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188 とにかく寝るぞ


 関所はそこそこの大きさで、天井も高かった。


 俺達は目立たぬようゆっくりバイクを進めて中に入ったのだが、それでもやはり人目を引いた。


 ――ザワザワ……。ヒソヒソ……。


「スズッキーニにはあんな車があるのか……」

「後ろの輸送品、アレ相当重いぞー。まさかあの小さな車一つで引っ張って来たのか?」

「いやいやそんなのあるわけないよ。僕は車に詳しいんだ。内燃機関エンジンだけでももっと大きくないとろくに力も出せないハズだよ」

「でもあれどう見ても1台で引っ張ってる気がするぞ?新しいエンジンが開発されたのかも……」

「確かに、いやー、でも……」



 ……うーん、やはりここでもカブやセローに対する周囲の声は似たようなモンだな。

 だがニンジャーでもそうだったが、俺達とレブルの人間とでそう言った技術的な話は出来ない事になっている。

 なんでも国の機密事項は漏らすなという話らしい。


 つまり俺達があれこれ聞かれたりはしないというワケだ。助かったぜ!


「おおー。なんと、この箱本当に紙で出来てるじゃないか!ふほほほほ!!はー、なるほどー。こんな風に波打った紙を真ん中に挟んでいるのかー。ほほーそれだけでこの強度か……凄い凄い!!」


 俺は声のする方を振り向きビックリした!


 博士か何かと思われる男が、運んできた段ボールに顔をこすり付けその感触を確かめていたのだ!

 俺はちょっと引きながらガスパルのカブ90の荷車を指差した。


「だ、段ボールならあの箱にいっぱい入ってるぜ」


「おほー!素晴らしいっっ!諸君らも疲れただろう。この関所を抜けた所に国営の宿がある。存分に休憩するといい!」


 その博士は目をキラキラさせてそう言ってくれた。

 宿と聞いて俺達は笑顔が弾けた。やった。やっと休めるぞ!



 ここで兵士が俺達に聞いてきた。


「車はどうされます?荷車と一緒にここに置いていかれますか?」


 俺は即答した。


「いや、車は宿まで持っていく」


 ここに置いといてバイクに何かあったら大変だ。

 カブが近くにいれば誰かがバイクに変な事をしようとしてもすぐホーンで知らせてくれる。


「分かりました」

 兵士は和やかに微笑み了承した。


 俺達はすぐさま各自のバイクと荷車を結んでいた皮の紐をほどき、バイクと荷車を分離させた。


「では我々はこの輸入品の検品をした後、この荷車にこちらからの輸出品を積み替えておきます」


「うん、分かった。それと、一応俺達の出発は明日早朝の予定なんだが……」


「はい」


「そっちからの輸送物ってどれくらいの大きさ、重たさか分かるか?その多寡たかによっちゃ出発を早めたりするかも知れん」


 兵士は若干考える素振りを見せた後、こう答えた。


「いやー。ハッキリどれぐらいとは言えませんが、ウチからの品物は錠剤の薬ですのでそちらのロール紙やペン、段ボールといった品々に比べたらかなり軽いハズです」


 お、マジか!?


「この荷車3台で均等に積んだらどれぐらいになる?」


 ここで兵士は俺達を安堵させるような言葉を放った。


「おそらくあなた方の積んできた量の4()()()1()()()に収まるんじゃないでしょうか?」



 俺はミルコとガスパルの方を向いてニカッと笑った。3人共「帰りは楽だ!」という認識を共有出来たからだ。



「じゃあ俺達は宿に行くわ。また明日な」


「ええ、お待ちしております」



 ――ドゥルルルルー……。パルルルルン。シャルッ……トトトトッルルルルー。


 エンジンをかけて1速で発進する。

 そしてまず最初に思ったことはコレだ――軽いっ!!


「おおーーっ!」

「3台共なんて軽やかな動きだ!!」

「凄いなスズッキーニの技術は……」


 なんか周りから歓声が上がっているな。いや、目立ちたくねえぞ。


「でも動きは流石にゆっくりだな」


 わざとだぜ!


「あのペースだとここまで20日はかかるだろう……彼らの体力も凄いね。流石にしんどそうだけど」


 すまん本当は1日なんだ。しんどいのはその通り!



 「あれだな!」


 俺達は関所を出ると、すぐに宿が見えてきた。

 宿までの道もこの辺は全て石畳で比較的綺麗に舗装されていた


「カイトさん、久しぶりのオンロードって感じがしませんか?」


 カブがウキウキした声で話しかけてきた。


「ああ、日本に帰ったときもお前は走ってなかったしな。束の間の石の道を楽しめ、カブよ」




 それから宿のスペースに3台のバイクを停めて、宿の受付にやっできた。

 この時点で俺も含めターニャ以外全員が疲労困憊だった。

 普段はどちらかと言うとやかましいガスパルもずっと沈黙を続けている。


「はい、では輸送団の方……え、3名だけですか!?」


 受付のねーちゃんは驚いていた。ん?何に?


「いえ、スズッキーニからの貿易輸送で来られているんですよね?普通に考えて2〜30人は来ると思ってました」


「ふ、まあ色々あってな。とにかくここに泊まるのは3人……と子供1人だ」


「ういーー!ぴょんぴょん」


 ターニャは受付カウンターの前で飛び跳ねて、ねーちゃんに存在をアピールしている。


「ほらっ、コイツな」


 ターニャを抱き上げて見せるとねーちゃんは目を丸くした。


「……」

「もう部屋行っていいか?」


「あ、は、はい。全部屋貸し切りですので、ごゆっくり……」


 なるほど、団体さん向けに貸切にしてくれてたのか。なんか悪いな、でも国営って話だし、まあいっか。



「うおおぉ……。俺は寝るぞー……」


 ――バタン。


 真っ先にガスパルが手前の部屋に入った。


「カイトさん、俺も……」


 ミルコが力のこもらない半笑いのままガスパルの隣の部屋を指差した。


「おう!おやすみ。お疲れだったな!!」


 27時間連続で200キロを超える荷物を引っ張ってセローを運転するとかよく考えたら狂ってる。マジで爆睡してくれ。


 ――バタン。


 さて、俺もなんだかんだ疲れすぎた。途中で少し眠ったとはいえ、睡眠とかよりとにかく体がダルすぎる……。


 部屋に入ると綺麗なベッドがあった。俺は吸い込まれるようにそこに横たわった。


 一瞬で意識が《《無》》に吸い取られる感覚……。


「すまん、……ターニャ、ちょっと……寝るわ……」



 ……。



「おじ………………ってくる!」


 ターニャが何か言った気がしたが、ベッドに横になった状態が心地よすぎてもう言葉も出なかった。


 ZZZ……。

次回はターニャ視点の話です!

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