166 お金の話
「王室の貿易品だと……!?」
俺は気になってフランクの所まで駆け寄った。
「おっすフランク。ちょっと今の事聞かせてくれよ」
「え!?カ、カイトさん……いたんですか?」
「まあな」
フランクは明るい顔つきで俺に詳細を話した。
「カイトさんのアイディアを元に僕が開発した段ボール製作機『ダンボーラー』がですね、王室の目に留まって本格的に大量生産されはじめましてね」
「うお。すげえな!!」
俺はまるで自分の事のようにワクワクした。
「マジか……、カイトそんな発明品のアイディアまで出したのかよ!?」
俺は誇らしげな顔でガスパルに答えた。
「はっはっは。まあな。紙自体は既にヤマッハとかに出回ってたから、ちょっと細工したらかなり頑丈な箱になるんじゃねえかって」
……本当は俺のアイディアじゃないとは言えん。
何気なく助言しただけだったがまさか他国にも輸送される製品になっちまうとは……。
「今度隣国のゼファールとレブルにも輸送されるそうなんです!いやー、最高に嬉しいですねー。まあ課題もあるんですが……」
「課題?」
「はい、底の強度がまだ足りないんですよ。野菜とかならまだ何とかなるんですが、重たい金属部品とかになるとご覧の通りです」
フランクが鉄の塊を段ボールに入れて持ち上げると――。
ボソッ……!!
一気に底が抜けて中の金属が地面に落ちた。あーなるほど……。
ここで俺は反射的に答えてしまいそうになった。
「そんなもん底をガムテープで……あ、いや。なんでもない」
フランクは何か言いかけた俺にグワッと駆け寄ってくる!
「カイトさん!何かいいアイディアがあるんですね!?ちょっと……ぜひ聞かせて下さい!」
「いや……」
俺は困った。
この世界はやっと普通紙が一般に流通し始めた程度なんだ。紙をギザギザにして糊で貼り合わせるだけの段ボールと違ってガムテープは恐らく製作難易度が高い。
俺がなんと言おうか迷っていると、フランクが少し遠慮がちに聞いてきた。
「というかカイトさん。あなたもしかして王室から声が掛かった事ありませんか?」
「いや、ないなー」
むしろ積極的に回避しているぞ。カブやセローの事とか聞かれたら困るもん。
……しかしここでガスパルがそれに関して何とも自然に話してしまう。
「へっ。ウチのスーパーカブは国からの貿易輸送を任されてるんだ。そのうち絶対王室からも声かかるぜ!」
うおおおおおい!ガスパルお前っ、なんちゅう事言うねん!?あ、そういえばコイツにはそういう説明したことなかったなー……。
「ええええええ!?」
フランクは漫画のキャラように大げさに驚いていた。
「カ、カイトさん。それとんでもなく凄いことですよ!?普通に仕事してるだけだったら国から依頼なんて絶対に来ません!よっぽど何か目立った――」
「フランク!ちょっと俺達急ぐからまた今度話そうぜ?な!」
フランクはシュンとして残念そうに、「そ、そうですか……」と答え、それ以上は聞いてこなかった。
「またな」
――そうしてフランクと別れ、キルケーからちょっと離れた所で俺達は一旦集まった。
「ちょっとガスパルに言っときたいことがあるんだが……その前に給料だ」
「うおおおっ!そうそう待ってたぜえ!」
俺はフランクから貰った送料をガスパルから受け取り、3200ゲイルを分配する。その様子をジッと見つめていた奴がいた……なんとターニャだ!
さして気にせず俺はガスパルに給料を渡す。
「はいよ、4割の1280ゲイルな」
「あざーっす!!やったぜ。今日だけで1880ゲイルも稼げちまった!!ひゃっっほーう!!」
そこまで嬉しいのか?日本円にして7520円ぐらいだろ。いやまあ嬉しいんだろうけど。
「これで店で肉を買って食えるぜー!!いちいち山で豚や猪を捕まえずに済むぞぉー!!」
あ、そういうレベルの話か……そら嬉しいわな。
俺が納得していると、ターニャが意外な言葉を放った。
「おじ、4割ってなにー??」
ん?
なんかターニャがいつになく真剣だ。どうした?
「なんだターニャ。お金の事に興味あるのか?」
「ある!お金で芋買える!」
「た、たしかに……」
俺はなんか衝撃をうけた。
「へー、ターニャちゃん意外としっかりしてますね!」
ミルコも驚いている。
「じゃあちょっと軽くお金の話してみるか、ターニャ。これは1000ゲイル札だ」
「うん」
ターニャは目を輝かせてお札を見ている。俺は続けた。
「ターニャがこの1000ゲイル札を食材屋に持っていって100ゲイルの芋を買うとするだろ……残りは何ゲイルになる?」
「のこり900ゲイル」
「ええ……!?」
俺はビックリした。そんな計算とか教えたことないぞ??
「じゃ、じゃあちょっとさっきより難しい事聞くぞ」
「うん!」
「500ゲイル持っていったら200ゲイルの芋は何個買えて何ゲイル余る?」
ターニャはちょっと考えてすぐ答えた。
「……えーっと、芋が2こ買えてー……。それで100ゲイルあまるねー!」
その場にいた俺はもとより、ミルコやガスパル、そしてカブも驚きを隠せなかった。
ガスパルは言った。
「す、すげえ……。俺より計算早えぞターニャ!!」
「いやお前それは大人としてマズイだろガスパル」
「でも凄いですねターニャちゃん。その歳でちゃんと計算できるなんて」
あ!も、もしかして……。
「ターニャそれ。セシルに教わったのか?」
「うん!セシル、いっつもターニャがねる前にえほんでおしえてくれたー」
いやそれ絵本じゃねーと思う。
「まあでもお金って大事だからな。偉いぞターニャ」
「うふふーっ」
ターニャは得意気ににっこり笑った。
――ドゥルルルッ。
「あ、ちなみにですけど皆さん、僕が何ゲイルか分かりますかー!?」
おーっと、ここでカブがニヤニヤしながら聞いてきたぞ……!
お前は乗り出し価格29万ぐらいだったから大体7万ゲイルぐらいだろ。
ちょっと皆の回答を待ってみよう、面白いし。
「いやーカブ君相当高性能だし、喋れるし、自走できるし……100万ゲイルはするんじゃないかなー」
いや、ミルコ。普通のカブは喋れないし自走なんて出来ないんだ!目の前にいるそのカブが特殊なんだ。
「俺、あんま物の売り買いとかしたことねーからよく分かんねーけど……馬と同じぐらいなんじゃねーか?」
「ズッコーー!僕は馬じゃないですー!!」
正解を言おう。
「スーパーカブの新車は約7万ゲイルだ。俺の国の乗り出し価格がそれぐらいだったな」
皆は驚いた。
「安っ!?」