183 100km地点にて
さて、じゃあいよいよ出発だ。
――ギャギャッ、パルルルルルッ!カシャッ……。
まず一番荷物を積んでいるセローは発進出来るだろうか?確実に250キロ以上はあるぞ。まあセローは250ccだし低速トルクは強いので多分大丈夫だと思うが。
――パルルルルー……ジャリッ。
セローと荷車の車輪はゆっくりと回転を始めた。おおっ、さすがだ!
「いっやー重い!これは……ちょっとでも登り坂だとアクセル煽らずにクラッチ入れたらエンストしますよ。ははっ」
ミルコは苦笑いでそう話してくる。半クラ+アクセルが必須だな。
よし、俺も試しに発進してみよう。
――ドゥルルルル……ジャリッ。
うん!ちゃんと前進はする。……だが本当に重たい。
「カイトさん。これ、僕の感覚だと史上最重量かも知れません!」
カブもちょっと顔がひきつっている。俺も似たような肌感覚だ。
セシルによればレブルの標高はここより低らしいが、急な登り坂だけは勘弁してくれ。
あ!それとこれも忘れずにやっとこう。
俺はトリップメーター代わりにミラーの根本に取り付けていた南京錠の3桁の数値を合わせた。
次に俺はガスパルを気にして声を掛けた。
「おう、ガスパルは大丈夫かー?」
ガスパルは軽い段ボールを一気に引き受けていたので、荷物のかさは俺より大きい。しかし重量は俺の半分ぐらいだ。
――ドゥルルルルン!!
「はっはー。余裕だぜ!」
「うおっ。お前めっちゃ軽そうじゃねーか!」
俺は思わず突っ込んだ。
ミルコが言った。
「もし俺やカイトさんが坂を登れない場面があったら、ガスパルさんのカブ90に荷物を渡した方が良いっすね」
ガスパルは笑顔で返事をした。
「お!俺も今そう思ったんだ。任しとけ!こっちはまだ余裕あっからよ」
二人の駆け合いに安心した俺は先頭に立った。
「よーし、じゃあ俺が地図を見ながら先行するから、次にミルコ、最後尾にガスパルの順でついてきてくれ。ガスパルは何かあったらホーン鳴らして知らせてくれなー」
――ププッ!!
「了解だー!!」
ホーン音と共に溌剌としたガスパルの声が響いた。
よし行くぞ!
――ドゥルルルン。パルルルッ、ガタンガタン。
ヤマッハからしばらく走りやっと日が昇ってきた所で、俺達は本部へと続く広い道に出た。俺は地図を確認する。
「確かこの道を……本部の逆側に進めばいいんだな。よし、こっちだ!」
――ドゥルルルルー。
「おじ、さっきの何ー?」
リアボックスに乗ったターニャが興味津々といった声で聞いてきた。
「ん、あれは地図ってやつだ」
「ちず!ちず見せてー!」
俺はちょっと迷ったが、次の二股の分岐までは一本道だったので後ろにいるターニャに地図を渡した。
「ありがとーおじ!ターニャ案内するね」
「おおー凄いじゃねーか。頼むぞ」
正直100%アテにしていた訳ではなかったが、教育として見せても良いだろうと思った。間違ってたら俺が言えばいいしな。
――そこからはほとんど1本道で広い道は続き、3~4時間ほど走った時、50メートルほど前方に右と左の分岐点が現れた。さあターニャ、出番だぞ!
「……」
「……おーい。ターニャさん??」
俺の呼びかけにターニャは無反応……あ、これは。
ZZZ……。
後ろを振り返るとやっぱりだ、リアボックスの蓋に頭を乗せて寝てやがった。俺は苦笑いした。
「はは、しゃーねーなあ。ちょっと休憩にすっか。おーい!」
俺は左手を上げながらゆっくりとカブを減速させて停車した。
トリップメーターを見ると、ちょうど100キロぐらい走ってきたようだ。そして自分の体にも疲れが溜まっている事を自覚した。
「うおおお。ケツがいてえええ!!」
俺はカブを降りて自分の尻を拳で叩いてほぐした。
「いやー。ちょっと疲れましたねカイトさん。まだ昼前ですけど」
ミルコも伸びをしながらこちらに歩いてくる。
「おー、ここで休憩か?俺はぜんっぜん元気だぜ」
その場でジャンプしながら余裕さをアピールするガスパル。
「お前すげーなガスパル。ケツ痛くなんねーの?」
「いや。カブ90の椅子……シートっての?あれ凄えな!超柔らかいし全然痛くなんねーわ!」
そこまで褒められればカブ90も嬉しがってるだろうぜ。リアサスも柔らかいしな。
「はははっガスパルさん、俺等の中じゃ一番痩せてますもんね。単純に腰とかにかかる負荷が少ないってのもあるんじゃないですか?」
ミルコとガスパルは笑顔で話を交わしていた。
「あー!!??」
ここでターニャが目を覚まし、目をこすりながらリアボックスからのそのそと這い出してきた。
「ごめんおじ。ねちゃった!案内わすれてたー!!」
申し訳無さそうにそう言ってくるが全く問題ないぞ。
「はっはっは。気にすんなターニャ眠いときゃ寝てろ」
ミルコも笑いながらターニャを慰めた。
「俺達は運転してるから嫌でも起きてるけど、ずっと後ろで座ってるだけだったら俺、絶対寝る自信あるっすよ。はは」
ガスパルもおどけたようにこう話す。
「俺、そもそも地図見ても理解できねーぞ!?」
「いやお前はそれじゃ困るんだが」
「あははははっ」
などとしばらく談笑してから再びそれぞれのバイクに乗り込もうとしたとき、ターニャがナビをした。
「ここから右いく!山の中をすすんでいくと橋がある。ってかいてあるー」
「おう。良い案内だターニャ!山か……」
俺はちょっと治安が心配になった時、ちょうどガスパルが真剣な顔つきでそれに助言した。
「おい皆、武器は携帯しといたほうがいいぞ!レブルはゼファールよりは大分治安は良いらしいけど、山ん中はそれとは無関係に賊が出やがるからな!」
なるほど、さすが元山賊。道行く人間に襲いかかるなら都市より山道だろうな。
ここでミルコがベルトに剣を装着しながら力強い顔で宣言した。
「了解!俺は前カイトさんに代金半分出してもらった剣があるんで。早速実戦で役に立つかも……!」
そしてガスパルが再度忠告と提案をした。
「……多分だけどよ。山ん中は俺が先頭の方が良い気がするぜ?カイト。危なそうだったらホーン鳴らして知らせるからよ」
「分かった。ありがてーぜガスパル。じゃあお前先頭で真ん中がミルコ、最後尾が俺の順で進もう!」
「了解!」
旅はまだ始まったばかりだ。