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179 カブと電源


 ――ドゥルルルッ。


 俺はまた坂を下っていた。

 荷車にはもちろんあの未完成の蒸留装置を積んでいる。

 辺りはすでに夕焼け色だ。


 今から後2時間もすれば物が見えにくくなるぐらいには暗くなってしまうだろうが、あの社宅には俺が取り付けたLED電球がある。

 文明の利器って最高!



「カイトさん」

「ん?」

「さっき用意してたやつ……瞬間接着剤は分かるんですけど、もう一つの()()ってなんに使うんですか?僕の記憶だと料理に使うもんだと……」

「ふっ、まあ見てな」



 ――キキッ。


 到着、社宅の中ではガスパルが石の釜戸で肉を焼いていた。


 ――ジュワァァアアア……。


「うおおっ、いい匂いじゃねーか!夕飯かぁガスパル!?」


「おおっ、カイト。そうだよ!最高に旨そうだろ?給料で買った肉だぜ!」


 肉を焼く匂いと音でたまらなく腹が減った。

 横を見るとターニャが凄い顔をしていた。

 必死に我慢しているような……そんな顔だ。


 多分めっちゃ食いたいんだろうけど「この肉は金のないガスパルが自分の給料でやっと買った肉だから自分達が欲しがってはいけない」という所まで理解しているような気がするようなしないような。


「おじー!」


「は、はい」


 ターニャがなんか訴えかけるような叫びをあげた。


「きょうの晩は肉にしよー!お肉ー」

「そ、そうだな。豚肉……トンテキなんかいいかもな」

「ういーー!ぶたーぶたー」


 その場でクルクル回転し喜びを表現するターニャだった。



「あ、それより早く蒸留装置作らねーと!暗くなってしまう」


 俺は配管として使われる中空の木「ラッセン」の中から鉄パイプの2倍ぐらいの直径の木を選んだ。


「よし、じゃああの吹き抜けの精製所へ行くぞターニャ。ガスパル、ちょっと俺ら外行っとくからな」

「あ、ああ……なあカイト、それってガソリン作る装置なのか?」

「ああ、明日はお前とミルコに作り方教えるからよ、大量に作ってもらうぜ」

「おっしゃ!任せろ」



 ――という訳で俺とターニャは隣の精製所で鉄パイプの冷却部分を作り始めた。


「まず家から持ってきた木の板。これには鉄パイプと同じ径の穴が開けてあり、これを鉄パイプに通して……次に配管をパイプに通す……そしてこっからが面白い裏技だ!」


 ――ドゥルルルン。


「お、重曹ですか?」

「そうだ。コレがスゲェんだ!まず接着させたい部分にこの瞬間接着剤のシアノンを垂らしていく」


 ポタポタ……。


 ターニャもカブも真剣な表情で見守っている。


「よし、普通の使い方だとこれで終わりだけどこれだけじゃ氷水入れたらすぐに接着部分が剥がれてくる。そこで――コイツだ!重曹ーー!!」


「どら○えもんみたいですね!」


「演出だぞ。で、さっきシアノンを付けた部分にコイツをまぶしていくんだ!」


 パラパラパラパラ……。

 すると面白い事にシアノンに重曹をかけた部分が白く半透明になり、接着部分に固着するように固まった!!

 俺はまたさらに上からシアノンをかけて同じように重曹をまぶす。

 半透明の塊は一回り大きくなる。



「ふふ、この白い半透明なヤツな……これ、実はめちゃくちゃ固いんだ!それこそ金属みたいにな」


 俺は出来たその半透明の部分を指の爪でカンカンと叩くと、堅いプラスチックでも叩いたかのような音が返ってくる。


「へー……すごい!本当に塊になってますね!!」

「おおー、おじ、これ魔法!?」

「ふっ、これが化学技術ってやつだぜ!ターニャ。潰れたネジ穴もこれで復活させてドライバーで回せるようになるんだ」


「こんな知識どこで入手したんですかカイトさん?」

「いや、なんか日本にいる時動画で見ていつの間にか知ってた。まさかこんな形で活用できるとは思ってなかったけどな。ははははっ」



 という訳でヤカンから斜めに伸びている鉄パイプの冷却部分の()がすぐに出来上がった。

 次の蓋の部分も同様にしてすぐに完成した!もちろんちゃんと配管の上部に氷水を入れる用の穴を開けている。よっしゃ、コレで完璧だ!!



「完成したぜ!ここに来て初めて作ったやつより大分スマートで冷却効率も良いハズだ!はっはっはっはー」


「す、すごい。素直に尊敬しますカイトさん!これで僕のガソリン作りが倍速で出来ますね!」


「お、そうだ。ついでに最初に作った奴もこれと同じように改造しよう、あっちは無駄に氷水を使っちまうからな」


 ここでカブが俺も思っていたことを口にした。


「氷もここで作れれば良いんですけどねー」


 その言葉に俺の目がギラリと光った。


「そう!それなんだよ!実はウチに小型冷凍庫があったんだ、非常用のやつだけどな」

「え!?そうなんですか?じゃあ――」

「ああ。だが肝心の電力がない!発電機を買い忘れたんだ」

「あー、電気がないとどうにもなりませんよね」

「そうなんだよなー。AC100V電源なんて発電機以外じゃ家庭のコンセントしか……」


 ん!?



 俺はその時、一つ見落としていた。



「あれ?……これAC(交流)100V入力だけじゃなくてDC(直流)12/24V入力ってのもあるぞ!!」


「えっ……」


 カブは唐突な電源の話にポカーンとしている。

 しかし徐々にその意味を理解し始めた。


「DC12Vって……も、もしかして、電源……()ですか??」

「お前のバッテリーって12Vだよな?6Vじゃねーよな?」

「そ、そんな旧型じゃないです!」

「じゃあ決まりだ!……えーっと、最大45Wだから……カブ、お前のオルタネーター4Aの電流流せたっけ?」

「カイトさん、流石に僕を舐めすぎです。余裕ですよ!しかも冷蔵庫とかって最初だけ桁違いに電力を使うハズなので常時45Wも使わないと思いますよ!」


 カブのタブレットには今のカブの説明が動画で映されていた。芸が細かい!

 そしてカブは付け加えた。


「いやー、それにしてもなんかガソリンを作るための氷を作るためにガソリンを使って発電するって不思議な感じですね。家から持ってきた方が早いんじゃないですか?」


 俺は苦笑いで答える。

「それはあるかも知れんな。だが住み家に電源があるのと無いのでは安心感が違うだろ?」


 後はさらにポータブルバッテリーでも持ってくればかなり理想の家に近づくぞ!ふふふ。



「もー、おじもカブもいみわからーん!」


 ターニャがお怒りだ。


「よしよし、後で教えてやるぞターニャ。でも多分話しても分からんと思うが」


「そんなことない!はなしきけば分かる。おしえてっ!!」


 ターニャは珍しくムキになって怒っている。

 コイツは結構、知的好奇心の高い子供なのかも知れん。伸ばしてやらにゃ勿体無いか、よし。


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