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186 生理現象……


 ――緊張が走る!


 俺は停車し辺りを見回した。

 カブのヘッドライトが前方のミルコの荷物に反射してほのかに山道の横が明るいが、ハッキリと全体は見えない。


 しかし確かにホーンが1回鳴ったのだ。つまりどこかに山賊が潜んでいる!……と先頭のガスパルが認識したという事だ。



 そしてガスパルの合図が出た!


 ――ドゥルルアアアアアアァァーー!!


 そう、それはその場で()()()()する事!

 俺もミルコもガスパルを真似てN(ニュートラル)で猛烈な排気音を辺りに響かせた。



 ――バラララアアアアアアアアアアーードゥルアアアアアア!!!!


 そして俺の前のミルコがゆっくり前に進みだし、思いっきりホーンを鳴らした!!


 ――ブァアアアーーーーーー!!!!


 さらに俺も続く!


 ―― パパァァーーーーーー!!!!


 凄まじいクラクションの音が山の中にこだました!



 さらにダメ押しで全員これでもかという程の唸り声を上げた!


「ウオオオオオオオオオ!!」

「グオオオオオオオーー!!」

「アアアアアアアアアアアアーー!!」


 そしてカブもどこかでダウンロードした動画を再生し始めた!


「ウウウウウウゥンバアアアアア!!」


 CBのVTEC音だ!さすが同じHONDAだけある!!



「ぎゃあああああ!!モンスター§☆★!○●アア!£%A‰ #!??」


 ――ザザザザッ!ガサガサガサガサッッ!!


 明らかに人間の叫び声と思われる絶叫が辺りに響き、何者かがここから走り去って行った。

 間違いなく盗賊だ!やった、効果は抜群だ。


 それもそのはずで、いきなり夜の山の中でこの世界に存在するハズのないカブとセローが大音量で向かって来るのだ。

 しかも積んでいる荷物の大きさも化け物感に拍車はくしゃをかけている。


 盗賊とはいえ現地住人からしたらもはや恐怖でしかない。


 俺は内心ちょっとビビってたけどあまりにも綺麗に作戦が決まって笑い出しそうになった。


 ちなみにカブはシフトペダルを()()()()ことによってN(ニュートラル)と同じくクラッチを切った状態にできる。 

 それを使って今も走りながら暴走族のように排気音を響かせている。


 ――ドゥルルルアアアアァァァァーーン!!チカチカチカチカッ!


 補助灯をON/OFFして光による演出も忘れないぜ!ふはははははは!!




 ――5分ぐらいそうやって激しく夜道を駆け抜けて、ようやく俺達は大人しくなった。

 さっきの場所からは1〜2キロほど進んでいる。もう賊は大丈夫だろう。




 俺達は静かになってからもゆっくり進み続けた。


「ふー、もう大丈夫か……」


 俺は安心してそんな声を漏らした。


「いやー凄かったですねカイトさん!あんなん日本じゃ出来ませんよ!」

「はっはっは。まあな、そもそも盗賊自体が存在しねえけど!」



 ――パッパーッ!


 またもガスパルのカブのホーンが2()()!止まろう。


 ジャッ。


 エンジンを止めずにバイクを停めて、ガスパルとミルコがこちらに歩いてきた。


「やったぜカイト!アイツら大慌てで逃げて行きやがったぜ。ふはははは!」

「ああ、やっぱりそうか。いいアイディアだったぞガスパル」

「なんか俺めっちゃ楽しかったっすわ!あははは」


 そうやってお互いに今の暴走作戦を褒め合った!



 ん?そういやターニャは?やけに静かだな。


 俺は思い出したようにターニャのいるリアボックスを見た。すると……。


「ZZZ……」


 なんとターニャは以前と同じようにリアボックスの蓋の上に腕を組み、その上に首を乗せて完全に眠っていた。


「こ、こいつ。今の大音量の中普通に寝てやがる」

「スゲェなターニャ!動じなさすぎじゃね?」

「ははは、大物っすね……」



 ここで俺は皆も眠くなってないか尋ねた。


「皆は大丈夫か?」

「全然余裕だぜカイト!ちょいケツが痛えけど」

「俺も!むしろテンション上がりすぎて眠れねえっすわ。腰はちょっと痛いけど」

「オッケー。俺もそんな感じだ。じゃあまた続けて走るか!居眠りするレベルになったらまたホーンで知らせてくれ。俺が交代するから荷車で寝てくれ」


 ミルコが心配そうに尋ねてきた。


「カイトさんは大丈夫なんすか?この中で一番年上っすよね?」


「ふっ、心配いらねー……と言いたいところだが無理はしねえよ」


 カブが力強い笑顔で言った。


「僕の荷車の段ボールとシートの隙間に横になれるスペースがあるので、遠慮なく言ってくださいねー!」


「おう。頼もしいぜカブ!」





 ――ドゥルルルルー。


 それからどれぐらい走っただろうか?


 山道をひたすら走り、気付けば山を抜けて再び平地になっていた。


 距離を見てみると700キロ!うわー、時間的には深夜の2時か3時ぐらいか。

 21時間ぐらいぶっ通しで走っている事になるな。

 流石にテンションも下がってきた。そして眠気も……。よし!



 ――パッパーッ!


 俺は皆にら断って睡眠をとろうとした。ところが――。


「……カイトぉ。なんだ、もう……ダウンかぁ?……俺はまだまだー……いけるぞー……」

「ガスパルゥ……無理すんなよ、お前……すっげー眠そうだぞ?」

「……ふぁっ。二人共もう歳なんだし。寝て下さいよー……」



 結論。誰か一人ではなく全員が眠い!!



 その中で唯一眠気とは無縁の奴がいつもの調子でつぶやいた。


「あのー。僕から見ると三人共眠たそうに見えますよ!今山の中でもないですし盗賊も出ないでしょうし、ここで皆さん仮眠をとっては?」


「さ、さんせい……。カブよ。一時間ほどで起こしてくれ。……あと、何かあったらホーンで……知らせてくれな」


「はいっ!」



 カブの返事を聞いた皆はそれぞれの荷車へと乗り込んで、頑丈な段ボールの上に寝っ転がった。


 正直、山の中のおかしなテンションの反動で今猛烈に眠い……。


「寝よ……」



 ……。



 …………。



 ――パパーッ!



 俺達はカブのホーンで再び目覚めた。


「……ぅうーん」


 のそのそと起き上がる。周りはまだ暗い、真っ暗だ。


「……ふぁーーっ、いってー……体がギシギシ言ってやがる」

「二人共起きました?いやー、やっぱりちょっとでも寝るとかなり楽っすわ」


 ガスパルも目をこすりながら起き上がり。ミルコだけはすでに普段のテンションだった。若いっていいなー。


 ここでカブのリアボックスの中から音がした。


「おじ……しっこ……」


 ターニャは寝ぼけたように下の服を脱ごうとした!?


「ああー待て待て待てターニャ!そこはトイレじゃねえ」


 俺は大慌てでターニャの抱えてリアボックスから出して抱き抱えたまま赤ん坊のように用を足させた。


 ふー。一安心!


「あー俺もしよ」

「俺も、膀胱がパンパンだぜ」


 皆も思い出したように立ちションをした。カブが笑いながら言った。


「皆さん人間らしいですね!」


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