196 バンの正体とややこしい話
誤字報告ありがとうございました!
「じゃ、また明日夕方ここに集合で」
「おう!」
そんな感じで俺は二人と別れてターニャを乗せてカブで家に帰った。
荷車も一応付けている。何か持って行くモンがあった時に便利だしな。
――ドゥルルルルー。ガタガタン。
山道を登って行くとちょうど日も明けてきた。
「いやーしかしお疲れ様でしたねカイトさん、ターニャちゃんも!」
「おう、マジで疲れたわ。今日はとりあえず帰って即寝よ……」
「おじおつかれ。ターニャごはん作るね!」
お、嬉しい話じゃねーか。
「ありがとうターニャ。昼頃には起きると思うわ」
「分かったー」
ここでカブが笑顔で聞いてきた。
「明日は宴会ですかカイトさん?」
「そうだなー。っつってもちょっと外でなんか飯食って温泉行って解散だけどな。全力でなんかするのは仕事だけで十分だぜ。はっはー」
俺は力なく笑った。実際一番熱が入るのが今の会社経営なんだからしょうがねえだろ?
「あと、それが終わったらケイに会いに行こうぜ。配管を埋めるのに土魔法使ってもらいてえし。俺も見返りにアイツに何かご飯でも作ってやろう」
「おおっ。ケイに!?行こう行こう!!ケイはてんさい~てんさい~♪」
あのケイの自作曲を完コピしたターニャはリアボックスの中ではしゃいでいた。
――キキッ。
我が家に到着しカブを停める。
――『ここは……何か不思議な感じがしますね。神聖というか……』
お、ここで俺の脳内に住み着いたフグが言葉を発した。
「おや、フグさん。あなたも分かるんですね!この感じ」
同じ霊的な存在であるカブもフグの声が聞こえるのだ。
そしてここで俺は思い出した。そう言えばこのフグは元々人間で、ケイのいた世界の住人だったな。
「フグよ。実はここの世界樹からドゥカテーへ行く事が出来るんだが、あっち行けば何か解決するかも知れんぞ?ただあんまり期待しないでくれな」
『構いません。何か争いを解決する糸口だけでも見出せれば……それで十分です』
なかなか控えめなフグで良かった。
――ガタッ。
カブを広い玄関に停めて中に入る。
セシルはもちろん2階で寝ていた。恐らくは今日帰ってくるとは思ってないだろうな、ふふ。
「ターニャ、すまんが俺、寝るわ。セシルに伝言頼めるか?」
「でんごん!?」
「セシルが起きたら言っといて欲しい事があるんだ」
「分かったー!なにー?」
「荷物は裏の倉庫に置いてあるって伝えておいてくれ」
「ういっ!りょうかい」
ターニャはキリッとした立ちポーズで答えた。
「たのん……だぞ……」
俺はそのまま吸い込まれるように自室のベッドに倒れこんだ。
……。
…………。
再び俺が目を覚ますと、しっかり昼になっていた。
眠気は大分飛んでいる、よしっ。
「ワオーン!」
突如犬の遠吠えのような音が聞こえた!
あれは――バンか!?
ガチャッ!
「おじ!バンが外でまってるよー!」
ターニャが部屋に入ってきて慌てた表情でそう告げた。
ん?なんか緊迫した感じだな。
俺は急足で玄関にまで行き、カブの横を縫う様にして扉を開けた。
――バンがいた。
しかしその表情はいつもの温和なものではなく、俺の顔を射抜くような目で見つめていた。
「カイト殿、まずはお帰りなさい。長旅お疲れ様でした。ところで……お体に変化はありませんか?」
俺はバンの言葉を聞いて直感で理解した。フグの存在を感じ取ったんだな。
「……バンよ、あれだろ?俺に霊的な存在が取り憑いてないかって話じゃねーか?」
カブの時と一緒だ。
「お、おお!そうですそうです!!何か得体の知れないものの気配が――」
『それは、私の事ですね』
フグが喋り出した!バンがそれに反応する。
「な、なんと!?」
……今のフグの言葉がバンにも聞こえている。つまりバンは――。
「バンよ。まずコイツは俺の意識に住み着くことになったフグだ。決して悪い奴じゃねえから心配すんなよ」
「誠でございますか!?」
『はい、私は決して悪意のある存在ではありません。誤解なさいませんよう……』
ここで俺はバンに聞いた。
「バン、恐らくだけどよ、お前もケイとかフグと同じ世界の住人だったんだよ。それで何らかの理由でこっちの世界のその犬に転生した――それが今のお前なんじゃねーかな?」
俺はバンの過去を探るように聞いてみた。
バンは上を向いて少し間を置いてから話を始めた。
「カイト殿。実は私には人間だった頃の記憶はなく、犬の記憶しかありません。気付いたら山の中におりました。そして喋る犬は珍しいとの理由で以前の飼い主様に拾われたのです」
「なるほどなー。でもバン、やっぱお前もフグやケイと同じ、世界樹の向こうの人間だった説が濃厚だぜ?」
「やはり、そうなのでしょうか?何分自身に記憶がありませぬ故……」
俺はここで仮定の話をした。
「フグの言葉は恐らく、フグの身を食べた人間か、カブみたいな精霊か、お前みたいな転生経験者にしか聞こえないんだよ。そして霊的な気配も感じられない」
「おじ!」
んん!?ターニャ。どうした?……え?ちょっとお前怒ってないか?
「そういうよく分からない話はいいのー!ケイに会いに行けばいいの!!」
おお。これは新鮮だ、ちょっとプリプリしている珍しいターニャが拝めたぞ!それに実際一理あるな……。
俺はなんか笑いが込み上げてきた。
「ぶははははっ!すまんなターニャ。そうだな、確かにここでアレコレ想像で話しても進展しねえ。ケイに会いに行く方が良いわな!」
ターニャは手を広げて笑った。
「ういっ!そのとーり!!」
俺は朝からの深い眠りで体は十分回復していた。
「ターニャ、もう飯作ってくれてるか?」
「うん!出来てるー」
「じゃあ今からそれを弁当箱に詰めるぞ!」
ターニャの目が輝き笑顔がこぼれた。
「え、カイトさん。もしかして……」
「カイト殿?」
俺はお日様の高さを見て、ある程度時間に余裕がある事を確認する。
「ふふ、じゃあ皆一緒に今からケイに会いに行こうぜ。バン、お前は初めてだよな?」