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191 脳内に失礼します


 ――ガツガツガツ。


 俺達は腹が減っていたのもあって、夢中で夕食をむさぼった。うめえ!


 あのフグと思わしき魚の焼き物も皆で頂いた。

 コリッとした食感で口の中に旨味が広がってくる。塩でもレモンでもいけるぞ!モグモグ……。


 ムシャッムシャッ。

 ホフホフ。

 モグモグ……!

 ゴクッゴクッ……。プハー!!



 食がすすみ、あっという間に皆で料理を平らげた。


「あー、うまかったぜー!」

「最高っす!」


 ミルコとガスパルが満面の笑みでそう呟いた。


「おじ、ごちそうさま!」


 ターニャも手を合わせていた。


「はー、しかしよく食ったなー。当分飯は大丈夫だ。ふはー」


 俺は自分の腹をポンポンと叩いた。



 ――『よし、これでひとまず安心!』



 ん?


「今何か言ったか?……誰か」


 不思議な聞き覚えのない声が聞こえ、皆の顔を見回す。しかし皆不思議そうな表情で見返してくる。


「ん?俺は何も?」

「いや、俺じゃないっす」


「うーん……気のせいか?まあいいや」



 食い終わって満腹になり、食欲が満たされたら後は寝るだけ――と通常時なら思うんだが、俺も含めて皆日中ずっと寝ていたのでまず直ぐには寝れないだろう。


 ちょっと聞いてみよう。


「なあお前ら、出発までにまた眠れるか?」

「いや無理っす。もう目がギンギンで寝るどころじゃないっす」

 ミルコは即答した。


「俺も無理!っつーかいつもの日中より頭()えてるぞ!」

 ガスパルも同じようだ。


「ターニャも眠くなーい」


「うーん、まいったな。このままだと徹夜で朝出発という地獄確定コースだぞ……」


「うーん……」


 俺達はここまでの長旅で睡眠不足の恐ろしさを思い知っている。

 皆真面目に思案にふけっていた。



 ……ん!?

 ここで俺は一つ思いついた。


「なあ、ここって医療とか薬の国なんだよな?」


「え?そ、そう聞いてますけど……」


「だったらよ、()()()ってのがあるかも知れん!」

「え!?そ、そんな便利な薬あんのか?」



 ……。



「ありますよー!欲しがる宿泊者さんも多いですし」


 再び受付の姉ちゃんに尋ねてみたら、普通に置いてあって即売ってくれた。錠剤のような薬で、ビンに入っている。

 俺は良かったと思うと同時にちょっと心配になったので聞いてみた。


「ふ、副作用とかは大丈夫かい?」


「それが全くありません。安心して下さい。レブルの薬は世界一です!お子さんが飲んでも全く問題ないんですよー。凄いでしょ?」


 ホントかよ怪しいな――と思ったが、他の旅行者が使ってたって話しだし、まあ大丈夫だろ……。



 部屋に戻ってみんなに睡眠薬を配り、各自部屋に戻らせた。

 ここは無理にでも寝といた方がいい。



「あー、何それターニャも欲しいーー!」


 俺とターニャだけになった部屋の中で早速俺は薬を飲もうとした。


「いや、お前これ飴玉かなんかと思ってねーか?薬だぞ?」


「ターニャくすり飲んだ事ない!おいしい!?」

「おいしいわけないぞ。まだ飲んでねーけど」

「ちょーだいちょーだいちょーーだい!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら駄々をこねるターニャ。


「しゃーないな。ほら」


 お子さんが飲んでも全く問題ない――という姉ちゃんの言葉を信用して薬を渡す。


「あ、水がいるな……」


 俺が水を探そうとすると、なんとターニャは薬一錠をそのまま口に放り込んだ!!


「あ、おい!それは水と一緒に飲むんだ!!」


 モゴモゴ……。


 ターニャは口の中で薬の錠剤を舐め回している。

 そして一瞬で凄まじく苦々しい表情に変わった!


「フシュッッ!!」


 ――カチッカチッカッカッ……。


 ターニャの口から放たれた薬は音を立てて部屋の中を飛び回った。


「ゔぇえええええ!ぐえええええ!はーっ、はーっ……!!」


「だから言ったろ!それは薬で食いもんじゃねーんだ」


「お、おじ……それは毒!のんだらダメー!!」

「はっはっはー。俺は君のような子供とは違うのだよ!」


 俺は薬を一粒飲んですぐ水を含み一気に飲み干した。


 ――ゴクン……!


 なんかターニャが化け物でも見るような目で俺を見ている。


「はっはっは。こうやって水と一緒に飲み込めば味をほとんど感じずに済むんだ」

「はんそくー」

「大人の知恵だぞ」


 などとターニャとゴニョゴニョ話し合っていたら……すぐに眠気がやってきた!うお、スッゲー効き目だ。



「よし俺は……寝るぞターニャ。お前も……ちゃんと寝ろよー」

「うん」



 ……。



 …………。




 それからしばらくして、俺はまた不思議な夢を見た。



『カイトさん……であってますね?お名前』


 夢の中で誰かの声が聞こえた。


「ん?誰だ?」


『私はあなたに助けて頂いたフグです。今あなたの胃の中にいます』


「フ、フグ!?た、確かに今、お前の切り身を食ったけども…メリーさんもビックリの近さだな!」


『実は私は元々人間で、訳あってこの世界の生き物に転生したのです。本当は人に転生するハズだったのですが間違えてフグになりました』


「ひどい間違え方だ……」


『私には目的がありまして、そのためには人の意識に存在しなければならないのです。で、カイトさん、あなたの脳内に住まわせて下さい』


「えー」


『あ、ちなみに拒否権はないです』


「強制じゃねーか!?」


『あ、一応言っておきますが、あなたや周囲の方々に何かしら不利益をこうむらせるつもりはありません。ご安心下さい』


「怪しさしかない」


『まあそう思われるのも無理はないでしょう。しかし私はあなたの行動をコントロールしたり意識を乗っ取ったりというような事は出来ませんし、するつもりもありません』


「だと助かる」


『うるさくもしませんのでしばらくご厄介させて頂きたいと思います。あ、迷う事はありませんよ。あなたに拒否権はないので』


「だからそれ強制だろ!?……まあいいや、やかましくならない範囲で好きにしろ」


『では今後ともよろしくお願いします』



 ……。




 …………。



 俺はベッドで目を覚ますと、うっすらと日が昇っていた。



 ――ガチャッ。


 ドアを開けるとガスパルとミルコが廊下で雑談をしていた。


「おはよう」


「おっす!おはようカイト!!」

「おはようございますカイトさん」


「お、二人共めっちゃ元気じゃねーか!?」


「バッチリっすよ!ははっ!」

「またバリバリ走ろうぜー!」


 ここで一応二人に聞いてみた。


「なあ、お前らも昨日の魚料理食ったよな?変な夢見なかったか?」


「変な夢?」


「ああ、フグに脳内に共生きょうせいする事を強制きょうせいされる夢だ!」


 間違ってはいない。そしてシャレのつもりでもない。


「いや、ちょっと何言ってるか分かんねーわ」

「お、俺も……」


 二人はちょっと吹き出して笑っていた。


 どうやらフグ(アイツ)が入っているのは俺だけのようだ。

 


 まあいっか。脳内にフグを飼うのもまた一興。


 それよりこれからまた長い旅が始まる……。俺はぐっすり眠れた事もあってやる気に満ちていた!


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