158 究極のチャーハンを作るぞ!
「ふーっ」
「もう大丈夫か?ケイ」
あれから小一時間ほど経って日が傾き始めた頃、ようやくケイは起き上がった。
「うん、なんかよく寝てたわ~ふぁー……」
などとケイは呑気に答える。回復したようでなによりだ。
「そろそろ夕方だ。ケイは帰るか?」
「そだねーユルゲン師匠も待ってるし……そろそろ帰ろっかなー。ターニャまたね」
ケイはターニャの頭をナデナデしていた。
「ケイ、また来てね」
ターニャがケイに抱きついて名残惜しそうにしている。
最後にガスパルがケイに近寄り、こう言った。
「おいコラ。ちゃ、……ちゃんとあったかくして寝ろよケイ!」
「何それ、心配する気あんの!?」
「うっせー素直に感謝しとけ!!」
ギャーギャー。
……なんか面白いなこの二人。
カブの荷車にケイを乗せて俺とターニャはスーパーカブの本部(事務所・社宅・製油所)を出発した。
「俺はここに残るぜ。じゃあな皆!」
ガスパルは社宅に色々手を加えたいらしく、本部で俺達と別れた。
――ドゥルルルン、ガタガタン。
「なんかウチの会社『スーパーカブ』も結構大きくなってきましたねーカイトさん」
カブはちょっと楽しそうに話している。
「そうだなー。バダガリ農園とキルケーの定期便、軽油の販売、月一での貿易輸送、最近委託された新聞配達。他にもケイんとこのドゥカテーで色々やったりするだろうし……ま、色々あって飽きねえがな。はっはっは」
正直言ってこの現状を俺は楽しめていた。
「こんどはレブル行ってプギャ芋買ってこよう。おじ!」
「プギャ芋……って何?ターニャ」
あ、ケイは寝てたよな。
「そういうヤバい芋があるんだ。ケイやゴブリン達に渡した奴とはまた違ってな、食べると最高にハイになれるし病気も治せるんだ」
「へー……すっご。私も食べたいなー」
「いや、ケイさん。あれは無闇に欲しがらない方がいいですよ!僕はドーピングみたいなのは断固反対です!!」
「何ビビってんだよカブ!?」
「いやっ、カイトさん……だってあれは……!」
過去にヘドライト村から帰るとき、プギャ芋でハイになった俺がカブで荒々しい運転をしたのがよっぽど嫌だったようだ。
「んーそうだなー。お前でいう所の高級オイル……いや違うか。……あ、ニトロだ!ニトロメタンをガソリンに混ぜるような感じだと思うぞ!」
その瞬間、強張っていたカブの顔がほころんだ。
「あ!ニトロですかー!?ネットで調べただけですがドラッグレースとかで使われるみたいですねー。僕、ちょっと興味あります!」
「お前さっきと言ってる事違うじゃねーか!?」
「い、いやー……へへ」
「ってか入れたらエンジン痛めるんじゃねーか?多分、知らんけど」
もちろんこの先入れる予定はない。
――キキッ!
そして我が家にたどり着いてカブを降りた俺はかなりの空腹を感じていた。
「なんか、腹減ったな……どうだお前達?」
ターニャとケイに尋ねるとやはり同じように空腹状態だった。
「やー、私もお腹減ってる……、そう言えば朝食べてからチャップスの件で忙しくて何も食べてないよね」
「おじ、なんか作ろう!カレーはちょっとしか残ってない」
……よし。最近中華料理食ってねーから――アレにすっか!
「おい、ターニャ。ケイ。これからスッゲー美味いご飯食わせてやる。その名も『チャーハン』だ!!」
「チャーハン!?なにーそれ??」
興奮したターニャは「手伝うー」と言ってくれた。よっしゃ!始めるか!!
俺は自分で作るチャーハンが最高に美味いと思ってて、ラーメン屋のそれより好きなのだ。
早速台所に向かい材料を確認する!
「ターニャ、準備はいいかー!?」
「ういっ!」
ビシッと敬礼するターニャ。いい返事だ。
俺は自身も食材を用意しながらターニャに指示を出していく。
「今から言う材料を用意してくれ!まず卵3つ」
「あった!」
「あったけえご飯」
「すいはんきに作ってあるー!」
「よし、ここで冷やご飯なんぞ使うのはど素人だ!」
「次、豚バラ肉!」
「ある!いっぱい!」
「次!ニンニク」
「あるっ!」
「よし!ここでおろしニンニクを使うやつはど素人だ」
「白ネギ!」
「一本だけあったー!」
「よし!」
「後は俺が揃えた調味料、塩、胡椒、ブラックペッパーにシャンタン!ぶっちゃけこいつら調味料が味を左右するといっても過言ではないッッ!」
「後は香り付けに醤油とラー油」
「そして最後に使うのは料理酒!チャーハンはパラパラなイメージが強いが最後に少しシットリ感を出す事で食感が良くなるのだ!」
「あ、あとラードも必要だッ!サラダ油でも問題無い気がするがここは拘りたい!」
そして全てを包み込むようなデカい中華鍋にクッソでかいオタマ!これで準備は完了だ!
「ターニャァァァ!いざ調理を開始する!いくぜ!!」
「ふぁい!!」
「刻めッッ!!白ネギとニンニクを微塵に刻むのだ!!」
「ういーーーー!!!!」
白ネギを包丁で縦に十数回裂いてから横に切るだけでバラバラに散らばりコレすなわち微塵切りとなる!よし、いいぞターニャ!!
一方俺が刻むのは豚バラ肉!ここでハムやベーコンを使うやつは分かっちゃいない!!俺は肉は豚バラが全肉最強だと信じているッッ!
同時に炊き立てのご飯を巨大な丼バチに盛ってレンジに放り込みあたためる!
ここで米の温度を上げつつ水分を飛ばすのだ!うおおお!
レンジで米を温めている間にももう一つ温めるものがある!そう、中華鍋だ!
――ガゴッ!
コンロに乗せるや否や俺は炎を最強にして鍋を焼く!白い煙が立ってきたらヤツを投入する!そう、ラードだッッ!
ニュルゥゥゥゥーー!
入れた側から溶けてゆき鍋底にたまる姿はもはや見慣れた油そのもの!
「ターニャーー!卵の準備はいいかーー!?」
「おじ、じゅんび出来たー!!」
「割れ!ボールに3つともだ!!」
「ういーーーー!!」
ガシャッ……、ガシャッ……、ガシャッ!!
「よし、かき混ぜるんだ!箸を斜めにして立体的にな!」
「ふいーーっ!!」
カシャカシャカシャ!!
ピーッ!
出来たぜ――。チャーハンのためだけに存在するご飯がよぉぉ!!
「ターニャ!卵ッ!!」
「ういっ!」
アツアツの鍋に、とかれた卵が注ぎ込まれる――と同時に溜まったラードや鍋肌に触れたその瞬間から卵焼きのように固まってゆく!
「ここだァァ!!」
ボフッ!!
レンジから取り出した米を一気に鍋にぶち込む!!
そして鍋に押し付けるようにオタマで押さえ熱を加え煽り細かくバラバラにしていく!!
素早く、そして最大火力だッ!!炎を緩めるなッッ!
――ジャアアアアアーーッ!カンカン!ジャアアアアアーーッ!!
「塩、胡椒、ブラックペッパー、そしてシャンタン!それからニンニクと豚バラを!!」
「はいっ!おじ!!」
いいぞー!ターニャも乗ってきたぞーー!
俺の言葉に瞬時に反応して調味料を手渡してくれる!
――ジャアアアアアーーッ!!
具材から熱を逃すな!
かつ調味料をしっかり均等に米や肉や馴染ませるべく素早く鍋を煽っていくぜーー!!
「……うっわ!……め、めちゃくちゃいい匂いがしてきた……!す、すごーい」
ケイが感想を述べている。もう少しで出来るぞー!究極のチャーハンがな!!
俺の動きは鍋を煽り熱を与えるもの。すると調味料が具材に均等に行き渡る!
そして白ネギを投入。
――ガゴッッ、ガッガッ、ジャァァアアアア!!
鍋を持つ手がリズムを刻む!
ラー油!
ジャアアアッッ――。
そして醤油を鍋肌に注ぐ!!
ジョアアアア――。
「うおーー!いい香りだっ!」
「……」
無言で真剣な眼差しで鍋を見つめるターニャ。
パラパラになったチャーハンにフィナーレが訪れた。
十分に完成されたチャーハン鍋に、最後に料理酒をサッとかける。
ジュオオオオーー……。
大量の湯気と共に……ついにチャーハンは完成した!