167 諸侯会談(ジクサール)
ここはスズッキーニの王都ハヤブサール。
その町の外れにある王城の一室に、この私ジクサールは入っていった。
――ガチャッ、ザワザワ。
緊急の招集の為、その場には私も含めてスズッキーニ王国の各領地の代表達4人しかいなかった。……まあそれで充分だ。
そして私は会議室に入るなり議長席についた。本題に入ろう。
「さて、皆さん。今回お集まり頂きましたのは、隣国レブルとの交易品の分配について話し合う為です」
全員に対して大きめの声で私は議題を述べた。
すると、この場で唯一の女性であるカノンが上品な声で尋ねてきた。
「レブルとの交易品……、それってもしかして例の万能薬の事でしょうか。ジクサール公?」
彼女はヤマッハ周辺の領主でもある。
「ええ。万能薬と呼ばれレブルで開発途中だったアニシリンが完成し、すでにレブル国内では販売されているそうです。効果は本物のようで、今まで治せなかった患者を簡単に回復させたとか……スズッキーニとしても早急に欲しい薬ですね」
「そんな良い薬どこの国も欲しがるやろ?……それで、やっぱりレブルの薬品開発の奴ら、製造方法は秘密にしとるんかいな?」
西区のゲム爺が髭を指で挟みながら聞いてくる。
「はい、向こう2年は薬の販売のみ行うとの事です」
「かーっ!せっこいのォ。そういう情報こそ皆と共有するべきやろうに……。諜報員でも送り込んで盗んじゃろうか!?」
私はイラッとしつつも冷静に答えた。
「ダメですよゲムール殿。薬に限らずですが、新製品が完成してから2年は開発元に特許権がある。薬などは確かに情報共有が大事ではありますが……勝手な諜報活動などは絶対におやめ下さい。戦争の火種にもなります」
老害と言っても過言ではないこの爺さんは未だに発想が一昔前の戦時中のままだ。
せっかく手にした平和を何だと思っているのだ、まったく……。
「あのさー。ちょっと聞きたいんだけど」
ここで東区を治めるディオが手を上げた。
「どうせ出来たばっかりの薬なんて値段激高なんでしょ?」
「まあそうだろうなディオ」
私は即答した。ディオは若く比較的話がしやすくて気が楽だ。
「こっちのロール紙とペン……それと、新しく加わった……あれ?何だっけ??何かモノを入れて運ぶやつ……」
「段ボールか」
「あ、そうそれ!段ボール!!こちらからはその3つを輸出するわけじゃん?」
「うん」
「んで、さっき言ったけど向こうの薬って高いじゃん?」
「うん」
「じゃあその値段に釣り合うだけの物量をこっちも輸出しなきゃダメじゃん?持っていく量スッゲー多くならね?」
「そらお前当然やないか!レブルっちゅーたらゼファールの倍は距離があるやろ。一回の交易で出来るだけ大量に物々交換せなもったいないやろが!頭使わんかい」
ゲム爺が怒ったようにディオに突っかかった。そんなにムキにならなくても……と思ったが、言ってる内容は正しい気もする。
「フン!」
ん?
誰かが悪態をついたと思ったらカノンだった。おやおや、ちょっとムスッとした顔つきになっているぞ。さっきの余裕のある態度はどこへ行ったのだ?
ここでゲム爺が面白そうにからかいの言葉を投げる。
「ぶははっ、なんじゃカノン?また誰かさんに嫉妬しとんのかぁ!?」
カノンは歯を食いしばったような表情で爺に言い返す。
「もー、ほっといてよ!どーせまた今回の輸送も『スーパーカブ』とかいうセシル推薦の配送業者が運ぶんでしょ!?それで上手く行ったらまたアイツの株が上がるわけじゃない!?くぅー、腹立つわーもうっ!!」
軽く癇癪を起こすカノンの言葉を聞いて私は思い出す。
以前行われたゼファールとの貿易で、ヤマッハギルドのセシルが珍しく自信たっぷりに業者を推薦してきたから、皆不思議がっていたのだが……。
あのときはここにいる全員がゼファールまで往復で荷物を運ぶなんて出来るわけがない……と考えていた。
しかし――。
「カカカカッ。なんじゃいお前、ワシは覚えとるぞぉー!お前はあん時ニコニコしながらこう言っとったよなぁ!」
『ゼファールへの貿易輸送は失敗!そしてセシルは責任を問われてギルドマスターを解雇される!そうなるとヤマッハ領主である私がギルマスも併任する事になるハズよ!ほーほほほほっ!!』
「残念やったのぉー!!おぉ!?」
「ちっ……ウザッ」
カノンは悪態を付いて片手で頭を抱えている。まったくなんというか、腹の黒い女だ。
しかし政には向いているかもしれない……。
「あ、俺ちょっと聞いたことあるわー『スーパーカブ』とかいう配送会社があるって!代表が確か、ヤマムラカイト……っておっさんだったっけな」
とディオ。
ここで私もこのスーパーカブという会社について不思議に思っていた事を言語化してみた。
「しかし、キャットやサガーのような大手でもない零細配送会社が、あれだけの重量物を乗せてあれほどの距離を運べるなんて……にわかには信じがたいですね」
ゲム爺は腕を組みながら難しい顔をした。
「うーん、それはワシも謎やった。よっぽどいい馬かなんか持っとるんちゃうか?」
「馬だってヤマッハからニンジャーまで10日はかかるでしょ?そのスーパーカブはセシルからの報告によれば3日でニンジャーに着いたらしいわよ」
「今の車ってそんなこと出来んの!?すっげーなあ」
「いや無理無理。お前考えてみい。ゼファールに行くだけでもどんだけ燃料積まなあかんか……。それに山を通るから車自体も故障しやすいしおまけにゼファールのあの辺は山賊も出る!じゃからワシらは絶対無理やって予想しとったんや!ところが――」
完璧に輸送できていた!!
「……」
私達は皆しばらく沈黙した。
辻褄の合う答えを予想することさえできなかった。
しかしここで私は胸騒ぎのような、とある予感のような物を感じてしまっていた。
――このスーパーカブという謎の会社には、とてつもなく『高度な輸送手段』が存在するのではないか?それこそスズッキーニなどとはまるで次元の違ったようなものが――そんな気がしてならない。
妄想といっても過言ではない、だがそんな予感に私の好奇心は強く刺激されるのだった。
まあ確かめに行くような暇はないわけだが……。
初めての視点変更ですかね^^;