195 任務終了だぜ!
俺達がヤマッハへたどり着いたのは、まだ夜が明ける前だった。
――ドゥルルルー、ガタンガタン。
今、カブの後ろの荷車に寝ているのはガスパルだ。
ガスパルにはバダガリ農園に行ってもらうから今のうちに寝とけと言ってある。で、実際そうしてもらっているワケだ。
ギルドの前に到着した俺達は一旦正面にバイクを停めて荷車を切り離した。
「いやー、暗いですけどいつものギルドですねーカイトさん!」
俺もミルコも流石に疲労感満載の顔つきだったが、カブだけはいつもと変わらず元気だった。
「ああ……とりあえずガスパルを起こすか……おーい、着いたぞー!」
俺は疲労で声も出しにくかったがなんとか大声が出た。
「うおおおっ!?」
シートの上に寝転がっていたガスパルは飛び起きた!
「うそっ!?も、もうヤマッハに着いたのかよ!?」
ガスパルは暗がりの中、周囲に建物が立ち並んでいるのを見て理解したようだ。やはり寝てだけあってかなり元気だな。
「あー、やっと着いたー……ふーっ」
ミルコも少しうなだれながら安堵の声を漏らしている。お疲れさん!
「カイトさん、この荷物はどうするんです?」
とミルコ。
「ギルドの裏手から中に入れておく。鍵はセシルから預かってるからな。裏口まで荷車で運ぼう」
「了解っす!ふんっ!」
「うぉっしゃ!最後の一仕事だ!」
俺とガスパルとミルコは最後の力を振り絞って荷車を運んだ。
裏口へは緩やかな登り坂になっていてちょっと力がいる。
その時俺はセシルとの馴れ初めを思い出していた。(※31話)
あいつと会ってもう一月ぐらい経つのか。いや、まだ一月というべきか……。とにかく出会いには感謝だぜ。
――ガチャッ。キィー……。
裏口の大きな扉の鍵を開け、3台の荷車ごと中へ入れる。そこは現代のコンビニぐらいのスペースがあるので荷車3台ぐらいは余裕で入るのだ。
「よっしゃー!荷物下ろすぞ」
ドスッ、ドスッ……。
荷物である薬の入った木箱を3人で下ろしていき、ギルド倉庫の隅には木箱の山が積み上がった。
よしっ!これで任務完了だ。
「お疲れー!」
「いぇーい!!仕事終わったー!!お疲れー」
「お疲れ様でーす!!」
「おじ!」
おっと。カブのリアボックスでグーグー寝ていたターニャも起きてきたか。
「おう、お前もお疲れさん!」
俺はターニャを労い、頭を撫でてやった。
「お仕事おわりー?」
「ああ、これで運ぶものは全て運び終えたからな。後はセシルに報告するだけだ」
「ターニャちゃんお疲れ。よく眠れた?」
ミルコがターニャに笑いかけた。
「うん!」
ガスパルはターニャに問いかけた。
「ターニャ。おめーも大きくなったらカブに乗るつもりか?」
「のるー!絶対のる!」
ターニャは目を輝かせている。
「はっはっは。こいつはすでに自転車に乗れるから背が伸びてシートに乗れるようになったら絶対毎日乗り回すぞ!」
「あ、それっ!間違いない!」
「あははははっ」
「はっはっは」
皆の笑い声が響く中、俺は成長したターニャがカブに乗っているところを想像して嬉しくなった。
「……っと、あんまりここで騒いでるとよくねーな。とりあえず荷車を外に出そう」
「オッケー」
――ガラガラ、バタン、ガチャッ。
俺達は裏口から空になった荷車を運び出し、最後に俺が鍵を閉めた。
「一旦本部に戻ってちょっと話をしよう。今後の事とか、今の貿易輸送の打ち上げとか。……ってかお前ら打ち上げ参加する気ある?」
そう、せっかく往復2000キロの輸送を成功させたんだ。祝勝会ぐらいやっていいだろ?
「うおおおお!マジかよ!宴会やんのか、カイト!?」
「うっひょー。楽しみっすねー。もちろん参加しまーす!」
「芋やこー!」
「ぼ、僕も参加しまーす!」
「おお皆適当に集まっとけ!はははっ。飯食って温泉だ!」
――ドゥルルルルン!ガラガラッ。
その後俺達は本部に移動して荷車とセロー、カブ90を停めた。
カブだけは俺が自宅へ帰る時に使うので外に出している。
即社宅の椅子にもたれこむガスパル。
「ふぅー。我が家に帰った気分だぜ!」
「ガスパルお前、今日のバダガリ農園は大丈夫か?」
「ああ、余裕だぜ!宴会の事聞いて疲れが吹っ飛んだわ」
「ははっ現金な奴め。あ、そうそう……」
俺はセシルのカブ90カスタムのリアボックスからあるものを取り出した。
「二人共、これ金庫な。バダガリ農園やらで回収してきた硬貨や紙幣はここに入れてくれ」
「金庫……へー」
二人は興味深そうに見慣れない金属製の箱を眺めていた。
「基本的にセシルが夕方、ここから家に帰る時に一緒に持ってきてくれて現金は毎回回収する予定だ」
この金庫は貯金箱のように上の穴からお金を入れて、底の方に貯まっていく形式だ。もちろん上からは取り出せない構造になっている。
そして金庫の取っ手の部分と、セシルのカブ90カスタムの後タイヤをバイク用極太チェーンロックでロックして普段は置いておく。チェーンロックはダイヤル式で、その数字は俺とセシルしか知らない。
「了解っす!ってことは今までみたいに給料即渡しじゃなくなるってことっすかね?」
ミルコは余裕の表情で質問してきた。
「ああ、その場で毎回渡すより一気に月給として渡した方がお互い手間が省けるだろ?」
ここで俺はレブルに行く前に社宅に置いていったホワイトボードを壁に設置した。
「んで、このホワイトボードに勤怠表を各自仕事の前に記入しておいてくれ。もちろん俺の方でもちゃんと付けてるから、書き忘れとかはその都度指摘するぜ」
「……」
あれ?なんか浮かない顔だなガスパル?あ、そうか。
「あれか、貯金ねーからその場でもらいたい口か?ガスパル」
「お、おう。俺、全財産400ゲイルしかねえ……」
「あはははは!!」
俺とミルコは思わず吹き出した。そして手を叩いてこう言った。
「よし、じゃあ1万ゲイル貸してやる。後で返してくれたらいいからよ」
俺は1万ゲイル札を財布から出してガスパルに渡した。
「か、神かよカイト!?でもすぐに返せるか分かんねーぞ?」
「いや、お前は数日後に確実に返せる」
俺は真面目な顔でそう告げた。
「え?」
「今回の貿易輸送の報酬は相当な額になる。だからお前ら二人にはボーナスとして即支給する。少なくとも5万ゲイル以上は出ると思う!(前のゼファールんときは30万ゲイル出たし)」
「う、うおおおおおおおおおお!!!!」
ガスパルとミルコが顔を見合わせて凄まじい笑顔になって叫んだ。
俺も二人に合わせて笑顔を作った反面、こんな事言っといて報酬安かったらどうしよう……とも思った。