182 レブルへの旅立ち
「じゃあ行くか」
家を出たのは朝日が登るちょっと前で、辺りはまだ薄暗い。
――パルルルン!ドゥルルルン!ガタッガタガタッ。
俺はセローで軽快に山道を下る。シートの後ろにはターニャが乗っている。
セシルはカブ90カスタム。カブは自走だ。
今回は俺がカブ、ミルコがセロー、ガスパルがカブ90デラックスという割当だ。
3台全てのバイクに荷車を付けている。
山道を出て広い道を少し進むとすぐに本部に到着した。
俺達は場所を知っているから分かるが、相変わらず非常に目立たない。ふふふ、部外者に見つかりにくい素晴らしい場所だな。
――ザッ……。
「カイトさん、はよーございます!」
「おっすカイト!」
「おはよう二人共。昨日は良く寝たか?」
「もちろん!」
ミルコもガスパルも実にいい顔をしている。俺は安心してひとまず指示を出した。
「じゃ、ガソリンタンクを積み込もう。載せるのはカブ90デラックスだ。あと 乗るのはガスパルな」
「おっしゃ!!」
そう返事をするやいなやガスパルはガソリン満タンのタンクを荷車とリアボックスに積み込んだ。
ちゃんとリアボックスにも積んでるあたり分かってるなー。
「ギルドに到着してからの話だが、ミルコはセローに乗って、輸送物資を一番多く重く積んでくれ」
「了解っす!」
よし、じゃあとりあえずヤマッハのギルドへ行こう。
「ターニャはどうする?どれか乗りたいバイクはあるか?」
するとターニャは即答した。
「おじのカブ!なれてるから」
お、そうか。
「分かった。じゃあターニャは俺のカブな」
「いつも通りですけどよろしくお願いします。ターニャちゃん!」
「うん、よろしくーカブ!」
「カイト、私のカブ90カスタムは使わないの?カブが自走できるから3人で4台走れるんじゃない?」
セシルが親切な助言をしてくれたが、それだとお前の通勤がしんどいだろ?
「いや、大丈夫だ。台数が多いとトラブルもそれに比例して増えるかもしれないしな」
「分かった」
「じゃ、ヤマッハギルドで積み込みしにいくぜ!」
「おーーう!!!!」
――ドゥルルルン、パルルルッ、トゥルルルー、ガラガラッ。
俺達はヤマッハギルドの裏口に案内され、まずその物量に驚いた!
「ええーー、何じゃこりゃー、マジかよ!?」
「うはー、凄い量だ……」
「やっぱり聞いてた通り山盛りじゃねーか。ゼファールん時の3倍近くあるぞ!?」
そしてその輸送品は前回の木箱と違い全て段ボールで梱包されていた!
おおー……、なんか自分が出したアイデアが貿易品に使われるなんて感慨深いな。
「ぴょんぴょん!」
ターニャはその場で飛び跳ねていた。なんだ?上の方が見たいのか?
俺はターニャの脇の下を両手で持ってグイッと持ち上げてやると、その状態でターニャは荷物を見回して何かを発見したらしく俺を呼んだ。
「おー!おじ、なんかあれだけ箱が違うよー!」
「ん?」
それについてセシルから説明が入った。
「その箱の中身はタイプライターだから慎重に扱って欲しいって」
「なるほどな。精密機器って事か、分かったぜ」
「じゃあちょっと重たい箱順に指差していっていい?カイト」
「おう……あ、ちょっと待ってくれ。ミルコ、ガスパル、これを付けるんだ!」
俺が二人に提示したのは「ラバー付き軍手」だ!
段ボールとの相性は抜群だぜ。
「うおっ!なんだコレ!?まるで箱に吸い付くみてーだ!」
「カイトさん。このグローブ摩擦がめちゃくちゃ強いっすね!いやー、これ良いっすわー!!」
「だろ?じゃあセシル、説明頼む!」
「うん。まずこの大きさの箱の中身はロール紙で一番重いね。次に……」
軽く微笑みながら説明するセシル。俺達は素早く積み込みを始める。
――ドゥルルルー……。
「オーライオーライ。おっけー!」
ひとまず荷物の乗っている荷車の両脇に、セローの荷車とカブの荷車をベタ付けした。
早速ガスパルが真ん中の荷車に飛び乗る!
そして俺はカブに、ミルコはセローに反射的に乗り込みそれぞれ「荷物をくれ!」という雰囲気を出した。
ガスパルがそれに応えるように吠えた。
「いくぞっ。おらっ!」
「うっし!」
ガスパルはミルコにロール紙入りの段ボールを手渡す。まるで引越し屋だな。
「カイトさん。ロール紙の割合どうします?」
と、ミルコ。
俺はロール紙の段ボールが何個あるのか数えた。15個か……よし!
「ミルコに9、俺に6で頼む、ガスパル」
「分かった!どんどん渡して行くぜっ」
バッ、バッ、ドサッ、ドサッ……。
リズミカルに重さ2〜30キロはある箱が移動していく。
ガスパルは肉体的に一番しんどいが、俺やミルコのように荷車にカッチリと箱を敷き詰める作業はそれはそれで若干センスが必要なので労力は皆同じぐらいだ。
ターニャはしばらく俺達を眺めたあと、飛び跳ねて応援してくれていた。
「みんなーがんばれー!おうえん、おうえん!」
ありがとよターニャ。
そして俺達は10分とかからないうちに全ての荷物をセローとカブ、そしてカブ90へと移動させる事に成功した。
最後に乗せた軽い段ボールの中には、折り畳まれた段ボールが入っていた。
そういや段ボール自体も貿易品だったか。大人気だな!
よし、あとはしっかりシートを掛けてガッチリと荷車に結びつける。これで出発準備完了だ!
――ドゥルルルルル……。
「じゃあなセシル。3〜4日で帰ってくるから」
「バダガリ農園は間に合うの?」
「……頑張るわ。一応ヤマッハにいるキルケーの関係者には、次回間に合わないかも……と断ってはいるけど、信用が落ちるのは嫌だしな」
少し弱気になった俺を励ます様にセシルは手を握ってきた。
「私は信じてるから、カイト。でも無理しないで、命が一番大事だからね」
「ヒュー、熱いなー!」
ガスパルが冷やかしてきたが、心配されるってのも悪くない。
「俺等なら出来ますよカイトさん。4日で戻ってきましょう!」
ミルコもやる気十分だ。
「皆さん、睡眠不足になったら言って下さいよ!僕が自走して運転をカイトさんに代わって荷車で寝ててもらいますから。ね、カイトさん!」
「ああ、……よっしゃ。いくぞ!」
俺は自然と笑みが溢れるのだった。