169 修羅場!?
俺はハッとした。
カターナで買ったのは剣と鉄パイプだ。
「ほ、本当だ!鉄パイプ……売ってたじゃねーか!?」
しかしここでガスパルが言った。
「でもありゃあ武器屋で武器として売られてたもんだからサイズもあの細い奴しかねーし値段も高けーぞ?5〜6000ゲイルはしたような……」
鉄パイプを買った時の事を思い出して俺もハッとする。
「おう、確か……6000ゲイルだった。覚えてるわ」
水インフラを完成させるだけで破産するな。
俺は軽く絶望した。
ここで俯いて考えていたミルコが希望の言葉を放つ。
「カイトさん。同居してるイングリッドが昔言ってたんですが、アイツの屋敷には普通に水を通す管みたいなものが完備されてたって聞いてます。……確か『ラッセン』とかいう中空の木があるみたいで」
「そ、そんな素材があるのか!ミルコ、ちょっと話聞いといてくんね?」
「了解です!」
ミルコは快く笑顔で引き受けてくれた。
それからしばらく配管の事について考えていると、カブが不思議そうな顔で聞いてきた。
「あの、そう言えばカイトさん、今ってウチの『スーパーカブ』の貯蓄っていくらなんですか?」
「21万3000ゲイルぐらいだ。今日の定期便で3000ゲイルぐらいの収入はあったけど6日に1回じゃ月1万5000ゲイル程度……やっぱり貿易輸送でガッツリ稼がねーと経営は成り立たんな」
「えっ、月に1万5000ゲイルも稼げりゃ余裕だろ?俺なんか今まで生活費ゼロだぞ?」
「いや、あなたは普通じゃないから参考にならないでしょガスパルさん」
「う、んー……まぁな」
ミルコに突っ込まれ頭を掻くガスパル。
「逆に無職無収入でサバイバル生活出来てたのはスゲーけどな」
俺はちょっとからかうように笑った。
結局その日は水インフラの材料について各自で考えておく――という事で仕事仲間二人と別れる事になった。
――ドゥルルルッ、パルルルル……。ガタンガタン。
「いやー、カイトさん。それにしても会社経営ってやる事無限にありますねー」
自宅に戻る途中でカブが自走しながら話しかけてきた。
「まあな、でも面白れーぞ」
「おじ、ターニャもてつだうよー!けいえい!」
「ははっ、そうだな。お前は芋を育ててくれい」
「うん!」
――キキッ。
それから15分程走って自宅へ到着した。
俺はここで前からちょっと気になっていた事をカブに聞いた。
「なあカブ」
「はい!?」
「そういえばだけど……なんでお前この場所に家を転移させたんだ?何か理由があるのか?それとも適当に選んだのか?」
俺のその質問にカブは笑っているような困っているような不思議な顔を浮かべた。
「いやー、まあその……上手く言えないんですけどー。僕の精霊としての勘みたいなものが働いた場所がここだったんです。なんていうか、神聖なエネルギーみたいなものが集まってる場所っていうかー、はは……」
「神聖なエネルギー?なんじゃそら?」
「すいません、僕も上手く説明出来ません。でも、自宅の横のあの木ってあるじゃないですか?」
「異世界ドゥカテーへ繋がっているあの木か」
「はい、あれっていずれは世界樹になると思うんですけど……あれが育っているって事自体が、そのエネルギーが集まる場所だという証明になってるんですよ!」
「ほー……」
俺はその木を見上げて少し納得がいった。
あの適当な店でかったバラエティーパックみたいな野菜の種からこんなデカい木が猛スピードで生えた理由を考えると、カブの言う事を信じるしかない気がした。
そしてこうも思った。
「……ちょっと待てよ、じゃあこの辺に畑を作って農作物を育てれば、その……なんか凄いモンが出来る可能性があるって事か??」
「……まあ、可能性はありますねー!」
「よし!ターニャ。芋の芽を見に行くぞ!」
「ういーー!」
俺とターニャは急足で芋の芽出しをしている皿を見に行った。
……案の定特に変わってない。気持ちほんの少し芽が大きくなったかな?程度だ。
「むー……」
ターニャはちょっと不満げな顔をしていた。俺はターニャの頭にポンと手を置いた。
「そんな急には育たねーぞ。気長に待っとけ」
「……わかったー。あ、おじ!バダガリからもらった芋食べよー?」
お、そういやそうだな。
「よし、蒸して食うか。フライパンの用意だターニャ!」
「ういーー!」
バンザイしながらターニャは台所へと飛んでいった。
その晩、俺はいつも通り会社本部にセシルを迎えにいった。
ターニャは家に置いてきた。最初はゴネられたが、
「いつもと同じようにセシルを迎えに行くだけだぞ。面白い事はねーぞ?」
と伝えると、
「……うー、わかった。ターニャじたくけいびする!」
と言ってくれた。俺は安心した、そろそろ一人の留守番にも慣れてくれねーとな。
――ドゥルルルン!ガタガタッ。
やや薄暗い山道を抜け、俺は広い道に出て2〜3分で会社本部へと到着した。
「カイト!」
セシルの声だ。
「おうっ、帰るぞ」
「いつもありがとうカイト。この前の貿易の話で続報があるの……」
「あー、家で話そう。とりあえず乗ってくれ」
「うん」
俺はチラッとガスパルがいるはずの社宅を覗いたらしっかり明かりが点いていた。
今日取り付けた暖色系LEDランプのそれだ!しっかり活用してるな。
中を覗くとしっかりガスパルがいて、薪か何かを燃やしたような匂いが残っていた。
「……お、おっす!会社の給料で10年ぶりに肉買ったぜぇー!う、うめえー!」
「おう、ヤマッハで買ってきたのか!?良かったじゃねーかガスパル」
ガスパルは涙を流しながら肉を頬張っている。
「なんか……夢みたいだぜ。俺、これからも頑張るからよ!」
「おう、こっちもしっかり給料出すから頑張ってくれよー」
……と言った感じで本部を後にして、俺は自宅に向かってカブを走らせ、2〜30分で到着した。
俺はカブを停め、自宅の前に立って玄関の引き扉を開けようとした。
ここで俺は久々に戦慄するのだった。
長身のセシルは俺のすぐ後ろに立っていた。その距離は10センチもない。
ん?なんか近くね……?
そう思っていると、セシルの口から出た言葉に俺はドキッとした。
「カイト……、誰かと会ったりした?」
俺は平静を装って返す。
「誰って?」
「女」
そのセシルの目は冷たかった。