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165 タンデムと段ボールの出世


「そうですね、考えておきます」


 イヴは自分の仕立てた服を褒められて純粋に嬉しそうにしていた。

 いやでも普通に凄い。何よりエロい……。

 俺は違うけどそのホットパンツみたいなのは脚フェチにはたまらないハズだ。

 うん!誰かに必ず需要はあるぞ、うん必ず。俺は違うけど!



 ……。



 それから俺達が一旦畑に戻ると、すでにバダガリ達も物置小屋に戻っていた。


「おうカイトさん、……ん?イヴもミルコもどこ行ってたんだ?俺は自慢の畑を二人に紹介してたんだぜ!ふははははっ」


 バダガリが豪快に笑う。


「はぁーっ……」


 イヴがため息をついた。気持ちは分からんでもない。



 俺は皆に事の経緯を説明しておく。



「いやー、実はミルコがセローで崖から落ちてたんだ」



 !?



 みんな視線がミルコに集中する。


「……そ、そうなんです。カイトさん達に協力して貰ってセローと一緒に助けて貰ってました!お騒がせしてすいませんでした」


 ミルコはそう言って俺に頭を下げた。


「ええ……!?」


 バダガリ、ガスパル、そしてターニャも口をパックリと開けている。


 詳細を話すと、まずガスパルがミルコの肩を叩いた。


「しっかしお前何ともなくて良かったな」


 ガスパルは驚きと笑いの混ざったような顔だった。


「ミルコ、がんじょう!かたい!」


「おいおいミルコは物じゃねーぞ!?」


「あははははっ!!」


 俺は思わずターニャに突っ込み、皆も同じように笑っていた。




「じゃ、そろそろ出発すっか」


 野菜を荷車に積み込んで準備は整った。引っ張るのはもちろんカブだ。

 ミルコにセローで牽引して貰ってもいいんだが、今日はガスパルに仕事を覚えて貰うのがメインだからな。



「あ、そうそう。バダガリよ」


 俺はちょっと離れた所に立ってバダガリを手招きした。


「ん、どしたぃカイトさん?」



「……イヴの事だけどよ、もしかしたらアイツ服作りの才能があるかも知れねーぞ。お前もなんか仕立てて貰えよ。今着てる道着みたいなやつ、結構傷んでるだろ?」


「フハハハハ!カイトさんよ。男は中身だ!筋肉だ!外面を着飾るなんて邪道だぜ。今のこのボロ着だって俺の鋼の肉体を見せつける為にあえてボロいままにしてるんだからな!!」


 ダメだコイツ――。


「ま、まあその辺はお前の好きにしろ、――ただ、イヴの事よろしく頼んだぞ。アイツ、ちょっと寂しがり屋な所あるから」


 と、娘を嫁に出す父親のような言葉を投げた。


「……」


 バダガリはしばらくポカンとした表情を浮かべていたが、少し離れた所に立っていたイヴと目を合わせ――。ニカッと笑い、イヴに向かって走っていく。


「イヴー!!」


「きゃっ!」


 バダガリはイヴを抱き抱えて俺達を振り向き、

「またな!」

 とだけ言い残してどこかえ消えてしまった。


 アイツなりに何かを感じ取ってくれたのだろうか?



「豪快な奴だぜ……」


 ガスパルはちょっと呆れた顔を見せて言った。


「あいつはずっとあんな感じだ」



「おじ!」

「ん?」


 ターニャの方を向くと、嬉しそうに手に何かを持っている。


「芋!バダガリにもらったよー」


「ちゃんとお礼言ったか?」

「うん」

「偉いぞ!」

「かえったらほかの芋と()くらべよー。ほかの芋とちょっと甘さがちがうって」

「よし、味比べだ……今度は煮て食うか?」

「ういーー!にる!」


 そう言うとターニャは荷車に駆け出していった。速い……!


 荷車には野菜の段ボールが山盛りで、隅っこにターニャがちょこんと乗っている。


「おい、落ちんなよターニャ!?」

「だいじょぶ!」


 ガスパルに心配されるターニャだったが胸に拳を当てて自信満々に答える。



 そういやコイツ、子供の割に無闇にはしゃぎ回ったりしねえな……。まあ俺としてはやりやすいけども。


 このときは俺はターニャはそういう子供なんだなと思っていた……。



「よいしょっと、失礼するぜ」


 俺は流石にカブの荷車に乗るスペースはないので、セローのタンデムシートに乗る。運転手はもちろんこのミルコだ。


「い、いやーなんか二人乗りなんて緊張するっすわ、カイトさん」


「崖から落ちるのはナシな!」


「だ、大丈夫っす!」



 俺は大声で出発の合図をした。


「よし、じゃあキルケー行くぞー!」


「はい!」

「おう!」

「はい!」

「ういーー!」



 ――ドゥルル……。パルルッ……。ガラガラガラッ。



 ――ジャリジャリ、パルッ……パルルッ。ジャリッッ!ガタッ、パルル……。


 しばらく走っていて気付いた事がある……。


「な、なんか怖えぞー!?」

「俺も怖いっす!そのっ、……バランスが取りずらくて……」


 オフ車に二人乗りする事自体は別に何ともないが、低速で山道を走るとなると話は違う。


 時速10〜15キロぐらいで走っているようだがとにかくふらつく!


 俺はカブに乗っているガスパルに声を掛けた。


「ガスパル!もう少しスピード出せるかー!?」


 返ってきた答えは意外なものだった。


「おお。なんだ?いいのかよカイト!?俺、そっちに合わせて速度落としてたんだけどよ」


 あっらー……。今度はミルコが声を上げた。


「マジっすかガスパルさん!?俺もカブ君がスピード出せないと思ってゆっくり走ってました!」


 そしてカブが力強く言い放った。


「僕はまだ余力ありますよ!2速で25キロぐらいまで引っ張れますよー!!」


「なんだ。お互い遠慮してたのか!?この山道は勾配も緩いし真っ直ぐ走るだけならもっと飛ばしてもらっていいぞー!!」


 ガスパルとミルコにそう伝えると、二人共テンションが上がったらしく


「おおうっ、分かったぜカイト!」

「速度上げますよーカイトさん!!」

「よっしゃ行けー!」



 ――ドゥルルル!パルルルッ!ガラガラガラッ!!ジャジャッ!!


「おおー。こっちの方がはるかに安定度高いな!やっぱある程度速度出さなきゃダメだわ」

「ははっ、そっすよねー。二人乗りなら尚更っす!」

「こっちも問題ねーぜ!」

「ターニャもへいき!」


「よーし、このままのペースでキルケーまで巡航だー」




 ――「うっす。スーパーカブでっす!野菜、お待ちどうさんです……」


 しはらくしてキルケーに到着。

 ガスパルがフランクに再び野菜の入った段ボールを卸している。


「なんかガスパルの奴、行きの時よりぎこちなさが少ない気がしねーか?」

「ホントだ……やっぱ慣れって偉大っすね!」


「じゃ、これ。報酬の3200ゲイルです。あ、ガスパルさん。ちょっとカイトさんに伝えといて欲しい事があるんです!」


「ん?……なん……です?」


 報酬を渡すとついでに笑顔で何かを伝えようとするフランク。


「元々カイトさんのアイディアで作ったこの()()()()なんですがね、このたび王室でスズッキーニの貿易品の一つとして公認されました!いやー、これ凄い事ですよ!!」


「え?」


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