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190 プギャ芋と夕飯


 それは夢だったのかも知れない。


 俺は宿の一室で爆睡して、辺りはもう真っ暗になっていた。


 ――ドムッ、ドムッ……。


 何かの音が聞こえて俺は目が覚めた。


「んんー?なんだ?」


 その音は部屋のドアから聞こえた。誰かがノックしてんのかな?……ん!?


 俺は立ち上がろうとすると、自分の腕に違和感を覚えた!

 暗くてよく見えないが、これは恐らくターニャが腕に巻き付いているな?

 ふっ、まったく懲りないやつだ。


 俺はテーブルの上のランプに手を伸ばし灯りを点け、案の定腕に抱きついていたターニャを剥がしてドアに向かった。


「はいはい、どちらさんだ?」



 ――ガチャッ。


「あれ?誰もいねえ……ん!?」


 俺はドアを開けて下を見て驚いた!!



「どうも。あの時助けていただいた()()です」



 本当にフグがいたのである。ええ……!?


「やべっ、俺疲れすぎて夢と現実の区別がつかなくなってる!?」


「いえ、夢ではありません」


「でもお前……魚類だろ?頑張りすぎじゃねーか?つるならまだ分かるんだが……。どうやってここまで来たんだ?」


「世の中には知らなくていい事がいっぱいあります。私についての疑問は全てソレです」


「そ、そうか……」


 魚類にしては理路整然りろせいぜんとした喋り方だ。

 そういやウチの番犬のバンも犬なのに喋るし賢いな。そういう突然変異体なのかも。


 フグは続けた。


「それでですね。あなたに受け取って頂きたいモノがあるのです」


「おお、なんだ?」


「私の体です」


「ええー!?お前そんな体張っていいのか?無理すんなよ!」


「あなたは信用できるので……」



 ――ピカッ。


 フグはそう言うと発光し始め、俺は何故かその後の記憶を失った。何だったんだ一体?……。



 ……。



 再び目を覚ますと、ガスパル、ミルコ、ターニャの3人が俺の部屋に集まっていた。


「おおっ!カイトォ。起きたかよ!?」


「ははっ。カイトさん大分長いこと寝てましたね」


「おじー。おはよー!まだ夜だけど」


 ミルコもガスパルも疲れが嘘のようになくなっている。

 ターニャもなんか楽しげな表情を見せている。


「お、おお。皆起きてたのか」


「いやー、俺達も日中はほとんど寝てましたよ。夕方ぐらいにやっと目が覚めたんです。ねえガスパルさん?」

「そーだよ!カイトだけが死んだように寝てたからしばらくこの部屋で起きるの待ってたんだぜ?」


 俺はしばらく口を半開きにさせたまままどろんでいて、やっと頭が回り出した。


 グゥウウウ……。

 腹が鳴った。


「あ、お前ら腹減ってねーか?」


 ガスパルが膝を叩いて声を荒げた。


「減りまくりだぜカイト!おめえが起きるまで待ってたっつーの!!」


「ええ!?俺を?……いや、別に先食ってりゃいいのに。受付の姉ちゃんが言ってたけど勝手に頼んでいいらしいぞ」


「んなワケにいくかよ!」


「そうっすよ!カイトさんを放っといて自分達だけ食べるなんて無理っす!」


 そ、そうなのか……。俺はコイツらの律儀りちぎさに驚くと同時に少し嬉しくもなった。


「じゃあ早速受付で飯頼んでくるわ」

「おう、とにかく食いもんであれば何でもいいぜ!」

「俺も。基本的に好き嫌いないんで」


 二人の反応はいつも通りだった。しかしターニャだけは何故かいつもより控えめだった。


 ん?


 よく見ると手を後ろにして何かを隠し持っている感じだ。どうした?


「おじ……畑仕事手伝ってすごいのもらったよー!ほらっプギャ芋ー!!」


 うおおおお!マジかよ。違法薬……じゃなくて違法穀物になりかけのプギャ芋だあああああ!!



「ビックリでしょカイトさん?俺らが寝てる間にゲットしたらしいんです」


「す、凄えなターニャ」


「マジで凄い!お前()()()()ぞターニャ」


 俺は非常に迷った。ターニャは食うつもり満々だがコレ食うとトランス状態になっちまう……。貿易輸送の最中にそれはマズい。


「ま、まあ一旦飯頼んでくるわ」



 ――パタン。


 俺は飯の注文と同時にプギャ芋について聞いてみることにした。


「おっす、姉ちゃん。夕飯注文していいかい?」


 そう聞くと予想外の答えが帰ってきた。


「あ、あの……カイト様でよろしかったですか?」

「?そうだけど?」

「どなたからか存じませんが、あなた宛に食材が届いています」

「食材?どんな?」

「よく分からない魚の切り身です」


 うわ、やっぱりあれ夢じゃなかった。


「あ、多分俺宛であってるわ」

「こちらで調理しましょうか?」

「頼む。内臓はねーよな?」

「身の部分だけですね」

「おっけーおっけー」


 なんて自己犠牲精神の強いフグだ。おいしく頂かせてもらうぜ!


 次に俺はプギャ芋の事に言及げんきゅうした。


「ちょっと聞きてえんだけど、プギャ芋ってこの国じゃどういう扱いなんだ?」


 すると姉ちゃんは顔をしかめて小声で話した。


「プ、プギャ芋ですか!?あれは()()()()です!!持ってたり栽培したり、使用していると疑われるだけで連行されますよ!」

「げっ、マジか!?スズッキーニより大分やべえ!あっちはまだ違法指定もまだだったのに……」


 姉ちゃんはより真剣な顔になって話し始めた。


「……おそらくですが、うちの国って薬や医療で回してる国なんです。なので、あの芋が世に出回ると国にとって都合が悪いんじゃないかと……プギャ芋って物凄い薬効もあるって聞きますし」


 ありえる。十分にありえる話だ!


「ま、まあでもプギャ芋って滅多に採れないんだろ?」

「そう聞いてますね。というか万一掘り当てちゃった農家さんは扱いに困るでしょうねー。国に報告するのも手間ですし」


 ターニャがプギャ芋もらえたのが分かった気がした。


「そ、そうか。まあそんな芋持ってたら大変だわな、うん。じゃあ俺は部屋に戻るから夕飯3〜4人分俺の部屋まで頼むな」


「はいっ。お任せ下さい!」

 姉ちゃんは最後に笑顔で答えた。



 俺は部屋に帰ると真っ先にターニャに言った。


「ターニャ。そ、そのプギャ芋はな。最終兵器だ!」


「さいしゅーへいき?」


「ああ、俺達がどうしても助からないような状況に置かれた時に食べよう。普通に食べちゃ勿体ねえ」


「えー……」


 しょんぼりするターニャ。やっぱりすぐ食うつもりだったようだ。


「例えばな。俺とかお前とかセシルが病気になったりした時にこれを食うんだ。たぶんすぐに治るぞ!」


 そう言い聞かせるとターニャは手をポンと叩いて、

「おー、なるほど。だからさいしゅーへいき!」

 と言って笑顔を覗かせた。


「そうそう。あ、一応俺が預かっとくな」

「うん。家においとこー!」


 よしよし。物分かりがいい奴は好きだぞ。



 数十分後、部屋には美味そうな夕食が運ばれて来た!


 パンにスープにサラダ、そして肉料理、最後にあのフグらしき料理が出てきた。焼きフグか!刺身は流石にねーよな。


「うおおおっ!超美味そうだぁぁ!」


 狂喜乱舞するガスパル。


「いやー、いい匂いですねー!」


 ミルコもニマニマしながら料理を見つめている。


 ターニャは笑顔でよだれを垂らしかけている。ふふ、確かに美味そうだ。



「じゃ、いただきまーす!」


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