193 フグの目的と次なる戦略
俺達がテンションを上げているそこへ、昨日の博士がやってきた。
「いやー、皆さんおはようございますー!あなた方が運んで下さった物資、どれも品質が高くて王室内で評判ですよー!」
俺は笑顔で答える。
「そ、そうか!いやー良かったわ。帰りもレブルの薬ちゃんと運ぶからよ。任せてくれ!」
「お願いしますー……」
そう話す博士だったが、俺はその目の焦点がじっとカブに向けられていることに気付いてちょっと焦った。
「この車は一体何だろうか?」
きっとそんな風に考えていることだろう。
「……」
もちろんカブは空気を読んで黙っている。
それで正解だ。カブが喋り出したりしたらより興味を持たれてしまうからな。
俺とミルコとガスパルは荷車に皮のシートを掛けていく。
行きの時は荷物が荷車から確実に落ちないようにガッチリ固定する意味があった。
だが今回は特にそんな必要もないぐらい荷物が小さい。強いて理由を付けるなら雨避けぐらいか。
「よし。じゃあ俺達はそろそろ出発するぜ!」
俺は関所の出口で別れを告げると、兵士が別れの挨拶をしてくれた。
「カイト殿。今回の貿易には大変感謝しております。今後ともスズッキーニと友好的であらんことを。それでは行ってらっしゃい!」
「またなー!」
「ばいばーい」
「さようならー!」
関所の人達とお互い手を振って別れ、俺達は再び長い旅路についた。
――ドゥルルルルン。パルルルッ。トゥルルルルン!
関所から見える所まではローギアで低速で走り、ある程度離れた所からスピードを出していく。
――ガラガラガラガラッッ!
「うはははははっ!」
俺達のテンションは高かった。
「やっべー!超軽いぜ、ひゃっほーーう!」
「行きの時と違いすぎでしょー!ははっ100キロ出ますよこれ!!」
ガスパルは左拳をあげ、ミルコはセローのステップに直立して歓喜の言葉を口にした。
「カイトさん!これは到着速いんじゃないですか?」
カブの質問に俺は即答えた。
「ああ、明日の夜明けまでにヤマッハに到着するかも知れねーな!ふははははは!!」
「疲れたら言ってくださいよ!いつでも寝れますからー」
「おーう助かるわ」
――ガラガラガラガラッッ。
俺達はそうして順調に走っていく。
来た道を逆に走って行くだけ……しかし行きは夜だったので周りの景色はほぼ記憶にない。
「ほぼ一本道だな。地図上では」
俺はカブのタブレットで地図の写真を撮り、タブレット上で地図を閲覧していた。
「分かり易くてい良いじゃないですか?」
カブは呑気に答えるが確かに複雑な道より絶対に良いな。
「まあ貿易のための道ですし、広くてある程度整備されてるんでしょうね」
「そうみたいだな」
「あー!海だー!」
ターニャが横を見ながら叫んだ。
「おっ!ここは行きの時停まった海の見える丘じゃねーか?」
そこは俺がフグを助けた場所だ。ちょうど100キロ進んだ事になる。
「あーここ俺等が仮眠取った場所じゃね?」
「そうっすね!いやー、あの時の辛かったイメージが蘇るっすわ」
――『あの時カイトさんに助けて頂けて良かった……。あのままだったら私死んでましたー』
突如脳内のフグの声が響いた。コイツにとっても思い出の場所ではあるようだ。
早速カブが突っかかっていった。
「あの、フグさん。あなたの目的って何なのですか?ちょっとぐらい言ってくれても良くないですか?」
確かに、悪い奴ではなさそうだけどちょっと気になるな。
『……実は』
少し間をおいてからフグは話し始めた。
『ここから遠くにある私の国では争いが絶えず、それを外部から解決するために遠くの世界の人間に私の魂を転生させる――といった事をしまして……』
「で、間違えてフグに転生しちゃったと……?」
俺はフグの話を繋げた。……ってか何だその魔法みたいなのは……ん?魔法!?
『はい、で、海から飛び出て困っていた所このカイトさんに助けられたのです。私はこの人に賭けようと思って残りの魔力を全て使いカイトさんに接近したのです』
俺はちょっと気になって尋ねてみた。
「な、なあフグ。もしかしてお前の世界にドゥカテーって国ある?」
『え!?あ、ありますけど……なぜそんな事を知っているのですかカイトさん!?』
そこにいる全員が「あっ!」と思ったに違いない。
ガスパルは驚きながら言った。
「こ、このフグ、もしかしてケイと同じ世界から来たってのか!?」
「ああ、多分な。魔法ってのがそもそもあっちの世界にしか存在しないだろうし」
ミルコも不思議そうな感心したような表情で感想を述べる。
「へぇー……。しかしそんな転生とかって実際にあるんすねー。でもそれならそれで最初からカイトさんに助けて下さいって言えば良くないっすか?」
『そんな……いきなり取り憑いて助けて下さいなんて、厚かましいと言うか……もうちょっと信頼関係を築いてから打ち明けようと思ってたんですよ』
なんか結構謙虚な奴だった。そして困ってるのも本当そうだ。
「フグ。おじは助けてくれるよー。大丈夫!」
ターニャが自信満々の笑顔でフグを励ましている。俺はちょっと考えて今後の方針を固めた。
「よっしゃ!分かった。お前の国の事はドゥカテーの知り合いに聞いてみるわ。もしかしたら解決するかも知れねーし」
『あ、ありがとうございます!カイトさん』
「ただ、俺達にも仕事はある。これから新聞配達や軽油販売と事業も拡大するしな。だからフグよ、お前の件はしばらく時間がかかるかも知れんぞ?」
『構いません!助けると言って頂いただけでも安心できます!』
……クックッ。
何やらガスパルとミルコが含み笑いをしている。ん、なんだ?
「カイトはこういう事に関しちゃ律儀だからよ。安心しとけやフグ!」
「そっすね。カイトさん人が良いっすから。ははっ」
「買いかぶりすぎだぜ……」
俺は少し照れくさくなって俯き、やがて今後の事に言及した。
「そんでな、まず俺達が帰ってやるべき事がある」
俺は皆が注目しているのを確認して続きを話した。
「人材募集だ!」
ターニャ以外の二人とカブが驚いていた。
「マジかよカイト!?……あーでも。それ……しなきゃ確かに回んねーかもな」
「俺もそれはちょっと思ってたっす。今回だって貿易輸送とバダガリ農園の定期便、なんとかギリギリこなせそうっすけど。もう一人か二人いてくれると助かるっすね」
「ぼ、僕も賛成ですカイトさん!スーパーカブに人を増やしましょう!!」
「おー!人がふえる!?にぎやかになる?」
ターニャもちょっと嬉しそうだった。
「ああ、だがまずはこの貿易輸送を乗り切るぞ!あと900キロだ」
「おうっ!」