184 絶望の坂!!
――ドゥルルルルン。パルルルッ。ドゥルルルー。
それまでは開けた平地だったが、山に入ると道の脇の木々のせいで光が入りづらく薄暗い。
さすがに山に入って行くとやや登り坂になったり逆に下り坂になったりと正直ハラハラした。
特に怖いのは下りだ。
「いやーカイトさん。ちょっと昨日の事思い出しますね!」
「おう、ちょっとミルコにも言っとこう」
「ミルコー!上りは気合で上がるだけでいいけど下り坂はマジで気をつけろ!1速エンブレ効かせて走ってくれ」
最後尾の俺は声を張り上げた。
「了解でーす!!」
ミルコからこれまた大きな声で返事が来た。
セローに乗せた荷物であいつの姿は後ろから見えないが、声を聞いて俺は少し安心した。
「おじ、ターニャ前乗る。ここは眠たくなる
から」
ターニャが希望を出してきた。よっしゃ、乗れ乗れ。
――パーッパーッ!
俺はホーンを2回鳴らし二人に待ってもらった。
ホーン2回は全員止まって待機の合図だ。
ちなみにホーン1回は敵襲や事故など緊急事態の合図にしてある。出来るだけ使いたくないがな。
「よいしょっと、うんだいじょーぶ!」
ターニャはステップに足を乗せ、俺に笑顔を見せた。
「よし、オッケーだな。行くぜ」
――パーッパーッ!
再びホーンを2回鳴らし再出発の合図を出して、俺達はまた山道を走っていった。
そしてそれから2時間程度経ち、お日様が天高く登る正午ごろに差し掛かった。
グゥゥゥ……。
あー、腹減ってきたな。
そのとき俺達はちょうど木々の少ない開けた道を走っていたので再びホーンを2回鳴らした。
「おーい!飯にしようぜー!」
俺は大声で二人に呼びかける。すると奴らは歓喜の声を上げた。
「やったー。やっとお昼ですか!腹減って死にそうでした!!」
セローを止めたミルコが笑顔で駆け寄ってくる。
「いえーーい!飯だ飯飯!ヒャッホーイ」
ガスパルもこの上なく喜びに満ちた顔でやってくる。
そして飯といえばもちろんコイツだ。
「うぇーーい!!ごはんごはん!!」
ターニャはガスパルと一緒によく分からん踊りを踊り出した。はは、なんだこいつら。
俺も腹減ったな、セシルが大量に作ってくれた弁当を今解き放つぜ!
――モグッモグッ……。ムシャッ。ガツガツガツ。
皆相当腹が減っていたらしく夢中になってかぶり付く。
「うめえっ!」
「もっもっもっ……」
「……んんっ。セシルさんの手料理最高っす!」
俺はペットボトルに凍らせていた麦茶を取り出すと、いい感じに半分ぐらい溶けていた。
「皆お茶持っとけ」
「あざます!」
「ヒョーッ。冷えてんなぁー!!」
ゴキュゴキュッ、ゴクッ……。
「プハーッッ!サイコー」
俺は飯もそうだが食後の冷たいお茶も最高に好きなのだ。
セシルの弁当をみんなで半分平らげて、もう半分は今後の為に残しておいた。
夜は一応レブルの宿に泊まって食う事も出来るが、時間があるか分からない。
帰ってからのバダガリ農園便は絶対に間に合わせたいしな。
――ゴロン。
俺達は昼飯を食い終わり軽く横になった。
ターニャだけは元気に周りの自然を観察したりしていた。
「よっしゃ。ちょっと寝てから再出発だ!」
「……はい」
隣で横になっていたミルコが少しまどろみながら答えた。
「あー、のどかだな。カイト、この辺は多分盗賊は居ない気がするぜ」
「ガスパル、何か理由があるのか?」
「勘だ!……って言いたいけど、盗賊が襲うならこんな明るい場所じゃなくてもっと薄暗い山の中だろ?あ、一応言っとくけど奴らに出くわしそうな気配がしたら俺は止まるからよ。襲ってきそうだったらホーン1回鳴らすぜ」
「うん。それなら後ろの俺もその俺の後ろのカイトさんも止まって警戒出来るっすね!」
こういう場面ではそういった賊に詳しい(というか元同業者の)ガスパルが頼りになる。
――ドゥルルルルッ。パルルルルルッ。ドゥルルーン。
10分程そうやって横になった後、俺達は再び出発した。
「皆さん眠気は大丈夫そうですね!」
「ははっ、安心しろカブ。全く眠くねーわ」
カブの心配を俺は一蹴した。
「分かりましたー!眠くなったらいつでも言ってくださいよ!」
「おう。しっかし前のゼファールの時みたいに雨も降らねえし。今回意外と楽勝なんじゃねーか?ははは」
俺は正直この時は楽観的に構えていた。
だがこの後1時間程走ったとき、俺達は絶望的な光景を目にするのだった。
――パーッパーッ!
ガスパルのカブ90のホーンが2回……。
俺達はバイクをその場に停車させた。
「ん?どうした……?」
俺はミルコのセローに積まれた荷物で、前がよく見えなかったのでカブを降りて前に歩いていった。
「な、何じゃこりゃ……!?」
ガスパルもミルコも険しい顔つきで立ち尽くしていた。もちろん俺も。
そして思わず呟く。
「まるで暗峠だ」
そう、俺の目の前にはあの日本一の急坂を思わせるようなとんでもない斜度の上り坂が待ち構えていた!!
ガスパルは少し狼狽えながら分析していた。
「こ、これ。俺のカブ90は荷物が軽いから行けるかもしんねーけどミルコやカイトの荷物じゃぜってー登れねーだろ!?」
ガスパルの言うことは最もだ。
仮にギリギリでゆっくり登れたとしても途中でちょっとでもタイヤが空転しちまったら終わりだ……バイクは荷車ごと坂を下り落ちて荷物はもちろん最悪セローやカブまで破損しちまう。
それだけならまだしもミルコやガスパルといった貴重な人材に何かあったら目も当てられん!
俺は決断した。
「ガスパル、ミルコ。二人共セローの荷車から荷物を3分の1ぐらいまで下ろしといてくれ!回数分けて登るしかねえわ!」
「わ、分かりました!確かにセローのこの荷物の量じゃ絶対登れないっすもんね」
ミルコはすぐに納得してくれた。
「俺はこの上り坂がどこまで続いてるか走って見てくる!!」
「よっしゃ。カイト、セローの荷物は下ろしとくぜ!ついでにカブの荷物も半分くらいにしとくわ!!」
ガスパルの声が響く。
「おうっ!頼むな」
「おじ、ターニャはー!?」
うっ、うーんとな……。あっ!
「ターニャ、お前ガソリン!みんなのバイクにガソリン入れといてくれ。今でそろそろ200キロ近く走ってる事になるから、ここらで満タンにしときたい」
「わかったー!給油、する!」
それぞれが出来ることを見つけて荷物を運ぶという目標のために動き出す。
不思議な事に、俺はこんな状況でも何故か楽しくなってくるのだった。