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164 セローで事故る


 その後も俺はイヴを慰めるような事を色々言ったりしていた。


「あ、そうだ。一つ良いのがある」

「え?」


「なんか趣味を持っとくと良いんだ。自分は()()が得意だってモンがあると結構生活が楽しくなるぞ!」


「趣味ですかぁ……。カイトさんはあるんですか?」

「俺は……まあ今の仕事とか、カブに乗ってるだけでも割と楽しいしな」


 これは間違いなく俺の本音だ。イヴはクスッと笑った。


「ふふっ、カブが羨ましい」




 ――ドゥルルルン!


「カイトさーん!」


 おっと、そのカブが帰ってきたようだ。


「大変です!ミルコさんが崖みたいな所から落ちました!セローが引き上げられないんで来て下さい!!」


 俺はその知らせに顔を一気に引き締めた。


「ま、まじか!?ミルコは無事か!?」

「はい!ただセローの引き上げが困難です!!」

「よし行くぞ!」


「あ、あのっ、私も行っていいですか?」


 俺がイヴを振り返ったとき、その目は真剣だった。


「おう、来い!引き上げるときの助けになるかも知れん」


 バダガリ達はどっか遠くに行っちまってるしな。


「ちょっと崖っぽい所の木に引っかかってるので、長めの縄みたいなのが欲しいです!」

「あ、それならここに!」


 イヴが縄を持ってきてくれた。荷車に革袋を固定する用のやつだ。サンキュー!



 ……というわけで、イヴにはカブのシートの後ろに乗ってもらい、俺はステップに立つというスタイルで現場へ向かった、



 ――ザザッ。


 そこはバダガリ農園からちょっと離れた場所で、山道から3メートル程崖下の木に引っ掛かるようにセローは倒れていた。

 ミルコがその横で必死に持ち上げようとしているが斜面がキツすぎて踏ん張りが効かないようだ。


「おーい無事かミルコ!?」


「あ、カイトさん、すいません!」


 必死にセローを起こそうとしながら謝るミルコだったがとにかく今は引き上げだ!


「この縄を投げるから2本のフロントフォークに結べ!あとエンジンは掛かるか?」

「はい、なんとか」


 エンジンは無事か……俺は少しだけ安心した。


「イヴお前はそのまま乗っててくれ」

「え、は、はい」


 俺は崖下のミルコに縄をほうると、縄のもう一端をカブのリアキャリアに結んだ。


「よし!カブ。俺が合図したら一速発進な!」

「了解です!」

「あ、あの……私本当に乗ってるだけで良いんですか!?」

「ああ。お前が乗ってないとカブのタイヤが空回りするかも知れんから」


 以前のターニャの時と同じだ、いくら細めのイヴでもターニャよりは重いだろう。


「わ、分かりました」


 よっ。


 俺は崖下に降りてミルコと対面した。


「無事なんだな?」

「はい、擦り傷だけです!」

「おっけ。縄は……うん、ちゃんと結べてるな」


「よし、まずセローの向きを変えよう。頭を崖の上に向けるぞ。カブ、ゆっくり前進してくれ」


「はい!」



 ――ドゥルルー……ルルー……。ガサッ、ガサガサッ!


 カブが動き出すと、セローは地面に横になったまま180度回転した。よし!


 そのままカブが引っ張り、俺とミルコが横からセローを持ち上げる。

 足場が不安定で力が入りにくいが二人ならいけるだろ?


 ガザッ、フワッ……!


 タイヤを軸に車体が持ち上がった、よしオッケー。


 このままキーを回して、ギアをN(ニュートラル)に入れ、エンジンスタート……。



 ――ギャル……ギャルル……。パルルッ、パルルルン!!



「よっしゃ、かかった!」


「カイトさん、俺押します……いや、上に登って縄を()()ます!」


 おっ、正解だミルコ。

 この斜面で下から押すより上から引き上げる方が絶対力が出せる。


「そうしてくれ!」



 ……。


 ミルコが崖上に登り、全員がセローを引き上げている。


 一方俺は左足を斜面に付かせたまま、右足でギアを1速に入れ、そのまま右足を伸ばしシートをまたいだ。

 車体に半分乗っているような状態だ。


 そこから半クラでアクセルを煽り、ゆっくりとクラッチを離していく……。



 ――パルルルルーーッ。


 グッ、……グググッ……。



 おっ、動いた!!


 少しづつ……少しづつだが前進していくセロー。


 よしっ!!


「いいぞー。このままこのペースでゆっくり引っ張ってくれ!!」


「はい!」



 ジャリッ、……ザザッ。


 時折タイヤは空回りするが、グリップしている時間の方が圧倒的に長い。これなら行ける!


 ……。


 少しずつ登っていくと必死で綱引きをしているミルコの顔が見えてきた。


 そしてついに――。



 ――パルルルッ、ザザザーッ!



「ヒューッ」


 セローが無事に山道に復帰した!!



 俺は自然とミルコと目を合わせて笑顔がこぼれた。

 ここでミルコからちょっと意外な言葉が出る。



「よかったー。これでまたセローに乗れますよ!」



 え、……なんか事故った割にはやたらケロッとしてやがるなミルコの奴。


「お前……ここから落ちたんだろ?本当に何ともないのか?」


「ホントですよー!ミルコさん、崖から落ちた時、あ……死んだ。と思いましたよ僕!?」


 いや、縁起でもねえなカブよ……。


「い、いやあちょっと夢中になっちゃって……」


 そうはにかむミルコの顔には崖から落ちた事に対する恐怖よりも、またセローに乗りたいという前向きな気持ちが優っているように見えた。ふっ、なるほどな。


 俺はミルコの肩をパンと叩く。


「うん、やっぱよ、バイク乗りはそれぐらい狂ってなきゃな!特にオフ車乗りは一回も事故ってない方がまれだ」


 俺のよく分からない励ましにもミルコはより明るい笑顔になった。


 そして俺は少しトーンを落として付け加えた。


「ただ……お前の体は一つしかない。セローも、今んとここの一台だけだ。それは覚えといてくれ」


「……分かりました」


 ミルコの表情は真剣だった。俺の心配は伝わったようだな。



 その後、セローとミルコが無事だった安心感から、しばらく俺達はその場で座り込んでぼーっとしていた。


 ここでイヴが一言。


「はー……ミルコさんもカイトさんも、好きなものがあって羨ましいですね……」


「んー?お前は何かねーのか?料理とか……」


 イヴは指を顎に当ててこう言った。



「……強いていうなら()()、ぐらいですかね?この服は自分で作ったんですよ」



 え……!?


 俺もミルコもびっくりした。


「昔、盗賊団に飼われていた時……自分で服を作れと言われたので。それも色っぽくて扇情的なものを」


「いや、お前それ才能だぞ!?めちゃくちゃセンスあるぞ!」


 確かに異様に色っぽい服だと思っていたがそういうわけか……。

 ミルコもうなずいていた。


「本格的にやってみたらどうです?イヴさん」


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