイエム帝国に生えているのですが、それを巡るやり取りで国同士の争いが起こりかけているのです!』
俺は呆れた。
「国民はそんな王様でいいのか?」
『薄毛を極端に気にする以外は賢君なので……』
ここでケイが深刻な顔を見せた。
「ベイエム帝国とトライアン……戦いになったら困るわね」
ん?なんだ?
「この大陸じゃその2国間で争いが起こると色々な所に飛び火すんのよねー。もちろんウチのドゥカテーも……」
「マ、マジか!?……っつーかそのトライアンの王様がハゲを我慢すりゃ良いんだけなんじゃねーか?なんとか我慢させろよ!」
しかしフグは悲し気な声でこう話した。
『それが出来ないようです。容姿にはこだわる方ですので。……もしこのまま薄毛で王が倒れでもしたら、隙をついてベイエム帝国に攻めこまれるかも知れません……』
たかが一個人のハゲでそんな国際問題が起こるこの世界大丈夫かと思ったがフグの言葉に嘘は無さそうだ。
「つってもなー……いやーどうしたもんか」
ここでカブが提案してきた。
「カイトさん、僕らがベイエム帝国に突撃してそのミノムシールとかいう薬草を分けてもらうようお願いするというのはどうでしょう?」
するとケイは若干語気を荒げて反対した。
「ええーっ。それ怖いよ!ベイエムを怒らせたら何してくるか分かんないし……やめてやめて!!」
なんかガチで心配してるな。うーむ……。
「うす毛ってヤなのー?」
ここでターニャが質問をしてきた。
純粋な顔で聞いてくるターニャには、男の、しかも中年の悩みなど分かるはずもなかろう。
「皆が皆そうじゃねーだろうが、確かに人によっては凄えダメージを受けるようだな。今回たまたまそれが一国の王だったって話だ」
『王は今にも寝込んでしまいそうなんです!何とか王の毛を生やして頂けませんか!?』
フグの切実な願いを叶えてやりたいのは山々だが、どうすりゃいいんだよ!?
まだ強いドラゴンを倒せとかの方が簡単な課題だ……。
皆その場でしばらく沈黙した。
「なんとか薬草を……」
「帝国にバレない方法は……」
等々、各々は思考を巡らせたが良い案は出なかった。
そして俺はふと思い出した――。
ん?そういや俺達、ついさっきまで薬を運んでたんだよな……?