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170 結婚すっか?


 やべっ!そんなもんイヴしかいねえ……!


「……い、いやあのな。その、……仕事上俺も女と話したりする事もあるわけで……別に他の奴に気持ちが浮ついてるとかそういう事は全く無くてだな……」


 俺がそう言うとセシルはにっこり笑って、


「ま、一旦中入ろうよ」


 と玄関を指指した。顔は笑ってはいるが、その目がジッと俺の目を射抜いている。


 うおおおお。やべえなー、やべえぞぉーなんで分かったんだ!?

 そもそも俺の方から女にアプローチしたことなんてないんだぞ!?

 全部なりゆきなんだー勘弁してくれー!!



「おかえりーセシ……!?」


 扉を開くと即玄関にターニャが駆けつけてきた。しかし、いつもと違った雰囲気を感じ取ったのかターニャはピタッと足を止めた。コイツはこういう勘が異様に鋭い……。


 ターニャはこの緊張感は何事かと俺とセシルの顔を何回か往復させている。


「ターニャ、セシルは疲れてるから俺達で飯作ろうな」

「う、うん……」


 ご機嫌取りの意味も含めて俺はターニャと台所のある部屋に入って飯の支度をした。


「よし、じゃあチャーハンを作ろう。この前セシルには食べてもらってないからな」

「チャーハン!?わかったー!!」


 あの時は作ったチャーハンのあまりの美味さにケイとターニャと俺で夢中になって全部平らげてしまったのだ。




 ――カンカンッ!


「ほいよっセシル。めっちゃ美味えぞ!」


 出来上がったチャーハンの皿からはフワッと湯気が立ち昇っている。


 セシルもそれを見て笑顔になった。


「わー、美味しそう。匂いもいい……!もらってもいいの?」


「どうぞどうぞ、出来立てが最高なんだ。きっと食ったら夢中になるぜ」


 俺がセシルに「どうぞ」と手を向け、セシルは「いただきます」と手を合わせた。



 俺はチャーハンを自分とターニャの分も皿に盛ってテーブルの上に置いた。

 びっくりしたのだがその時点でセシルのチャーハンは半分ぐらいになっていた。

 セシルにしてはめっちゃ早い!


「凄い……おいしい!」


 チラッと俺を見て一言。


「はははっ、良かったわ。やっぱり出来立てが一番うめえからな」


 ガツガツモグモグ……。


 一方でターニャは案の定リスように口いっぱいに頬張っていた。

 ゆっくり噛むんだぞ。



 ――ガチャッ。


 そうやって皆チャーハンを食い終わって「ごちそうさま」の後、もちろん俺はセシルと()をしなければならない。



「ターニャ、ちょっとこれから俺とセシルはお話があるから……先に向こうの部屋へ行っといてくれな」


 ターニャは俺の顔をじっと見て、「このおじ、いつもと何か違う……」とでも思ったのだろうか?


「わかったー。()()()()()()()()!」


 俺は麦茶を吹き出した!


「おいセシル!お前だろこんなん教えたの!?」

「ええ!?やー、教えてないよ!」


 どっから仕入れてきたんだこんな言葉……。意味わかってんのか?


「ターニャねるねー、おやすみなさい!」

「お、おやすみターニャ……」

「おやすみー」


 パタン……。



 という訳でこの部屋には俺とセシルの二人だけが残された。


「……」


「……」


 しばらく気まずい沈黙が続いたが、やがて俺が口を開く。



「なあ、怒ってるか?セシル……」


 セシルはうつむいたまま答える。


「怒ってない……と言えば嘘になる、かな……」


 俺は身を乗り出して必死で言い訳した。


「セシル!言っとくけど、俺はお前を裏切るつまりは全くないし、これからもそのつもりだ」


「多分さ……」


 うん?


「多分カイトは自分からそういう事はしないと思う。匂いで分かったけど、あの娘(イヴ)でしょ?どうせ同情を引くような事を言って強引に迫ったんじゃない?」


 見事に見抜かれている……。

 こういう冷静な所とか、やっぱり俺はセシルが好きだなーと思う。


「だからカイトは悪くない、でも――」


 自分の身を腕で抱くようなポーズを取って、セシルは続けた。


「カイトが誰かとそういう事してるのを想像すると私、……狂いそうになる」


 そんなセシルを見て俺は、大きめの声で宣言した。



「すまんセシル。俺はもうバダガリ農園には行かねえ!」



 うつむいていたセシルが顔を上げた。


「……大丈夫なの?仕事は?」


「定期便の仕事はすでにミルコもガスパルも一人で行けるようになってる。今日ガスパルについて行ったのも仕事を教えるためだから、今後は俺が行く必要はねーよ」


「――そう」


 セシルは安堵したのか、フッと力を抜いて椅子の背にもたれた。



 この際だ、言っとこう。



「それとよ、セシル……。あの、結婚すっか?正式に」



 セシルはしばらく口を開けて固まっていた。


「……」


「……」


 それから少し笑ってセシルは、


「うん」


 と静かに返した。


 お互いに見つめあったまま近寄る……そして――。



 ――パパーッ!!



「カイトさん、セシルさん!ご結婚おめでとうございます!!」



 いい雰囲気をいきなりぶち壊したのはもちろんあのカブだった。アイツしっかり会話を盗み聞きしてやがった……!


 取り敢えず俺達は玄関に向かう。

 カブはニコニコしながら俺達を祝福していた。


「お二人の幸せを願ってます!」


「仲人かお前?」


「ふふ、ありがとうカブ」



 ――トタタタタッ!


 今度はまた別人の足音が近づいてきた。もちろん騒ぎを聞きつけたターニャだった。


「おー!?なにー?おじ、セシル、どしたのー??」


「お、ターニャちょっと俺、セシルと結婚するわ」


「おお……じゃあ、ふうふになる?」


「だな」


「めでたい!!」


「ありがとうターニャ」


 気付くと皆笑顔になっていた。



 ……あ、そういや結婚式とかどうすんだ?


「なあセシル、こっちの世界じゃ結婚式とかはやるのか?」


 そう聞くと、斜め上を見上げながらセシルは気まずそうにつぶやいた。


「いやー、私そういう行事って苦手なんだけどー……」


「俺も苦手だわ、苦手っつうか面倒くさい」


「でも私、一応公人だから多分やらなきゃダメな気がする……ヤマッハ領主のカノンにもにらまれそうで気が重いね……」


「誰だよ敵か、お前の?まあ心配すんなよ。俺が何とかしてやる」


「ふふ、ありがと。でも敵ってほどじゃないから心配しないで。日程決まったら教えるから」


「おう!俺はいつでも構わんぜ」



 その後、俺とセシルは玄関でカブとターニャの見ている前で軽くキスをした。


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